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思春期のバイブル「霧のむこうのふしぎな町」/柏葉幸子

何十年かぶりに読みかえして、ぶったまげた。
この本だったのか、私の人生のバイブルは。

小学生の頃、何度も読んでいた記憶はあった。
その割に、覚えていたのは美味しそうなお菓子が出てくるということだけ。大好きな本と記憶していたから、娘が大きくなったら一緒に読みたいと思っていた。

あらすじ
小学6年生のリナは、父のすすめで夏休みに「霧の谷」へ一人旅に出かける。途中で道に迷い、風に飛ばされた傘を追いかけるうちに、小さな町にたどり着く。リナを招待してくれた下宿のピコットばあさんをはじめ、そこに住む人々はすべて「魔法使いの子孫」なのだった。ピコットばあさんは「働かざる者食うべからず」がモットーで、本屋・せともの屋・おもちゃ屋へ、リナを働きに行かせる。最初は戸惑うリナだったが、働くことを通じて町の人たちと知り合い、それぞれの悩みに手を貸していくうちに、その町も人も好きになっていく。

中学生の頃、ホームステイに行こうと思い立ったのはリナの旅に憧れていたからか。

赤ペン先生に、寮のある高校はどこですか?という質問を出し、家庭を心配する返信が来たのは、私が下宿を夢見ていたからか。

高校に入って、とにかくバイトをしなくてはと思っていたし、そのくせバイトを転々としていたのは、ベースにリナの仕事があったからなのか。

就活のとき、手帳に書いて毎日眺めていた「働かざるもの食うべからず」は、ピコットばあさんの言葉だったのか!

読めば読むほど、リナのいる世界に憧れていた自分を思い出し、笑ってしまった。すべてマネして思春期を爆走していた。最後は無意識に就活にまで使っていた。
美味しそうなお菓子の本じゃなくて、「自立」の教科書だったんだ。

いわゆる異世界もので、基本的にはファンタジー作品だが、なぜか現実として受け取っていたように思う。

本のはじめに、こんなシーンがある。

「働かざる者食うべからず」というピコットばあさんに、リナがお金なら持ってきましたと言う。しかし、ピコットばあさんは自分で稼いだお金でないとだめだと首を左右に振る。「でも、わたし、なにもできないんです。」リナは、字が下手なこと、そろばんも勉強も苦手なこと、手伝いもしたことがない…と、できないことを頭の中で考える。そんなリナに、ピコットばあさんは言うのだ。

「手があって、足があって、目も鼻も耳も、見たところ異常はなさそうじゃないか。だれが、なにもできないっていったんだい。

こういった言葉が、物語の中で何度か出てくるのだが、くりかえし読んでいるうちに、不思議と心が軽くなる。リナはやがて、大きな声で堂々と自分の意見を言い、自分で考え、行動していく。

そう、だれもなにも言ってない。
すべて自分が自分に言っているだけ。

ピコットばあさんのガラガラ声は、思春期をとうに過ぎてもはっきり届く。

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