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【夜の舞台裏 #002】「旅の果てに見つけたもの」

【第1回】の記事はこちらから


どうも!ナツオです。ワーキングホリデー2か月目はメルボルンを離れ、”世界一美しい島”タスマニアに移りました。現代のゴールドラッシュと呼ばれるタスマニアのフルーツピッキングジョブを最近始めたところで、世界中のワーホリ勢が期待に胸を膨らませこの地に訪れています。僕もそのうちの一人。うまくいくといいけれど。。。

ブルーベリーピッキングの様子

友人のナイトアウルと同様に、僕自身も将来的に映像作品や独自のメディアを作ったコンテンツを配信することを目標にしています。今回のインタビュー記事を読んで気に入ってもらえたら、是非フォローしてください! (instagram:@kohhbeme filmmarks:@natsuo007)


〈第2回〉 【夜の舞台裏】

「旅の果てに見つけたもの」

~「ベイエリア・トライアングル」を題材に~

自分の生にリアリティを持てないような主人公が冒険を通すことで、友人が彼の心の中に現れることになる。輝いていたあの頃が過ぎ去ってしまったことを、現在の時間軸で感じることになる。それは決して悲しい終わり方ではない、死を受け入れることができるようになったという成長がそこにはある。そして感じることで美しい過去に会うことができた。


ナツオ(以下「ナ」):今回は扱うのはベイエリア・トライアングル。記者としてうだつの上がらない主人公がサンフランシスコで友人が殺される事件に巻き込まれる。事件を追っていくうちにアメリカ社会の裏にある陰謀に巻き込まれていくことになる。これはもう王道のカリフォルニア州探偵ものだよね!「ロング・グッドバイ(「長いお別れ」の映画版)」や「インヒアレント・ヴァイス(「LAヴァイス」の映画版)」に「アンダー・ザ・シルバーレイク」。一応これらの舞台はLAではあるけども。
ナイトアウル(以下「夜」):絶対言うと思った!その3つが下敷きになっている部分は多いかも。

:これらの作品では主人公のキャラクターや冒険して出会う人やモノを通して、カリフォルニアひいてはアメリカ文化の凋落とそれに対する憧憬が描かれていて、そこには作者による現代都市への批評眼が強く反映されている。確かサンフランシスコには学生時代に一年くらい留学していたよね?その時に見て感じたことが色々あるんだと思う。
:留学にいく前はサンフランシスコってITがとても盛んな街で、観光名所もたくさんあるし、すごく魅力的に思えたんだよね。でも住んでみると大変だった物価がめちゃくちゃ高くて。マックで安いバーガーセット頼んでも1000円以上はしたかな。
:めちゃくちゃオーストラリアと一緒だ。コンビニで水が4ドル、サンドウィッチが7ドルもしてマジでビビったよ。
:アメリカの都市は特に資本主義が加速していて格差がすごい。ITの高所得者とホームレスが同時にたくさんいる。日本の平均年収450万円はサンフランシスコではかなりの低所得者になってしまうんだよね。
:そういった実感が、殺された友人の証券マンという設定に生きているみたいだね。しかも彼は学生時代には主人公と政治運動に取り組んでいたっていう。カウンターカルチャーの象徴から加速資本主義というまさにカリフォルニアがたどってきた道に思える。


うまくいかない海外生活


:さっきから口ぶりにサンフランシスコという土地に対して明るくない気持ちを感じるけど、留学生活は大変だった?
:そもそもの海外生活への不安も重なってかなりのバッドに入っていた時期があったんだよね。学業もままならない状態が続いて、ただちょうどコロナ が始まったことで授業もなくなってラッキーだった。そんな何もすることがない時に友達が気を使って気晴らしに観光名所に連れて行ってくれたんだよね。でも実際行ってみたら、楽しいとかじゃなくて強烈な違和感を感じた。何かアンテナに引っかかるような、なんかあるぞ...って。
:今作の主人公と同じように、サンフランシスコに何か隠された闇があると思ったわけか。
:そう、何か陰謀とか闇の歴史があるに違い無いって感じたんだ。主人公みたいにそれらの場所について自分なりに調べてみて、このダビデの星✡のアイデアを思いついたりしたんだ。

そしてそれらの中心部にはすでに承知の通り、ユダヤ教改革派の会堂テンプルエマニュエルがくる。これで必要なピンは全て揃った。それぞれの地点を結んで地図を俯瞰して見た。すると、ウェーブオルガンを中心にベイエリアを覆う巨大なダビデの星が浮かび上がるのである。

ナイトアウル短編作品「ベイエリア・トライアングル」

ゴールデンゲートブリッジはヒッチコックの「めまい」でも重要なシーンで登場する。絶対ヒッチコックも何か感じてただろうなって思った。

映画「めまい」(1958)

でもいくら調べても出てきたのは、ただの世界史的な背景だけだった。

:強い想いを感じて探究したのに、それが自分の勘違いでしかなかったってわけか。期待していた分ガックリくるような、トホホ...って感じ? 今作のそういうところも先述の映画3作との共通点を感じさせられた。マクガフィンを追い求めれる過程で自分の実存みたいなのを取り戻しかけるけれど結局それは空回りに終わるっていう。
:さっきあげていた3作のなかでも「アンダー・ザ・シルバーレイク」には共感させられるところが多いな。期待に胸膨らまして都市に来たけれども思った通りにいかなくて、ただ無為にダラダラ過ごす若者。あの感じが本当に重なる笑 実際今作のストーリーの型に採用したんだ。ロックスターみたいにビッグになろうとLAにきたけれど、それが虚構に過ぎないと明かされてしまい意気消沈してしまう。そのストーリーを自分なりにしてみた。

映画「アンダー・ザ・シルバーレイク」(2018)

:その気持ちわかる。僕もメルボルンでの生活はあまりうまくいかなくて、今は円安の影響で日本人ワーホリ勢が飽和していてバイトしたくてもまず一か月は見つからない状況なんだよね。僕も最初は職が見つからず日々を無為に過ごしていた。期待していた分、しんどかった。なんかすごく惨めな気分なんだよね。あぁ、俺なにやってんだろう…って


彼が取り戻したもの


:そう聞くと救いのない話だなと感じる。なにも主人公は得られなかったわけでしょ? 学生時代、競い合っていた友人は成功しているのに、自分は記者として忙しい日々に消耗している。友人の死をきっかけに記者魂に火がついてサンフランシスコを調べまわるけれど、結局友人を巻き込んだ陰謀も社会の闇も存在しなかった。全ては徒労に終わっただけだった。
:救いは用意したよ。最初主人公は友人が死んだのに、陰謀の探究に夢中になってちっともその死を悼もうとしないんだよね。でもこの探究を通して、最後友人の死を受け入れたんだ。だから彼はラストに涙を流すんだよ。

ぼくはテレビの電源を消してホテルを出た。すぐ目の前のユニオンスクエアの広場を歩きながらサンフランシスコの涼しい空気に鼻を啜らせた。

ナイトアウル短編作品「ベイエリア・トライアングル」

自分の生にリアリティを持てないような主人公が冒険を通すことで、友人が彼の心の中に現れることになる。輝いていたあの頃が過ぎ去ってしまったことを、現在の時間軸で感じることになる。それは決して悲しい終わり方ではない、死を受け入れることができるようになったという成長がそこにはある。そして感じることで美しい過去に会うことができた。

:なるほど!それも件の米文学(映画)の一つの型だよね。「インヒアレントヴァイス」で主人公が昔の恋人との戯れを通じて、70sLAとお別れを告げたことも想起させられる。チャンドラーやピンチョンの系譜にある村上春樹の初期羊三部作、特に「羊をめぐる冒険」はまさに今作と同じ帰結を持つよね
:羊三部作大好き。「羊をめぐる冒険」とか最高!
:僕は「風の歌を聴け」が一番すき。最初の作品が一番作家性が濃くて読んでて満足度が高い。音楽とかでもついついデビュー作が一番って言ってしまうんだよね。そのあとの成熟を否定するつもりはないんだけど。


加害者意識の欠如


:ここでユダヤの歴史の話がでできたことに対する何か意図みたいなのがあれば教えて欲しいな。
:たまたまユダヤの歴史に接触したってだけで、あえて出した理由とか政治的主張みたいなのはないんだけど、それで言うとサンフランシスコのユダヤ人ってのは改革派ってのが多いんだよ。19世紀のゴールドラッシュの時代から徐々にドイツから移り住んできたんだ。彼らはリベラル寄りな人たちで、今回のイスラエルのガザ侵攻に対しても絶対的な肯定をしている人はむしろ少ないぐらい。なのにヘイトクライムの被害が多発しているのを聞くと、加害者のほとんどは知識なしに感情的になってるんだろうなって思ってしまう。
:なるほど。それこそ資本主義社会が生んだ貧富の差による影響かもしれないね。それでいうと、主人公と友人の2人が飲んだ場所がインディアンのバーであるところは見逃せないな!まさに資本主義大国アメリカを象徴とする証券マンの友達が、先住民の文化を摂取しているという描写は、アメリカの滑稽さを表してるんじゃないか?
:それはそう。本当に滑稽なんだよね。
:イスラエルのガサ侵攻を多くのアメリカ人が肯定するのもそうだけど、加害者性の無自覚さという問題があると感じる。別にアメリカに限らずね。

この手の描写で最近秀逸だなと思った映画があって、スパイクリーの「ザ・ファイブ・ブラッズ」

ベトナム戦争の帰還兵である黒人4人組が老後にベトナムを訪れるんだけど、現地のクラブでめちゃくちゃ盛り上がるっていう(笑)。そのシーンで、1人のキャラクターの手元をよく見るとインディアンジュエリーが身に付けられているんだよね。

映画「ザ・ファイブ・ブラッズ」(2020)

この加害者性への無自覚さ。スパイクリーは黒人差別の問題を常に描いている監督だけど、常に彼らの一部が持つ愚かさや間違いについてもキチンと描写しているのがすごいと思う。ベトナム戦争は黒人が多く前線に送られていて、それへのモハメドアリの抗議や、反戦歌としてのマーヴィン・ゲイの「what's going on」だとか、黒人差別史において重要なモメントなんだよね。
いくらでも黒人の悲劇として描けるのに、件の描写をいれる批評性が見事!

:ファイブ・ブラッズは見ていないからわからないけど、そういう細部まで気を遣った作品は質が高いものに感じるね。


〜結び〜

今作は社会や歴史の文脈や示唆に富んでいた作品だったので、作品のみならずその外の事柄についても話せて良かったです。次は同じく社会的なテーマを持つ「ユマンの隘路」についてインタビューしていきます。ではまた!


最後まで読んでいただきありがとうございます!

今後もよりおもしろい記事を投稿していきますので、スキ・コメント・フォローなどしてもらえるとうれしいです🦉🌙


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