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ねじまき少女(著:パオロ・ガチアルビ)【読書紹介を群像劇で作ってみたら、収拾がつかなくなって(これからは読書紹介を読書紹介する時間(時間ってなんだよ。おれは)だ)とか、変なやつらが】

SF群像劇。なんか賞をたくさん取った作品。

基本的に、化石燃料が枯渇して、交通手段が18世紀化した世界。
化石エネルギーのかわりにゼンマイが主要な動力となり、
遺伝子改造した象みたいなのを動力にしてエネルギーを生産する。
航空便はむちゃ高い飛行船になり、
海面上昇で低地は水没、食糧難。


エネルギーと食料を握っているカロリー企業が暴利をむさぼり、
人間が開発した夢の技術は、バイオハザードとして暴走して、
人間に対する伝染病、植物に対する伝染病、が次から次へと発生し、
人口は激減、農業工業も壊滅。
果ては光学迷彩を身に着けた猫「チェシャ猫」が世界中で勝手に増えて、
人間が作り出した夢の技術製品は、
どれもこれもコントロールを離れて、旧世界を永遠に変えてしまった。

東南アジアではまともに生き残っているのはタイ王国くらいか。

国家権力同士も、経産省と環境省(白シャツ部隊)とが、闘争する。
コロナの時代、中国とかで白い服の人々は憲兵隊みたいなイメージがついたが、あれを本当に軍隊化したような感じが白シャツ隊。
まあファシズムの黒シャツ隊とか突撃隊とかがモデルなんだろうけど、
侵略的外来種を検疫したり、強化された疫病が発生した場所を焼き払ったり、さらに下っ端の隊員はワイロも公然ともらっており、もはやギャング化している。

しかしIT技術とバイオテクノロジーだけは22世紀のレベル。
そんな荒廃した世界のタイ王国で、
ひとりの女性型バイオロイド「エミコ」を巡る物語が始まる。

今は落ちぶれて、風俗の仕事で食いつないでいる。
典型的な社会の下の方で性的搾取されている女性だけど、
そう、彼女はバイオロイドなのだ。
人造人間なのだ。ねじまきなのだ。

(そして、ちょっとだけネタバレすると、彼女もまた、人間のコントロールを離れて世界を永久に変えてしまう側に行く存在になる)

ただ、この時代では、「エミコ」たちは、
白シャツ隊に怯えなければいけない時代だ。
まだエクソダスのエの字も始まっていない。

***

ざっと触りを紹介すると、こんな感じなんだけど。

とにかく前半がねむい!
前半の立ち上がりがすさまじく遅く、
往年のロシア文学を思わせるほど重厚であると言っておこう。
ちょっとポジティブに言い換えた。

後半はスピード感が出てくるものの、
なんというか、
再読するまで内容を忘れていた。

読み終えてしまうと「ふーん」で終わってしまう話であり、印象が薄かった。
まあ、エンタメとしては面白いのかもしれない。

****
もうちっと詳しく。

群像劇のそれぞれの主人公は、
外国のカロリー企業の大使であるアメリカ人白人男性。
彼らはカロリーマンと呼ばれており、タイ社会では外圧のシンボルでもある。
(英米小説なのでもっぱら読者が感情移入しやすそうなひとり)

少し前にジェノサイドを受けた、中国系マレー人の生き残り。
今は、ブラックビジネスでなんとか生き延びている。マフィア王と関わりを持つ。

さらに白シャツ隊の隊長ジェイディー(大佐クラスらしい)
この人は実働部隊の隊長で、この人なりにタイ王国を良くしようともがいている。
が、そこは暴力組織なので、あんなもんがこんなもん的なやつである。

しかも、さらに途中退場して、その視点は副官の女性中佐が継承する。
この女性中佐がまた、あれやこれやあるのだ。

それから黒幕のひとりと言っていいマッドサイエンティスト。
「人類による自然の改造はもはや自然の一部だ。新種を駆逐して元の世界に戻そうなどと無駄な努力はやめて、いっそ人類も新人類になってしまえばよい」
とうそぶく技術急進派、今は白シャツ隊の顧問科学者に収まっている。
方向性が逆なのだが、海外カロリー企業という共通の敵がいるので、団結しているようだ。

そして「エミコ」
差別や迫害、そして搾取をされる女性の代表としての視線だが、
良くある話のようで、よくある話じゃない。
彼女は人造人間ゆえ、ある事件を起こしてしまうのだが、
それが内戦に発展するような事件なのだ。

またこの「エミコ」たちを作ったのが、日本の企業であり、
日本人も出てくる。
あんまり良い役回りではなく、
むしろ「少子化で困ってるなら人造人間を作ればいいじゃない」というね、マッドエンジニアリングに近い側の代表だ。
しかも人類社会共通の見解として、「エミコ」たちを機械製品として扱う。
ものとして見ているんだ。
ある意味、作中でもっともぶっ飛んだ価値観の勢力である。

「エミコ」は、こんな四分五裂の群像劇の中を、生き残っていかなければならない。
まあ、ただ、群像劇なので、あんまり彼女にスポットが当たらない。

☆★★

うーん。
舞台となる未来世界が、ポストブレードランナー的なものを求めていた欧米SF読者に刺さったのかもしれない。
つまらなくはない。面白い。
でも、もうちょっと、魂をかき乱して欲しかったという気持ちがある。

SFの良いところは、既存の倫理観をぶち壊してくるようなとこだが、
今回はそこまで届かなかったという感じがした。(過去形で語ろう)

倫理観の向こう側に行っちゃってるマッドサイエンティストマッドエンジニアリングが、ほんのちょっとしか出てこない脇役で終わっているのが、なんとも惜しい。
まあ、だからこそ親しみが持てるのかもしれない。
「エミコ」でさえ、等身大のキャラクターだからね。

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