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悲しみに勝つ祈り【第十九話】
いつしか人は立ち直るときが来るのだろうか。色々なことで人は立ち止まるけど、その度になんとか立ち上がり再び歩き出そうとする。またどこかで立ち止まるかもしれないが、それでもまた立ち上がるのだ。人間はそうしてしつこく止まって歩いてを繰り返す。
その時に、誰かが側にいるというのはとても心強いもので、杖の役割をしてくれるのだ。止まろうとしたら声をかけ、止まったら背中を押してくれる。そんな存在を誰しもが探
雨降りの東京。夕陽は未だ差さず【第十八話】
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2016年 12月7日
東京
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秋も過ぎ、忍び寄る殺意のように本格的な冬が迫っている。暖冬で雪が降らないのだが、カレンダーは容赦なく十二月だったし、誰がなんと言おうとそうなのだろう。私は今月が実は十一月なんだとか五月なんだとか思うのはいつの日かやめた。思うと思わずに関わらず、時は前にしか進まないからだ。
私にはとにかく思案する時間があり、心の休養を落ち着ける時間もあった。ゆっくり
彼方の彼女はわたしの夢で涙を流す【第十七話】
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2016年 11月8日
東京
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夏に綾香と再会し、そして東京に戻った2ヶ月前から、私はいつにも増して彼女の夢を見るようになった。
夢の中ではいつも私の為に綾香は涙を流し嗚咽を漏らし、私はその姿を追い求めて真っ暗で人一人いない地元の街中を果てしなく駆け回る。いつも姿は見えないし、声の出どころを見つけることすらできない。
次第に街は闇が濃くなり、その闇の中に取り込まれてしまうんじゃ
帰省のおわり【第十六話】
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2016年 9月2日
地元〜東京
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8月も過ぎ、ゆっくりとした秋の足音が聞こえてくるのは私だけではなかろう。流石に紅葉や落ち葉がという季節ではないが、8月が終わったという既成事実そのものが、秋の薄ら寂しい気分を演出しているのだ。
私も今日、実家をあとにして東京へ帰る。先輩は半月程の滞在期間でしっかりと私の両親に気に入られ、このままでは本当に私の婿となりかねない様相を呈し、私は毎日
告白と真実【第十四話】
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2016年 8月20日
実家
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お盆も過ぎ、いよいよ手の空いた夏季休暇となっていく。家族がお盆で13日から14日の家を開ける間だけ、先輩は駅前のホテルに戻り、私達が帰宅するのに合わせて先輩も戻ってきた。
気を使わせると言ってホテル泊に戻ると言っていた先輩だが、両親が彼を気に入ってしまい、無理矢理にでも家へ連れ帰ってしまった。息子が欲しかった父は特に彼を気に入り、毎晩、晩酌に付き合
残された手紙【第十三話】
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2016年 8月12日
実家
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『誰も知りえない井戸の底の様な場所に、いつも私はいた。
いきなりこんな話から始めてごめんなさい。でもこれはナチス・ドイツのホロコーストの様に変えられない事実であり、まずあなたに知っておいて欲しい事だから。
逃れようのない事実というものはとても冷酷になれるもので、忍び寄る足音は耳の中で大工仕事をしているのではないかと思う程にいつも鳴り響いていた。頭を叩き
逆回りの時計【第九話】
私は自分の失いつつある何かに怯えることがある。何かが何かは不明だが、とりあえずそれは何かだ。錨を下ろし忘れた船舶のように波にさらわれてしまいそうだ。ならば錨をとりあえず下ろせばいい。もっと的確に言えば、私が自分自身に自己紹介をして自分自身を再確認をする。そうすれば少なくともこれ以上自分自身を見失うことはないかもしれない。
ただ、私は自己紹介というものがあまり好きではない。人前に出ると緊張す
ある日の日常と「私」【第八話】
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2016年 7月17日
東京 自宅
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暑い、とにかく暑い。特に裕福ではない私は、とにかくエアコンはつけまいとしていたが、雨が降って湿度がとにかく高い今日に限っては流石に誘惑に負けそうだった。外は無遠慮な雨音が窓を叩き、外出すら許さない。3連休の中日でそもそも外に出る気力もないので、今日は家で過ごすと決めているのだが、これだけサウナのような状態になるとは思ってもみなかった。
湿度と
Sanctuary 【第七話】
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2016年 7月15日
東京
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確かに私には大学講義が終わってからの用事はない。だがそれが先輩と行動を共にする理由にはなりえないと思っていた。
いつも思うのだが何故かこの人は私によく絡む。彼がゲイだと知る前からそうなのだが、最初は私に気があるのではないかと考えたこともある。だけれど、私にはその気はない。あったところで私は男に興味はない。もしかしたら同類と思われているのかもしれない
レゾンデートル 【第六話】
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2016年 6月21日
東京 【Libera】〜自宅
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私は今、私というものを見失いかけている。そんな私がレゾンデートルについて詳しく話すというのは、車屋に魚のさばき方を教えるほど意味のないことだ。そういった状況下では存在価値の意味をなすレゾンデートルも、その意味を失してしまう。そしてさらに言うと、本来の学生としての私の本分でもある経済を学ぶことも、今の状況ではそもそも意味がないと