処方薬失敗談

タイガー・ウッズの事故で、以前の薬物使用疑惑の話が出ていて(彼の場合、詳細や真偽はわからないが)、何やら嫌な言われ方がしているのだが、ちょっとしたことで、普通の処方薬でも嘘でしょ!?っていう目に遭うっていう私の失敗談。

良い子は真似しちゃいけませんよ……というより、みんな気をつけましょうね、というお話。

以下、前提と目次。

私の持病と体質
社交不安障害、パニック障害、鬱(発覚順)。
精神疾患治療のメインである一部系統の薬が一切効かず、別方向から投薬治療中。
効く薬は効き過ぎる体質。お酒には強い方。

目次
・飲み間違えた!
・1杯入って……
・カフェイン!

では、話を始めよう。

飲み間違えた!

もう、これはただただ単純に飲み間違えた。
まだ飲んでいないと思い込んで、同じ薬(夕食後に処方されている数種類)をダブって飲んでしまった。

私の場合、処方薬がごっそりあり過ぎて薬局で分包(飲むタイミング別に個包装)してもらっているため、途中で気づくこともなくザラッと飲んでしまい、効果が出始めてから「これはやっちまった!!!」と気付いた。

べつに依存でも何でもなく、凡ミスによるオーバードーズ。

どうなったかというと、めまいで立てなくなった。いや、立てないどころか起きて座ってすらいられなかった。ぐわんぐわんと世界がまわった。
私の場合、めまいが酷く、それを抑えるための薬がけっこうしっかり処方されているのだが、それが見事に逆に振れた気がした。船乗りが陸に上がると陸酔いするようなものなのだろうか……と、床に転がったまま考えた覚えがある。
ちょっとでも意識が遠退くようなら救急車だなと思ったが、処方箋と効果を思い出し、たぶん大丈夫じゃなかろうかと、ひとり「体感嵐の船底」のような状態でゴロゴロ転がっていたら1時間くらいでピークは脱した。さすがに寝るまで(5時間ほど)ふわふわはしていたが、翌日には全く引きずらなかった。


1杯入って……

そりゃ1杯入っちゃダメ。
わかってる知ってるごめんなさい。
アルコール厳禁。

ただ、ちょっとヘンな話なので書いておく。

前提として、私はお酒に強い。
ビール、ワイン、日本酒、何でも来いだし、ウイスキーをロックで飲んでも顔色が変わらない。
持病が分かったときにはもう成人していたので、服薬を始める前に酒に強いのは実証済みだった。

で、本題。
ヘンな話なので……と言った所以だ。

結論から言うと、薬を飲み忘れたときに軽く1杯入ってフラフラになった。

これはもうひたすら「ごめんなさい」でしかないのだが、持病が発覚し、薬を処方されるようになってからも、お酒は飲んでいた。
お酒は好きでも晩酌をしないタイプなので滅多に飲まないのだが、機会があるたびにチビチビとアルコールにチャレンジしては「………何事もおきないね……?」と量が増え、通常運転の量になった。

本当に何事も起きなかったのだ。
何事か起きたのは、処方薬を飲み忘れた時だった。

私の持病のこともよく知っている古い友人と食事をしていて、いつものように一杯入っていた。
参考までに、飲んでいたのはサイゼ○ヤのランブルスコ、ロゼ。デキャンタの小さい方を二人で分けた。

普段に比べれば、飲んでいなかった。飲むときはボトルが空くし、グラッパにまで手を出す。何なら2軒目に行く。デキャンタ半分なんて、かなり大人しい。
食事の途中で薬を忘れたことに気づいたが、行き慣れた店(というか店舗)で自宅も近かったことから、まあ大丈夫だろうと 私にしては珍しく、特に気に留めなかった。
が、食事を終えて立ち上がったら、おかしかった。
足元が覚束ない。頭ははっきりしているのだが(もちろん酔っぱらい仕様ではあるが)、体がついてきていない。傍から見たらたぶん千鳥足。感覚的には布団の上をハイヒールで歩く感じ。

「これは酒がまわったときの感覚だ」というのに気づいた。

飲兵衛には飲兵衛なりの経験値がある。
自分がどの程度酔っているかは感覚でわかるし、強いとはいえ限界もわかっている。

酔いの感覚、量の限界、どちらも気づかずにぶっ千切った時点でそこそこの異常事態だ。

自宅からそれほど遠くない場所で心底、良かった。

フラフラになりつつも(途中、道行く人に何度か心配されながら)家にたどり着いたが――汚い話で申し訳ない――そのままトイレに直行して吐いた。酒で吐いたのなど、その時と21歳の正月に飲み過ぎとおせち料理の食べ過ぎで吐いたときの2回だけだ。

酒を飲んだのだから自業自得だが、量がいつもより格段に少なくて、薬を飲んでいないのだから腑に落ちない。
薬を処方されていない時期に浴びるほど飲んでも、二日酔いすら経験がないのに。

だから「ヘンな話」なのだ。


カフェイン!

私の処方されている薬は、その特性上、どうしても眠くなるものが多い。
そして、生活しているうえで眠くなっては困ることは多々ある。
それにカフェインで対抗しようとして、エラい目に遭った。

治療途中のため、私の薬の処方は未だにコロコロ変わっているが、その当時の処方はとにかく、とにかく眠かった。起きるのが辛く、半日かかってやっと目が覚めるような状態。

その日は友人と観劇の約束があったので、必死で起きて家を出た。あまりにぼんやりしていて、最寄り駅で缶コーヒーのブラックを1杯。
電車に乗って座ったはいいものの、40分足らずの道のりを睡魔に負け、危うく乗り越しそうになった。この時点でまだ目が覚める気配なし。
友人と待ち合わせ、早めの夕食を取り(この時に処方通りに薬を飲んだ)、睡魔に対抗すべく、とどめにエスプレッソを飲んだのだが、どうにも眠気は遠退かない。相手は付き合いの長い友人なので「キテるね、大丈夫?」と言われ、傍から見てもデロデロかと思って最終手段に出た。
と言っても、ただのエナジードリンクだ。レッド○ルのショート缶。パーっと飲んで、観劇予定の会場に入った……ら、地面が消えた。

目眩がするとか、平衡感覚がないとか、そういうことじゃなかった。普通に歩いているつもりなのに、視界があらぬ方向に傾いでいくのだ。気持ちが悪いとか、目が回るとか、そういう感覚は一切ない。感覚は全く普通なまま、強いて言うなら正常な引力が消えた。
傍から観るとどうやら ふらーっと傾いていたようで、友人が私の腕を掴んで引きもどしながら歩いてくれた。引き戻された時にだけ、がつんと引力が掛かっていたのを覚えている。後日の友人に曰く「座らせなきゃ!と思った」。

さて、目的は観劇だったのでそのまま席について(立てない、歩けない以外の不調がゼロだったのもあって)観劇したわけだが、意識はほぼ眠いのとかわらない状態だった。睡魔に対抗したかったはずなのに……と頭の片隅で思ったわけだが、1幕途中で、いきなり感覚がクリアになった。
酷い眠気が、何かのきっかけでいきなりスッキリしたこと、誰にでもあると思うのだか、まさにあれだ。綺麗さっぱり、しっかりハッキリ、「あ、いま抜けた」と思うくらいわかりやすく、ぼんやり状態が解消した。幕間に恐る恐る立ち上がって歩いてみたが問題なし。帰りも問題なく電車で帰宅した。

おかげで、カフェインには懲りた。薬との相性があんまりよろしくないのは認識していたが、さすがにあそこまでは想像していなかった。
徹底排除してしまうのは却って怖い気もするので完全なカフェインレス生活にはしていないが、さすがにもう、エナジー飲料を飲もうとは思わない。


以上、私の処方薬失敗談だ。

アルコールについては全力で私の自業自得だが、飲み間違いとカフェインについては単純なミスと想定外で、やりたくてやったことじゃない。

処方薬に限らず、薬を飲むときは皆さん、気をつけましょう、という話。

で、私の言いたいのは、どちらかと言うとここからがメインだ。

ニュースなんかで「薬物の過剰摂取」と言われると、それが事実だとしても、なんだか嫌なイメージがしてしまう。
例えば違法だったり、強度の薬物依存だったり。

処方薬は薬物だけど違法じゃないし、間違えて薬を飲み過ぎてしまったのは、依存じゃない。
処方された量が、本人にとっての適量を越えていたということだってある。

もうちょっと私の話をさせてもらうと、私は薬が効き過ぎてしまう体質だ。遺伝からくるもので20人に1人もいないくらいらしい(数字があやふやで申し訳ない)。
つまり、まったくおなじ症状をうったえる人が私を含め20人いて同じ薬を同じ量処方されたら、薬の効きすぎか副作用で、私には他の19人にはない異変が起こる可能性があるということだ。
起きている現象は過剰摂取のそれだろうが、それは、薬が私の適量を超えているだけで、私が薬を過剰に摂取したわけじゃない。

ついでに言うと、私の経験上、精神疾患の投薬治療には医師で大きく当たりハズレがある。
ハズレを引くと治療にならないばかりかメンタルも体力も経済力も時間も削られる。今のクリニックに掛かるようになったから言えることだが、以前、私が掛かった医者は投薬治療という点において、完全にヤブだった。

話を戻す。

こっちは真面目に治療している。
それが、ただの凡ミスで薬を飲み間違えたり、カフェインが有り得ない勢いでブースター効果を発揮して立てなくなったり、そもそも薬が効きすぎる体質でいろいろ弊害が出たりすると、くっついてくる言葉が「薬物の過剰摂取」または「薬物の過剰摂取による体調不良」。

聞こえが悪い。
非常に、非常に、非常に、聞こえが悪い。
繰り返すが、こっちは真面目に治療している。

だから、お願いがある。

もし、あなたの身近な人が薬物の過剰摂取や副作用で倒れたと聞いたら、反射的な嫌悪感を抱く前に、ちょっと心配してやって欲しい。

そりゃ、本当に使っちゃダメな薬だったり、推奨されない使い方だったりする可能性もある。

けれど、ちゃんと処方された薬を飲み間違えただけかもしれないし、処方した医師が想定した以上に効いてしまっただけなのかもしれない。

真面目に治療に取り組んでいればいるほど、反射的な嫌悪感や誤解が回復を遠退かせる。だから、特に身近な人にはきちんと理解をしてもらいたい。

処方薬と共に治療している人間の、切実なお願いだ。

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