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志水辰夫の『情事』を読んで、この物語のラストは、駆け引きをすっ飛ばし続けた中年男の必然だなと、妙に覚めた眼差しでいる自分がいることに、月日の流れを感じた。


つい先日、こんな夢を見た。

久しぶりの同窓会。
僕の隣には、かつてのクラスのマドンナ。
酔いが回るにつれてふたりの距離は縮まり、ついに我慢できなくなった彼女(僕じゃなくて!)は、人目もはばからずキスをせがんでくる。

まあ、僕はそんな状況でも、いたって冷静で「いやいや、ダメでしょ、それは」と押し返してる。

えっと。

ちょっと、誰か、これを夢診断してくれませんか?



これは、夢でもなんでもなくて、同窓会で、ある時期に一瞬付き合ってフラれた女子に、「ねえ、ひらの、キスしよ」と言われて、店出た一瞬の隙にキスしちゃったことがある。

あれは、いったいなんだったのか、未だに謎だけど、つまり、酔っ払った男女の行方に、駆け引きもくそもない、というのが個人的な実感だ。

しらふのときには、あんなにも手順にこだわるくせに、ひとたび酒がまわってしまえば、まるで、おとぎの国にいるかのように、自分の思うがままにふるまってしまい、挙げ句の果てに翌朝、激しく後悔するわけである。

だから、男女の駆け引きって、実は重要な手順で、駆け引きをすっ飛ばして獲得した快楽には、必ず何かしらのしっぺ返しがつきものじゃないか、と僕は疑っている。



シミタツ流官能小説と呼ぶべき本書を約20年ぶりに再読して、これ、当時の自分(20代だよな?)がどれだけ理解してたんかな、と疑問に思うと同時に、この物語のラストは、駆け引きをすっ飛ばし続けた中年男の必然だなと、妙に覚めた眼差しでいる自分がいることに、月日の流れを感じている。

でも、その覚めた眼差しというのは、悪い意味ではなくて、シミタツってやっぱ、すげーなあー、こえーなあー、という畏敬の眼差しでもあるわけだ。

最後の50ページくらいまでは、単なるエロ小説で終わるのかと心配するくらいの展開なので、普通に考えて、特に世の大半の女性にはおすすめできない作品であることは間違いない。

だけど今、読み終えた僕の中の小説としての評価は、最高クラスだ。



ちょっと話は逸れて、本屋大賞受賞作の『流浪の月』の主人公ふたりの関係が世の人々に、僕の予想以上に肯定的に受け止められる中、では倫理上、あのふたりの関係と、巷で断罪されているいわゆる不倫と呼ばれるの男女関係の間に、何の違いがあるのだろうかと考え続けている僕がいる。

そのひとつの判断材料として、本書は非常にシビアでリアリティーのある、なおかつロマンチックな物語なんじゃないのかなと思ったりします。

この、とてつもなく苦い結末を、20代の僕が当時、どんな思いで読んだのか、かなり気になります。笑

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