マガジンのカバー画像

自由俳句

27
運営しているクリエイター

記事一覧

#25 レバニラ

#25 レバニラ

レバニラを炒め客席へと視線

 昼すぎ中華料理屋へ行くと、まだ活気がある。隣の席の男へ、湯気に包まれたレバニラ炒めとご飯が運ばれてきた。厨房の店主は、客席へ視線を配りながら既に人数分の炒飯を作っている。この視線を前にしては、中途半端な食べ方などできないと、目の前の三皿を平らげた。

✳︎

   レバニラ

初場所の実況中継殺伐と

髪のざらつくや車窓へ肘かけて

三日月となる爪春の兆しけり

もっとみる
#24 少年

#24 少年

正月や映画四本重ね置き

 正月休みは、何本か映画を観て過ごしました。「ロスト•イン•トランスレーション」のスカーレット•ヨハンソンが良かったです。エンドロールの「風を集めて」が聴けました。

✳︎

   少年正月や映画四本重ね置き

黒々と達磨の瞳持つ人ぞ

大寒の業務スーパー混みにけり

大根と瓦の埋まる荒れ畑

少年のやうな家なり小晦日

出掛け先靴を見らるる春近し

春近し柔軟剤のにほひ

もっとみる
#23 冬の山

#23 冬の山

冬の山分け入って分け入って父の背中

 「分け入っても分け入っても青い山」という種田山頭火の句があります。この句だけは、ずっと印象に残っていて、山頭火の日記や句集を読んでもこの句から受けた人物像は、ずっと変わりません。

 2022 年、よろしくお願いいたします。

✳︎

   冬の山

ばらばらと手より十本の衣紋かけ

トナカイの右角畳むクリスマス

文藝春秋を聖夜の卓へ置く

あかぎれの指が

もっとみる
自由俳句 #21 鳥鍋

自由俳句 #21 鳥鍋

腹すかせ行くよ冬至の月の下

 冬至の空は、明るく雲が速く流れていく印象です。忘年会で集まった座の上に月が浮かんでいます。お酒か寒さのせいか目尻に涙がたまり、光を滲ませます。

✳︎

   鳥鍋

手の内へ紙の把手を三つ提げ

電飾や空へと掛けるオリオン座

金色のリボンが袋の口絞る

鳥鍋や箸を持つ手の薬指

自動販売機開けば駅寒し

四色のマークの車街冴ゆる

背表紙の分厚さ第二関節ほど

もっとみる
自由俳句 #20 ありがとさん

自由俳句 #20 ありがとさん

「止まりますランプ」は赤ぞありがとさん

クリスマスが近づいて街の賑わいを感じます。「有りがたうさん」という、川端康成の小説を原作とした映画がありました。伊豆から東京へ向かうバス、道ゆく人とすれ違うたびに運転手は「ありがとう」と声をかけて行きます。

✳︎

   ありがとさん

唐草の風呂敷置かれバスの棚

冬の田の畦踏みならす獣をり

ふと悲し環状線を冬の暮

外套は吸はぬがゆえに煙草臭し

もっとみる
自由俳句 #19 パラジウム

自由俳句 #19 パラジウム

 パラジウム塩は、電極や有機反応の触媒として使用されます。試薬は、数グラムでかなりの値段したような気がしました。実験の予算が出て、高い外套を買うという心理を想像しました。

✳︎

   #19  パラジウム

木枯のやう牛運ぶベクトルは

シロイルカ閉じ込め冬の海無限

数列や子猫の毛並みはえそろふ

人の語を鸚鵡返しす北風《きた》の中

パラジウムは匙三万とコート買ふ

曲者だ迷彩柄の外套は

もっとみる
#18 左拳

#18 左拳

✳︎

   #18 左拳

力なき左拳の荒れにけり

一トンの冬水蛇口より出づる

洗濯前の冬服エコバックの下に

足突つ込む毛布や人魚座りして

冬の蝿から文脈を追ひかける

笑笑とマスク置かるる卓の上

ハロウインや猫がかむりし紙袋

冬布団へ押しよす古新聞怒涛

十一月五日母校の記事古りぬ

みかん剥く塗料のつきし爪の端

ぎんが

#17 霜焼

 久しぶりに落ち着いて俳句を書いた。用意していた短冊の枚数がぴったりだった。

 表現が配慮として不良や反骨の形をとることがある。それは、心を伝える技術であって反抗の態度ではないのだと気がついた。しばらくは、写生へ徹しようと思う。

 昨日今日の新作十句。

✳︎

   #17 霜焼

フリースの毛玉こんがらがつて冬

降霜や星の数ほど弱音吐く

信号まで尾花が枯れてゆく速度

おでんの汁染みゐ

もっとみる
自由俳句 #13 夏炉冬扇

自由俳句 #13 夏炉冬扇

新米の袋抱けるたなごころ

 食の秋です。新米を食べました。新蕎麦を食べました。写真は、蕎麦屋の店内で撮影したものです。扇風機と暖炉が置いてあり、夏炉冬扇という言葉を連想しました。これは、辞書に季節外れで役に立たないもののたとえとあります。扇も炉もいらない季節、窓を開けて秋の気配を感じました。

✳︎

   #13  夏炉冬扇

使はれぬ部屋あり西日射すを恥ず

鶏の形なき唐揚げの残暑かな

新米

もっとみる
DIVIDUAL (2)

DIVIDUAL (2)

電車はゆく不知火は夜をこめて

 通学は、電車で友人と県内の学校へ通っていた。その友達の転勤を知った。夜は明けるともなく、電車はゆくのだろう。

✳︎

   DIVIDUAL (2)

天高く風音転勤は九州

電車はゆく不知火は夜をこめて

父の指す酸素計器は秋の蛍

電話越し虫の鎮まり父の呼気

秋の果実得難し自宅療養は

秋雨の窓より抗原検査の手

花鋏兄の代はりに農家継ぎ

秋日射す岩波文

もっとみる
自由俳句 #16 粘菌

自由俳句 #16 粘菌

粘菌を探せし母と小春下

 少し早いですが、秋と冬の句を。表題の句は、現実味があるかわかりません。変形菌を一度は見てみたいです。

 ✳︎

   #16  粘菌

裏声の裏の爛漫読書の秋

とちの実の煎餅いふを貰ひけり

絆創膏の指が木の葉のお金拾ふ

革ベルト毛皮とともに吊られゐし

盆栽の鉢に枯れ葉の二枚寄す

きつつきの話膨らみ紅茶の香

撒き散らす副流煙を野分せよ

粘菌を探せし母と小春下

もっとみる
自由俳句 #15 秋の陽

自由俳句 #15 秋の陽

柚子五つ袋の皺を透かしたれば

薄手の袋を透かせば摘んだばかりの柚子が入っています。もうすぐ立冬。秋もわずかです。

✳︎

   ♯15 秋の陽

紅茶から庭にコゲラの話へと

夕食の前のポテチとみかんの皮

みそ汁や白菜のほか輪ぎりして

回送の幼稚園バス柿渡る

選挙来て校庭の葉の二三枚

看板の文字はつきりと刈田行く

煙突から煙今年の豆腐はどう

小銭ばかりの財布を椅子に行く秋ぞ

ひと

もっとみる
自由俳句 #14 しだれ紅葉

自由俳句 #14 しだれ紅葉

憲法の内の自由は泳ぎにくし

街宣車烏と帰る秋の暮

電柱の傾いてゐる刈田道

秋風や母のメールへ空返事

寿司どれもネタの小さき十三夜

思ひ出やしだれ紅葉の先白む

独身は老後まで楽散る紅葉

父母の家行き来轍の霜柱

なぜ離婚したのと冬の市歩く

冬も半ズボン人を蹴りたる足

ぎんが

自由俳句 #12 月の車

自由俳句 #12 月の車

スポーツの日の財布に軍手履かせけり

今年の10 月11 日は、スポーツの日でした。体育の日で祝日だと思っていたら違うのですね。Siri にスポーツの日を尋ねると
「祝日ではありませんでしたよ」
と言われ、ぎくりとしました。

✳︎

   #12  月の車

父母の借家どちらも鬼門足袋寒し

明日の作業服着て横たはる夜長かな

葉脈の栞が透けて灯火親し

唐揚げの鶏の形なき残暑かな

秋の暮パト

もっとみる