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あなたの命を いただきます

 すばらしい食事を前にして、心がうきうきと弾んでいた。食べる、ということは、生きることそのものなわけで、つまり食事、というのは生きる上でとても必要な、これ以上ない幸福なことなのだ。

 私はテーブルに並べられた数々の食事をゆっくりと眺め、香りを楽しむ。未だ調理を続けている厨房からの音も耳に心地よい。

 そこには、本当に様々な、様々な動物、植物が使われた食事が並べられていた。

 足もあれば手もある、体もあれば頭もある、内臓もあれば脳もある、血もあれば乳もある。

 しかし、仲間のひとりはこれらの食事を見て嫌悪の表情を浮かべる。

「こんな他の生き物を食べて幸せなのかい?」

 私はその言葉に思わず失笑し、にやにやの止まらない顔で

「何を言ってるの? 食べることは生きること。それに、何かの命をいただいて、私たちの命を繋いでいるのだから、こんなに幸せなことはないわ」

 その言葉に顔をしかめた仲間は、捨て台詞を吐き捨てることもなくどこかへ行ってしまった。まったく、この舟はそんなに広くないのだから、また鉢合わせするだろうに。

 それにしても、ここには本当にすばらしい食材が豊富に揃っている。しばらく、ここに居を構えるのは悪くない。どの生物とも、言語的にはわかりあえなかったけれど、命が命を育むことには、変わらないはず。そう、命であることに変わりはないのだから、何も、問題ない。

 何やら騒がしいと思ったら、厨房から逃げ出した生き物がいる。もちろん、何を言っているのかはわからないが、何かを大きく叫びながら、走り回っている。手には厨房から手にしてきたのであろう刃物を持ち、振り回している。危ないこと、この上ない。

 すぐに警備のものが来て取り押さえ、厨房に引き戻された。二本足で動けるこの生き物には、注意が必要かもしれない。後で注意喚起と必要事項について話し合おう。

 ふと、テーブルに乗せられた頭部に目がいく。ちょうどあの生き物だ。虚な瞳には何も映されてはおらず、覗き鏡にしても私の顔も映らない。…………。

 さて、そろそろ食事を始めよう。

 私は、祈りを捧げるようにし、命をいただき、命をつなげることに感謝しながら、

「いただきます」

 と、口を開いた。

いつも、ありがとうございます。 何か少しでも、感じるものがありましたら幸いです。