RYO

映画という芸術について。

RYO

映画という芸術について。

記事一覧

固定された記事

運営ポリシー

そんな堅くならなくても……と思いつつ、noteをはじめるにあたって、一応方針を示します。 書くレッスンここでは、基本的に長文を載せようと考えています。 在学中はレポ…

RYO
3年前
3

悪の行方は知れず、正義は存在しない

時代がそう要請するからというありきたりの回答しか用意できそうにないのだが、どういうわけか、この春この国では、単純な二項対立ではとらえきれぬ曖昧な色合いを帯びた、…

RYO
5日前
2

『ケンとカズ』(小路紘史、2015)

まず、テンポがいい。小競り合いからエンジンギアを入れて襲撃に至る開巻から明らかなように、登場人物をただでは済ませておかぬ騒ぎは常にすでに起きてしまい、事態を必死…

RYO
3週間前
1

中平卓馬 火―氾濫(東京国立近代美術館、2024年)

その名を聞いて真っ先に思い出すのは『カメラになった男ー写真家 中平卓馬』(小原真史、2003)で猫のように鷹揚かつ俊敏に動きまわる姿とショートホープの空き箱に神経症…

RYO
1か月前

『すべての夜を思いだす』(清原惟、2024)

同軸の引きが多分10回程度あったと思うが、最も新鮮に映ったのは1回目のハローワークで、女性どうしが見る見られるの関係にあると示すものは並、そのほかはカットの動機が…

RYO
2か月前

思い出すこと

高校時代に所属していた演劇部の男性顧問は、50代半ばの世界史教員だった。大柄、テノールボイス、ほとんど白髪、そしてなにより生真面目。彼の授業を受けたことはなかった…

RYO
3か月前

2023映画ベストテン

邦画 ①王国(あるいはその家について) ②愛にイナズマ ③せかいのおきく ④月 ⑤バカ塗りの娘 ⑥春画先生 ⑦花腐し ⑧ほかげ ⑨君は放課後インソムニア ⑩首 順位は志…

RYO
4か月前
5

雑感

萩原みのり辞す。気の強いヒロインというのは一頃より断然増えたが、アンナ・マニャーニやキャサリン・ヘプバーンに連なる気の強さはこの人以外持ちえなかったと思う。『ハ…

RYO
4か月前

『ショーイング・アップ』(ケリー・ライカート、2022)

巧いがライカートでは下の方かと思っているとラスト5分でしっかり感動させられる。創造の向こう側を見てしまい半ば白痴と化した弟が癒えた鳩を放ち、玄関口で大勢がその行…

RYO
5か月前
4

山形国際ドキュメンタリー映画祭2023

YIDFF2023、今年も無事終了。はじめてタイムスケジュールを見たとき、「あれ、パッとしないのでは……?」と思ったけど、始まってみると充分贅沢なラインアップ。補助金カ…

RYO
7か月前
2

『バービー』(グレタ・ガーウィグ、2023)

ordinaryであること。案外穏当なオチだが、それだけにかえってアメリカ社会における〈普通〉とポピュリズムの根深さを痛感した。 いつだったか、渋谷PARCOで上映前に見かけ…

RYO
8か月前
3

引用

「あしたのことは誰にだってわからない、/あしたのことを考えるのは憂鬱なだけ。/気がたしかならこの一瞬(ひととき)を無駄にするな、/二度とかえらぬ命、だがもうのこ…

RYO
10か月前
1

引用

「列車が動きだすと、私はようやくほっとしたが 「蒸発をするのは案外難しいものだな」と思った。それは現実の生身の役者が舞台へとび出し別の人間になりきるのに似ている…

RYO
1年前

『葉蔭の露』(ABCテレビ、1979年)

1979年11月9日放映、47分。 キャスト 緒形拳(西村松兵衛)、岸恵子(西村鶴)、阿木五郎、竹内照夫、今野鶏三、玉井孝(ナレーション) スタッフ 演出:大熊邦也、原作:…

RYO
1年前
4

『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』1P.M.(D・A・ペネベイカー、リチャード・リーコック、1971)

先日『予備選挙』を見てペネベイカー&リーコックが気になっていたので見る。 冒頭の字幕で、ゴダールがわれわれのオフィスに来て仕事したがっている、この映画はそこから…

RYO
1年前
2

『若き仕立て屋の恋 Long Version』(王家衛、2004)

ろくすっぽ見てないが世紀末の『花様年華』はやはり作家自身にとって画期だったと思わざるを得ない。なんせこの映画もIn the Mood for Loveである。 手技でヤられちゃった…

RYO
1年前
2
運営ポリシー

運営ポリシー

そんな堅くならなくても……と思いつつ、noteをはじめるにあたって、一応方針を示します。

書くレッスンここでは、基本的に長文を載せようと考えています。
在学中はレポートなどでまとまった分量のレポートを書く機会はあったのですが、卒業すると難しい……。
壁に向かってひとりで懇々と書きつらねることへのロマンを感じる一方で、何より人に読んでもらうことが大切だとも思うので、公開を決めました。

映画は芸術

もっとみる

悪の行方は知れず、正義は存在しない

時代がそう要請するからというありきたりの回答しか用意できそうにないのだが、どういうわけか、この春この国では、単純な二項対立ではとらえきれぬ曖昧な色合いを帯びた、しかしはっきりおもしろいといってしまいたくなる2本の映画が公開されている。『正義の行方』(木寺一孝、2024)と『悪は存在しない』(濱口竜介、2024)がそれらにほかならない。

『正義の行方』は、1992年に福岡県飯塚市で起きた女児二名殺

もっとみる

『ケンとカズ』(小路紘史、2015)

まず、テンポがいい。小競り合いからエンジンギアを入れて襲撃に至る開巻から明らかなように、登場人物をただでは済ませておかぬ騒ぎは常にすでに起きてしまい、事態を必死に掴まえようと編集が重ねられてゆく。同時に、キャメラは構図よりエモーションを優先し(カサヴェテス)、俳優の表情が無二の輝きを放つさまを掬いとる。つまり、まさに今そこで立ち上がる感情がここには存在するのである。だが真に驚くべきは、駄目だと分か

もっとみる

中平卓馬 火―氾濫(東京国立近代美術館、2024年)

その名を聞いて真っ先に思い出すのは『カメラになった男ー写真家 中平卓馬』(小原真史、2003)で猫のように鷹揚かつ俊敏に動きまわる姿とショートホープの空き箱に神経症的なほど細密に刻まれた朱字が織りなす対照である。にもかかわらず対象から瞬間を切り取る写真家が記憶障害ゆえに事物を持続ではなく断片のうちに捉えるという今どき青年漫画でも実践せぬほど象徴的なエピソードも抱えているというのだから、この人を矛盾

もっとみる

『すべての夜を思いだす』(清原惟、2024)

同軸の引きが多分10回程度あったと思うが、最も新鮮に映ったのは1回目のハローワークで、女性どうしが見る見られるの関係にあると示すものは並、そのほかはカットの動機が不明瞭だったように思われる(特に土鈴前での微妙な引き。さらに見上が玄関前でダイの母を待つ同軸は私にはダブりすぎに見えた)。同軸の良いところはポンとキャメラ位置が変わることで編集にリズムが生まれる点だが、こうも多いと持て余している感さえある

もっとみる

思い出すこと

高校時代に所属していた演劇部の男性顧問は、50代半ばの世界史教員だった。大柄、テノールボイス、ほとんど白髪、そしてなにより生真面目。彼の授業を受けたことはなかったが、よく「私が○○だとしますね。すると**は……」と喩えたという。友人から「今日は遂に『私が天使だとしますね』って言いだしたぞ」と聞いたときはひっくり返るほど笑った。三位一体説についてだったらしい。

なぜかよく覚えているのだが、1年の秋

もっとみる

2023映画ベストテン

邦画

①王国(あるいはその家について)
②愛にイナズマ
③せかいのおきく
④月
⑤バカ塗りの娘
⑥春画先生
⑦花腐し
⑧ほかげ
⑨君は放課後インソムニア
⑩首

順位は志の高さに因る。演技を通じて映画の原理=キャメラと被写体の関係性そのものを問い直す①、絶対的悪の存在なき現代において森﨑東的な喜活劇の再生に挑む②、「せかい」と嘯いてしまう時代劇批判としての時代劇である③、おのれの尊厳を懸けてアポ

もっとみる

雑感

萩原みのり辞す。気の強いヒロインというのは一頃より断然増えたが、アンナ・マニャーニやキャサリン・ヘプバーンに連なる気の強さはこの人以外持ちえなかったと思う。『ハローグッバイ』、『昼顔』、『君は放課後インソムニア』。主役も傍役もできる方で好きでした。

『ショーイング・アップ』(ケリー・ライカート、2022)

『ショーイング・アップ』(ケリー・ライカート、2022)

巧いがライカートでは下の方かと思っているとラスト5分でしっかり感動させられる。創造の向こう側を見てしまい半ば白痴と化した弟が癒えた鳩を放ち、玄関口で大勢がその行方を見る(ドライヤー『奇跡』とブレッソン『ラルジャン』)。
他方、人が言うほどショットの作家ではないだろうという意識も離れない。むしろ編集のユルさこそが貴重と感じる。たとえば展示会場内の会話シーンに子供が鳩のテーピングを剥がすショットが唐突

もっとみる

山形国際ドキュメンタリー映画祭2023

YIDFF2023、今年も無事終了。はじめてタイムスケジュールを見たとき、「あれ、パッとしないのでは……?」と思ったけど、始まってみると充分贅沢なラインアップ。補助金カットによる予算減額、規模縮小の結果、前回から会場から市立美術館とレイトショーが減る。とはいえまあ前者はイベントホールにパイプ椅子だったから長居は辛かったのだがそれさえ懐かしい(現実の創造的劇化も見たな……。あと近くの500円刺身定食

もっとみる

『バービー』(グレタ・ガーウィグ、2023)

ordinaryであること。案外穏当なオチだが、それだけにかえってアメリカ社会における〈普通〉とポピュリズムの根深さを痛感した。
いつだったか、渋谷PARCOで上映前に見かけた自社コマーシャル映像で、「なりたいあなたに」的なコピーを見て不愉快になった。だからas you areにも吐き気を覚える。あるがままの自分さえ「なりたい自分」になってはいまいか?そんなに主役にならなきゃいけないの?

引用

「あしたのことは誰にだってわからない、/あしたのことを考えるのは憂鬱なだけ。/気がたしかならこの一瞬(ひととき)を無駄にするな、/二度とかえらぬ命、だがもうのこりは少い」
オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』小川亮作訳、岩波文庫、1949年(原典時期不明。11‐12世紀ごろ)、102頁。

※あまりに暗いが、この四行詩をどうしても逆から読んでみたい。

引用

「列車が動きだすと、私はようやくほっとしたが 「蒸発をするのは案外難しいものだな」と思った。それは現実の生身の役者が舞台へとび出し別の人間になりきるのに似ている。役者は舞台のソデで緊張と不安のあまり吐気や便意を催すという。しかし舞台は幕がおりる。蒸発は幕がおりないから演じ続けなければならない。 別の生を生きなければならないだが演じ続けることもやがては日常となり現実となるのであろう。そう解っていても

もっとみる

『葉蔭の露』(ABCテレビ、1979年)

1979年11月9日放映、47分。
キャスト
緒形拳(西村松兵衛)、岸恵子(西村鶴)、阿木五郎、竹内照夫、今野鶏三、玉井孝(ナレーション)
スタッフ
演出:大熊邦也、原作:船山馨、脚本:野上龍雄、撮影:佐野吉保、小川宏充、西田健、沢田治、美術:野田和央、音楽:池辺晋一郎、プロデューサー:山内久司、仲川利久、進行:西川泰弘、技術:尾池弥嗣、音声:西谷高弘、音声:佐野乃武夫、音声:辻昭裕、効果:中村幸

もっとみる
『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』1P.M.(D・A・ペネベイカー、リチャード・リーコック、1971)

『1PM-ワン・アメリカン・ムービー』1P.M.(D・A・ペネベイカー、リチャード・リーコック、1971)

先日『予備選挙』を見てペネベイカー&リーコックが気になっていたので見る。

冒頭の字幕で、ゴダールがわれわれのオフィスに来て仕事したがっている、この映画はそこから始まったと説明され、参加メンバーによる討議が10分ほど映る。ゴダールの熱っぽい英語からは、その後の関心がジガ・ヴェルトフ集団の活動に傾いてしまって遂に編集放棄(で合ってるのかもうちょい調べたいが)したという事態なんて想像できず、P&Lとの

もっとみる
『若き仕立て屋の恋 Long Version』(王家衛、2004)

『若き仕立て屋の恋 Long Version』(王家衛、2004)

ろくすっぽ見てないが世紀末の『花様年華』はやはり作家自身にとって画期だったと思わざるを得ない。なんせこの映画もIn the Mood for Loveである。
手技でヤられちゃったぼっちゃんと高級娼婦による階層のすれ違いだが、想像通り乗れない。人間が描けていないと言うのは簡単。じゃあ何が足りないのか、と聞かれると困るものの、無理やり捻れば王が何某かの変貌にちっとも興味ないところと言えるはずで、ふた

もっとみる