ごはんつぶを残さなければ、世界は平和になる。
彼女と一緒に食事をしていて、こんなことを言われた。
「アヤトくんの、ごはんつぶひとつも残さないところ好きだよ」
しかし彼女自身はそう言って、「もうおなかいっぱい」と食べきれない分を僕によこしてきたりする。
作ってくれた人、食べ物に関わった全ての人への感謝。
もちろんそれはある。
でも僕は決して、その思いだけで、ごはんつぶを残さないわけではなかった。
僕は知っていた。
ごはんつぶを残すと世界が平和から一歩遠ざかることを。
流しやゴミ箱に捨てられた全国のごはんつぶは、実はその後、あるところに集められている。
そこで暗号化された文書に封をするための糊になる。
その文書はスパイが某国に情報を流すための主な手段だった。
そこで得られた情報をもとに、某国は世界情勢を掌握し、コントロールしている。
株価の操作、意図的に戦争を起こすことも自由自在、というわけだ。
つまり僕らみんなが、ごはんつぶをたいらげることで、彼らが秘密ルートで手に入れていた糊が入手困難になる。
するとスパイは機密文書に封ができない。
『アラビックヤマト』『消えいろピット』のような正規品を使えば、足がつくからだ。
そうなれば機密が機密じゃなくなる。
某国は自分たちに都合のよい情報操作が困難になり、世界の貧富の格差が少しずつ改善される。
世界から争いが減っていく。
米をはじめとする食料も行き渡るようになる。
必要な人に、必要なぶんだけ。
それは僕が思い描く理想の世界だった。
今日はそんなことを考えながら、ご飯を炊いた。
いつもより美味しくできた気がする。
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