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瞬く随に(またたくまにまに)

『さよならシティボーイ』がリリースされてから一年が経った。ハッピーバースデー。まずは、著者であるすなばさんが書いたテキストを是非読んで頂きたい。

■『この一年何をしていたか - 『さよならシティボーイ』刊行一周年に寄せて - 僕の詩を返せ』

すなばさんが書いているように、直近まで「そろそろ一年ですねー。何かやりたいっすねー」なんて話していたのだが、普通に当日は忘れてしまっていた。私の作っている本は、流通に出しているわけではないので結構発売日自体が曖昧なのである。自前で通販を始める前にイベントなどの予定があれば初売りはそこになるし、イベントが無ければ通販でいきなり発売を開始したりもできるわけで、まあだからといって忘れてもいいって事ではないので、謝ります。ごめんねシティボーイ。さよならはしてないよ。

※ここからは話が脱線するので、すなばファンはスクロールしてくださいませ。

当日は何をしていたかというと、久しぶりに故郷の山形に帰省して、久しぶりに友人の墓参りに行って(『エンドロール』が手元にある方は、P159とP160を読んでみてね)、これまた久しぶりに会う友人がUターンして工房を開いていたので見学に行って、久しぶりに海に行って島にある釣り堀で糸を垂らして(残念ながらボウズだったが、隣の人がウツボを釣ってすげーなと騒いでいたりした)、久しぶりにめちゃくちゃ美味い地元の寿司屋に行って、久しぶりに10数年ぶりの先輩に会って酒を飲んでいた。久しぶり過ぎてお誘いが来た時は、宗教の勧誘かマルチかネットワークビジネスの誘いかと身構えていたが(『さよならシティボーイ』に『武蔵小杉で夢を聞いてきた彼女のこと』という話がありますので是非)、特にそんな事は無く、小学生の頃と変わらぬ面影の先輩に少しホッとした。先輩と先輩の親友が喧嘩を始めた後、和解して泣きながら抱き合っていたのを26時くらいに「一体何をやってるんだ俺は…」という気持ちでその光景を眺めながらテーブルにあった〆の岩海苔を巻いたおにぎりを食べ、それを酒で流しこみ、最後のカラオケには行かずに歩いて帰った。そんな一日を過ごしていたのである。この時点で、早く東京に帰りたいなという気持ちがとても湧いていた。

翌日も親戚の家に行って土産を置いてきたり、逆に東京に持って帰る土産を買いに行ったり、古民家を改装したオシャレな店、ではなくガチで古民家でやっている蕎麦屋に行ったり(ちなみにここは駐車場にヤギがいる。ガチのヤギ。蕎麦はめちゃくちゃ美味かった)、友人が営んでいる古着屋にノーアポで行ったら「今日はもう上がりましたよ」とスタッフに言われ、友人に連絡したら「いや、普通に先に連絡しろや」と少し怒られたり、夜はめちゃくちゃ美味い焼肉屋に行った後に、癌のステージ3から復活を遂げた友人とこれまた久しぶりに飲んだ。再発が無ければしばらくは大丈夫との事でそこは一安心。色々な話を出来てよかったと思うし彼のこれからが幸多き日々である事を願っている。数えてみたらもう25年の付き合いであった。街は、住んでいた時より静寂に包まれていたし、久しぶりに車の運転をしたら自然がどかんと広がっているのと、とんでもなく空が広すぎるので逆に情報量の少なさで怖くなった。なんだろう、絵の中というか、CGの中にいるみたいというか。なんかわけもなくすごく怖かったのだ。不思議。前日もこの日もずっと人の話を聞いていたような気がして、なんでだろう?と考えたが、そうか、私はもう他所の人だから話しやすいのだろうな、という結論に辿り着いた。

他所の人という部分でもうひとつ忘れていた話。こちらも9月くらいには覚えていたのだが、10月で遂に故郷で過ごした年月より、東京に住んでいる年月が長くなった。物心がついたのが恐らく9歳とか10歳くらいだと仮定すると、私は18歳で上京したので人格形成への影響としては東京の方が大きいのではないかと考えている。今の私は、東京にいたからこその私なのだ。それこそ大袈裟ではないくらいに色んな人に出会って色んな考えに触れて色んな街で過ごせていること(最近下北沢ばっかりだけども)を考えると本当に来て良かったなと思っている。色んな駅の改札やホームにすらこびりついている思い出も全てが愛おしい。エモーい。あの人は元気かな。この場を借りて、東京で出会い相変わらず近くにいてくれる人はもちろん、もう遠くにいってしまった人にも心からの感謝をしたい。きっとまた会えるでしょう。おかげさまでその他の大嫌いな人達は正直どうでもいいのだが、最近その大嫌いな人達が誰だったのかすら思い出せなくなってきた。そして、それは故郷の嫌いだった人達にも当てはまっていて、本当にびっくりするほど忘れてしまっている。忘れているというより、始めから無かったかのようにだ。ひょっとしたら、むかついたりした記憶をどんどん楽しい出来事が上書きしているのだろうか。忘れる事が出来るから人は生きていけるのだと思う。忘れた中に、もしかしたら大事だった事も含まれているかもしれないけど、まあそれはそれでしょうがない。そして、きっと私の事を忘れてる人もたくさんいるだろうし、私が忘れているのにはっきりとその事柄を憶えている人もいるかもしれない。逆に私だけが覚えている事も。またもし会える時が来たら、思い出を交換出来たら嬉しい。これだけ住んでいても行った事のない場所は、まだまだ山ほどあるし、よく行っている場所も日々変わっていく。これから出会う人もたくさんいるだろう。この東京という場所に、小さいかもしれないが根を張れている事はとても嬉しい。楽しい日々を過ごす努力はかかさぬよう、初心を忘れず人に優しく暮らしたい。いつか私が枯れるその日まで。

※すなばファンはここから読んでほしい。

さて、『さよならシティボーイ』の話に戻ろう。とはいえ、大概の事はすなばさんが書いてくれたので、こぼれ話などが出来ればいいなと思う。『さよならシティボーイ』は、がっつりマンツーマン(+デザイナー)で制作を進め、すなばさんのコロナ感染を乗り切り2021年の9月中旬に無事作業を終えた。テスト入稿で上がってきたサンプルを見て多少の不安を抱いていたのだが、この本はとてもぶ厚く迫力がある。幅は大体2cmほど。とはいえ、そんなに場所は取らないだろうと甘い考えをしていた私は印刷会社からのメールに驚愕する。追跡番号が10個以上送られてきたのだ。いやいや、箱が小さいだけでしょう、と謎のポジティブを発動してみたりもしたのだが、到着の当日に宅配便のドライバーさんからしっかり「家にいますか?」という確認の連絡が来た時点でやっぱりやばそうだなと焦ったのでした。積みあがったタワーを見て、しっかり売ってかなきゃいかんなと気持ちを引き締めつつ、色んな準備を進めたのがいい思い出。忙しくもあったが、日に日に在庫が無くなった段ボールをつぶして畳んでいく作業が一番楽しかったかもしれない。イベントや通販で購入してくれた皆様、注文をしてくれた書店の皆様、イベントに呼んでくれた皆様には本当に感謝しかない。その後、ありがたい事に重版を二度させて頂き、三刷の在庫も残り少なくなってきた。こんな幸せが事があってもいいのだろうか。いや、マジで面白いし絶対売れる!というテンションで作っているので、もちろん調子にのった事を言ってしまうと「そりゃーそうでしょ!面白いんだから!」なのだが、実際売れてなかったらすなばさんにはとても申し訳ない気持ちになっていた事だろう。その点に関しては、めちゃくちゃホッとしている。とはいえ、いつも心がけているというか目標にしている事が「長く売る」というところなので、発売から一年経っても新しい書店さんから問い合わせが来たり、行った事の無い遠くの街の人から通販の注文を頂けている事がとにかく嬉しい。とにかくこれを長く続けていければと思う。すぐに派手に売れてくれるのももちろん嬉しいが、時間をかけて届くべきところ、人に届いてくれればいいなと思う。そしてもう買って読んでくれた人も、これから何かのタイミングで読んでくれるであろう人も、数年後でも数十年後でもふとしたタイミングで棚にあるこのぶ厚い本をたまに読み返してう〇この話で笑ったり、彼の七転八倒に微笑んだり、日々の尊さのようなものを見つめ返すきっかけになればと願う。さらに何十年後、もしくは何百年後、そう、あなたもすなばも私もすでにいなくなっているその時に、この本が一冊でも残っていて、読んだ誰かが笑ってくれるのであれば私の生きたひとつの意味になるでしょう。何周年までこのような文を書けるか分からないけども、来年もまたお祝いが出来れば幸いです。

最後に解説を書いてくれた生湯葉シホさん、いつもサポートしてくれる三浦希君、重版の際にテキストを寄せてくれた夜夜中さりとて君、イベントに一緒に出てくれたりサポートをしてくれたmeri-kuuのネネネとアベハルカ、各種イベントに一緒に出てくれた櫻井朋子さん、読んで感想をたくさん呟いてくれたり色んな人に薦めてくれた友人達にも最大限の感謝を。皆様のおかげで一年を乗り切れたといっても過言ではありません。これからもよろしくお願い致します。

何だかまとまらないし、お祝いのテキストっぽくなくなってしまいましたが、ここまで読んでくれた方ありがとうございます。

もう少しで新刊が出る予定ですので、是非楽しみにして頂ければ。

願わくば、また見ぬあなたがこの本を手に取ってくれる日がくるといいなと祈りつつ。

それでは、また。

西川タイジ

■オフィシャル通販

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※特に推敲などしておりませんので誤字脱字乱文、お許しください。

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