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『空虚な再現』 【詩】

 再現してみよう

 あれからというもの
 滑りゆく心の底の、もっと奥で
 どうしたって掴みようのないあの人の歴史のように
 怪しい光沢をちらつかせて
 悲しみの蛇が、脱皮のため、蠢いている

 再現してみよう

 僕は見ているつもりだったけれど
 真実、見せつけられているのだ
 首を固定されて、瞼を切除されて
 荒療治を受けている
  

 「あなたの隣で寝ていると苦しいわ、夢で何度も絞殺されたわ」
 不可思議極まりない
 静脈、動脈。脈々と。
 季節の先端にいるみたいに
 どっちに転んでも、起き上がれやしないのだ
 

 「優しいのね」
 遠ざかっていく車窓を映画と思う
 あの人がこれから見ていく全ては
 生きていた頃とほとんど等しい
 違って見えるのは私の方のみである

「曲がったものの方が魅力的よね」
 あの時のきゅうりはたっぷりと地球の愛を受けていた
 僕の性器は右に逸れている
 精液を拭って泣き出すんだから困った


 「基準なんてあってないようなものよ」
 同意。
 黒南風に漂う嫌悪を
 踊るように振り払った後は
 安心して寝ていたようだけど
 私にとってあれほど危険な行為はない
 起きても覚めぬ夢の中だ


 「大丈夫、私はここにいるわ」
 その言葉と結果はどちらが先にあっただろう
 あれは後出しのジャンケンでしょうが
 そこは僕に権利があったはずだ
 「嘘になってごめん」


 羽化するところまで見届けて
 雲の切れ間に中指を合わせて
 水がないから、解熱剤は噛んでしまった
 浅い呼吸
 あなたへの訴求
 白く青いあなたの肌を
 寝ながら泣いているあなたの背中を
 僕の虹彩は捉え得なかった
 「あなたを好きでいられたのは、あなたのおかげよ」
 「あなたともういられないのは、私のせいよ」
 透明な銃弾など避けられまい
 その時までは信じていなかったけれど

 本当にあなたは羽を開いて、違法な宝石を落としていった
 その屈折した光をなぞるように、蛇は進むわけだ
 

 際限のない宇宙でさえも
 あなたを止める事ができない
 死んでいく僕は
 眼前の潤いに身を浸す事を手段としている
 いつまで続くだろう、続ける事ができるだろう
 自身の汗や尿でこの血を保てるだろうか
 
 再現してみよう
 再現してみても
 終わった命の悪足掻きにすぎぬ
 君に大きな丸をあげたい
 僕から去って正解だから
 こんな腑抜けは、遠くに蹴っていい


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