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【1話完結】 泥沼ナースST 【1万文字】

わたしは、春に看護学校を卒業し、とある県立の病院に勤務を始めた新人の看護師です。

元々は地元の勤務先を探していたのですが、なかなか条件や、お給料がいい所が見つからず、少し離れた所にある大規模病院がちょうど大人数の求人があったので、エントリーしたらあっさり採用となりました。病棟勤務なので、看護師尞に入寮することを勧められましたが、お金は少しかかるものの、近隣のワンルームマンションに入りました。と言うのも、わたしは女子だけの空間って本当に苦手で、あの、何と言うか、噂話と妬み嫉みばかりが耳に入ってくるあの集団が耐えられなくて、病院の総務部が提携している物件に入居したのでした。

勤務を始めてしばらくは、外来をこなしながら、色んな病棟をヘルプと言う形で回り、一通り回り終えたところで、一応希望を提出するものの、あくまで形だけで、基本は病院の状況や都合で、希望が通ることはありません。子供が好きだから小児病棟、と言う風にはならないのです。私は当初、外科病棟を希望しました。外科だと患者さんが若い人が多く面倒が少ないと思ったからです。しかし実際に配属となったのは第三内科、恐らくは一番面倒な病棟に配属となりました。この病院は、内科病棟は第一から第三まで分かれており、第一は主にガンや重度の内臓疾患で、かなりシビアな患者が集められます。第二は比較的軽症な患者、そして第三は老人病、つまり痴呆などを含んだ老人特有の症状の患者さんが集められています。面倒な病棟と言うのは、老人が集まっているからで、徘徊や失禁、時には暴力沙汰もあったりします。看護と言うよりは介護が仕事の中心になります。この病院は療養型ではないので三か月経つと基本的には病院を退院しないといけないのですが、実際にはなんだかんだ理由を付けて三か月を優に超える患者もいます。噂では病院にいくらか寄付をしているという話も漏れ伝わってきたり…… 公立の病院なんですけどね。
わたしは、実はサラリーマン経験もあり、新人としては結構年齢がいっている方です。いわゆるアラサー、まだ辛うじて二十代ではありますが、同期で赴任した子は二十歳だったり、大学出たてだったり、みんな若いです。高卒で県内の会社に入ったものの、給料も安く、休みも取れないいわゆるブラック企業で、二十五歳の時に一念発起して退職して看護学校に入りました。わかっていたことですが、若い子たちの会話について行くことはしんどく、まあ、仕事に差しさわりが無い感じで付き合う程度の表向きの関わりだけでした。しかし、一カ月で最年少の新人看護師が辞め、もう一人の子も相当ぐらついています。仕事がハードであることも理由なのでしょうが、やめたくなる理由がもう一つあります。それは、病棟師長の高橋の存在でした。彼女は二十歳くらいからこの病院で働いており、年齢はわたしよりも三歳ほど上で、病院内でも最古参と言ってもいい位置づけで、この病棟もかれこれ五年以上は勤続している話でした。いわゆる「お局様」と言う奴で、陰湿ないじめみたいなことが、病棟内で行われていました。最年少の子は着任早々、師長の高橋ともめ事を起こしました。と言っても、高橋たちの雑な仕事ぶりに几帳面な最年少が「そんなんでいいんですか?」とケチをつけたことが始まりです。勤務中の無視に始まり、彼女の私物を隠したり、わざと嘘の連絡をしたり、と、子供じみたやり口ではあったけど、最年少の子には効果てきめん、一週間で来なくなりました。

少し仲良くなった他の看護師の話では、この病棟は仕事自体は他の病棟よりは楽ですが、痴ほう症の老人が多く、精神的にストレスがかかる病棟で、誰も配属されたくない病棟だそうです。実は高橋も、ずっと転属を希望しているものの、もう何年も希望を受け入れてもらえないという話でした。病院の方も、高橋に押し付けている方が楽なのでしょう。そのせいもあってか、高橋は数年前からハラスメント体質を隠さなくなったということです。

そんな高橋と一緒の早番勤務の時でした。夜勤への申し送りが終わったあと、更衣室で高橋がわたしに「合コン、セッティングしてくれない?」と言ってきました。高橋と、取り巻きの看護師市原、そしてわたしの三対三、だそうです。断ると厄介なことになるのはわかってます。わたしは、重い気持ちで、唯一、異性の友達の啓介に連絡を取りました。

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