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#短編小説
想いが伝わるその日には
チョコが走っていた。
ビル3Fにあるこの喫茶店からは、駅舎と駅前ロータリーのぐるりを見渡せる。チョコはロータリーの外周を駅舎の方へ向かって、他の歩行者を次々に躱して追い抜きながら駆けていく。相当なスピードなのだろう。追い抜かれた人々はみなワンテンポ遅れてからビクリと身を縮めている。
かなり遠くから走ってきたようで、汗の代りに溶けたその身がダラダラと垂れていた。一歩踏み込むごと、足形と飛沫
グループセラピー (1分小説)
快晴のため、今日のグループセラピーは、公園で行われることになった。
私たちは輪になり、芝生の上に座った。
「では、ルミさん。この前の続きから、お話しください」
セラピストは、ネームプレートに書かれた仮名通りに、私を呼んだ。
「はい。初めて大麻を目にしたのは、22歳の時でした。クラブで、見知らぬ男に手渡され、興味本位から使ってしまったんです」
みんな、真剣に話を聞いてくれている。
「それ
バイシクルバイシクル
五歳の誕生日に自転車を買ってもらった。父は幼いぼくには自転車はまだ早いのではないかと言ったが、母はぼくを自転車に乗せたがった。
「早いうちに覚えなきゃ」と母は言った。「できるだけ早く」
そんな母だったが、彼女自身は自転車に乗れなかった。だからこそ、母はぼくを自転車に乗せたがったのかもしれない。自分の叶わなかったことを、子供のぼくに託したのかもしれない。
そうして自転車を買い与えられたわ