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月曜日の図書館61-70

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月曜日の図書館 whispers in the library

月曜日の図書館 whispers in the library

深夜の時間帯は危険だ。判断力が著しく低下している。後から冷静になって考えてみると、どうしてこんなものを?というようなものを買ってしまいがちだ。

先日もネットをだらだら見ていて、図書館のささやき、という名の香水を見つけ、気づいたら購入ボタンを押してしまっていた。

数日後に届いたそれは、とんでもなく甘ったるいにおいだった。血糖値の限界までマカロンを食べさせられる拷問みたいだった。

そもそもわたし

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月曜日の図書館 進化した手当て

月曜日の図書館 進化した手当て

人生で初めて包丁で手を切る。切る、というよりあごの部分が手のひらにずぶんと刺さってしまった。とりあえず患部を押さえつつ作りかけの肉じゃがを電鍋に放りこんでスイッチを入れ、薬局に向かう。最近の絆創膏は進化して全体的にのっぺりしている。これで患部を覆うと自然治癒力が高まるらしい。

じんじんする。

手のひらを使えないと予想以上に不便である。普段は意識していないが、図書館の仕事はつかんだり抱えたり持ち

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月曜日の図書館 よわいやさしい

月曜日の図書館 よわいやさしい

月に一度、新聞のファイルを新しくする。ファイルといっても既製品ではなく、新聞のサイズに合わせた大きな板二枚で挟みこみ、ひもで綴じて保存している。縮刷版を別に買っている新聞や、保存年限がきた新聞は板から外して結束し、倉庫へ。この作業を毎月やる。

外した板はもちろん捨てない。次の月の新聞を綴じるのにまた使う。板によっては酸いも甘いもかみ分けた老人のような見た目になっていて大変頼もしい。ひもも今までは

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月曜日の図書館 笑顔でしかない

月曜日の図書館 笑顔でしかない

地元の雑誌が図書館を紹介してくれるというのでインタビューを受ける。今よく読まれてる本は何ですかと聞かれて絶句してしまったことに絶句した。普段扱うものが江戸時代の古文書だったり、明治の地図だったりの白黒世界だから、すっかり現代の事情に疎くなってしまっている。

まるで下々の民の気持ちが分からない天上人のようではないか。

げかいではあたらしいういるすがおおはやりして、みんなてんてこまいらしいよ。

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月曜日の図書館 スタイル

月曜日の図書館 スタイル

小学生のときぶりに縄跳びをしたら感覚をすっかり忘れていて焦った。どのタイミングで自分の体を浮かせたらいいのかよく分からない。まるで飛び方を忘れた鳥のようだ。

2、3度跳ねると、内臓がゆさゆさ大げさに揺れた。

書庫の本を取りにいくとき、エレベータを使わないルールを自分に課してみる。階段も小走りで駆け上がる。取ってきた本を貸し出し、次の人の本をまた取りに行く、を何セットか繰り返していくと、ほどよい

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月曜日の図書館 リーダーがはじまる

月曜日の図書館 リーダーがはじまる

本を読むとわからないことがたくさんある。
なぜ主人公はあんなことを言ったのか?
この作品で作者は何を伝えたいのか?
どうして自分はこの本をこんなに好きなのか?

わからない。
わからないし、きっとはっきりとした答えもない。
世の中には、わからないままのことがこんなにもある。
それを知りたくて、本を読むのだと思う。

ベテランの先輩たちが異動することになり、繰り上げ当選でわたしが春からレファレンスリ

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月曜日の図書館 世界の股

月曜日の図書館 世界の股

データの整理を終えた洋書が続々と棚に並びはじめた。整理したといっても、アルファベット以外で書かれた本のデータは検索画面では変換できずにしばしば文字化けを起こす。タイトルも著者もすべて????????/????だった本もある。ミステリーが好きな利用者が多いといっても、ここまで謎だらけだと棚から探し出すことすら困難だ。

中国語に訳された最果タヒの本は、著者名に「夕日」という感じが当てられていて、原文

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月曜日の図書館 くよくよ断捨離

月曜日の図書館 くよくよ断捨離

すきあらば日光浴がしたくて、強風が吹き荒れる中、外のベンチで昼ごはんを食べた。全方位から髪の毛を揺さぶられてもげそうになる。観念して明日は髪を切りに行こうと思いながら、目の前で鳩に餌をやるおじさんを隠し撮りした。

わたしはカレーパンのパン粉ひとつ誰にもやらない。

あと数日で異動発表、という時期になると、やたら机を片付けたくなる。引き出しの中身を漁ってみると、身に覚えのないスーパーボールが何個も

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月曜日の図書館 それぞれの一日が

月曜日の図書館 それぞれの一日が

産休中のLちゃんから出産報告が届く。写真を見せるとT野さんが、産まれたてのときはだいたいみんなガッツ石松か鶴瓶に分類されるが、この子はすでに精悍な顔つきをしている、と言う。みんなでスマホを取り囲んでありがてえ、と拝顔した。

おじさんになっても産まれたての顔つきを維持しているなんて、やはりあの二人は只者ではない。

そしてみんなで取り囲んで、と書いたけれど、独身女子の多い職場なので、実際はこの手の

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月曜日の図書館 アンダーグラウンド

月曜日の図書館 アンダーグラウンド

館内の新聞ラックに朝刊を綴じていて、届いていない新聞があることがわかる。新聞店に電話して、なるべく早く持ってきてもらえますかと聞くと、焼き芋を焼いてて手が離せないから無理、と言われる。兼業しているのだった。午後からは人数が増えるので行けるそう。

そんな理由で仕事を断るなんて、日本じゃないみたいで楽しい。受話器越しに、異国の風がぶわぁっと吹いた。

館内でいろんな航空会社が出しているフリーペーパー

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