展覧会レポ:青森県立美術館「AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展」ほか
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青森県の美術館巡りの一環で、青森県立美術館「AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展」に行きました。その感想を書きます。
結論から言うと、青森県民もそうでない人も、是非とも行くべき美術館だと思いました。それは主に、1)大自然と共生するハイセンスな建築、2)シャガールの巨大すぎる作品を設置した「アレコホール」が圧巻、3)充実した奈良美智のコレクションによります。
企画展に行かなくとも、コレクション展で十分に楽しむことができました。なお、一部のシャガール作品は2027年までの展示のようです。早めの訪問をおすすめします!
▶︎訪問のきっかけ
青森の美術館巡りの一環として、弘前れんが倉庫美術館の後、青森県立美術館に行きました。現代アートが好きな私にとって、いろんなメディアに登場する青森県立美術館は、死ぬまでに行きたい美術館の一つでした。
▶︎美術館へのアクセス
青森県立美術館は新青森駅からバスで約10分。バスは、土日祝は30分に1本、平日は1時間に1本の間隔で出ています(ねぶたん号:片道300円)。時間を調節する場合は、新青森駅内にカフェがあるため、時間を潰せます。
青森県の美術館巡りをしていて、最も注意が必要だと感じたのは、電車・バスに乗る時間管理でした。新青森駅から青森駅の乗車時間は約5分です。しかし!電車は約1時間に1本しかないことに加え、バスも30分〜1時間に1本しかありません(場所によっては数時間に1本😨)。
そのため、1日で複数の離れた場所を巡る場合、いかにタイミングよく電車・バスに乗る計画を事前に立てることが重要だと痛感しました。
住所:青森市安田字近野185
▶︎青森県立美術館とは
青森県立美術館は、2006年7月にオープン。三内丸山遺跡の真横に位置します。メインの所蔵作品は、棟方志功や奈良美智など、青森県を郷土とする作家たちの作品です。もちろん、海外を含めた青森県以外の作家の作品も所蔵しています。
独特な建築は、青木淳氏によるもの。美術館に隣接する三内丸山遺跡の発掘現場の壕から着想を得て、地面が幾何学的に切り込まれているそうです。
▼青木淳氏の建築による「エスパス ルイ・ヴィトン東京」の展覧会
また、青木淳氏は京都市京セラ美術館の改修を手掛け、現在は館長も務めているそうです。
建物全体が、とても複雑な構造でした。まず、外からの入り口が計7つもある!いきなり戸惑いました。また、展覧会場に行く動線が、地上1階→地下2階→地下1階→地下2階→地上1階と複雑です。それぞれのフロアは、1フロアがべたーっとあるわけではなく、階層ぶち抜きのホワイトボックス空間があるなど、まるでダンジョンのような感覚をもちました。
そのように地下に進む構造になっていることにより、来場者に遺跡発掘のような感覚を伝えているのかな、と感じました。
▶︎AOMORI GOKAN アートフェス2024 前期 コレクション展
この日は、コレクション展のほかに企画展「フランク・ロイド・ライト 世界を結ぶ建築」も実施していました。しかし、私は時間が十分にないため、コレクション展のみを鑑賞しました。
企画展チケットも買うか悩みましたが、結局、買わずで正解でした。コレクション展を鑑賞するだけで想定以上に時間がかかってしまったし、バスの本数も少ないため、振り返れば、企画展を見る時間がなかったです。
✔️マルク・シャガールによるバレエ「アレコ」の舞台背景画
コレクション展の最初の部屋が、縦・横21m、高さ19m、四層吹き抜けの大空間となっている「アレコホール」です。
この部屋には、全4点から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画が展示されています。1、2、4幕は1994年に青森県が購入、3幕はフィラデルフィア美術館から2027年までレンタル中です。
ただただ「大きいって単純にすごい!」と圧倒されました。どの作品も約9m x 約15mと巨大です。私のいつも使っている単焦点レンズでは全く収まりませんでした。こんなに広い空間に、こんなに巨大な作品を見たのは初めてかもしれません。青森県立美術館で最も印象に残った作品群でした。
ロシア生まれのユダヤ人であるシャガールが、ナチス・ドイツから逃れた亡命先のアメリカで制作に取り組んだロシアの作曲家によるバレエの背景画です。祖国に対する思いがヒシヒシと伝わってくる作品でした。
✔️奈良美智:Harmlos sein 純粋なるもの
奈良美智氏は、1959年に青森県弘前市生まれ。その後、青森県立弘前高等学校卒業、愛知県立芸術大学に進みます。青森県立美術館は、奈良美智氏の作品を170以上所蔵しています。
私が奈良美智氏の作品をまとめて見るのは、横浜美術館(2012年)の展覧会依頼かもしれません。個別に見るよりも、まとめて作品群を見た方が、アーティストの世界観がよく伝わってくると思いました。
奈良美智氏の絵画を見る機会はありますが、立体物はあまり見たことがありませんでした。彼の作品は、反戦などの思いから怒っている顔も多いです。しかし、見ていると、不思議と心が落ち着いたり、和らぐことができます。来場者もみな、笑顔になって鑑賞している様子が印象的でした。
奈良美智氏の展示に限ったことではありませんが、県立の美術館にしては、建築、所蔵作品、キュレーションのセンスが抜群だと思いました。企画展に行かなくとも、コレクション展だけでも十分に満足できました。
✔️棟方志功:交友から生まれたコレクション -棟方とコレクター-
棟方志功は、1903年、青森市生まれの板画家です。東京国立近代美術館で「生誕120年 棟方志功展 メイキング・オブ・ムナカタ」(2023年)を見に行った方の感想をnoteで散見し、記憶に残っています。
棟方志功氏が亡くなった1975年、青森市に約2,000点を所蔵する棟方志功記念館が開館しました。しかし、つい最近(2024年3月31日)、記念館はコロナによる財政難、施設の老朽化などにより閉館となりました。
記念館の閉館後、収蔵している作品はすべて青森県立美術館で保管され、2024年7月からこの展示室の拡張が予定されているそうです。
青森県立美術館は、使っている什器がどれもおしゃれでセンスがあると思いました。また、椅子がたくさんあることで、ゆったりと鑑賞できます。青森県立美術館は、大自然と共生・一体化していることに加え、景色も良くて気持ちが良いため、1日過ごせる美術館だと思いました。
✔️美術館堆肥化宣言
「美術館堆肥化宣言」と題したアート・プロジェクトをベースにしたコレクション展。正直な感想は「微妙…」という感じでした。
青森県五所川原市出身の工藤哲巳の作品も展示されていました(撮影不可)。工藤哲巳らしいドキッとする作品のため、ファミリーやカップルがあの作品を見たらどのような空気になるのか、怖いもの見たさが込み上げてきました…。
✔️その他展示
「AOMORI GOKAN アートフェス 2024 かさなりとまじわり」として、エントランスギャラリーに展示している作品。目玉がギョロギョロ動く仕様で、いい意味で不気味です。近くにいた男性が「置いてもいいけど、エントランスに置くものじゃないよね」と苦笑していました。私も「ははは、確かに…」と思ってしまいました。
美術館の離れに八角堂があります。この中には、奈良美智氏《森の子》1点が展示されています。周りを重厚なコンクリート、れんがに囲まれており、何やら宗教的な施設のような印象を受けました。
なお「コミュニティギャラリー」にも展示品があったようです(全然気付きませんでした😨)。明確な看板を立てるなどして誘導していただきたいです。
▶︎まとめ
いかがだったでしょうか?交通の便は悪いものの、大自然と一体となった美術館には、1日過ごしたい開放感があります。特徴的でセンスある建築は、2006年にオープンしたとは思えない現代的なセンスを感じました。
また、コレクション展だけでも十分に満足でした。特に、シャガールの巨大作品に圧倒されるアレコホールがお気に入りです。奈良美智氏の作品群もステキでした。青森県民だけでなく、青森旅行に来た際は、マストで寄るべき場所だと思いました。
▶︎今日の美術館飯
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