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統計不正の簡単まとめ 坂村健氏のコラムから

▼厚生労働省の統計不正は、底なし沼という表現がぴったりで問題が多いのだが、坂村健氏が2019年2月21日付の毎日新聞で、イカサマをしでかした官僚側の内在論理を推理しながら、この問題の経緯を簡単にまとめてくれていたので、抜粋して紹介する。見出しは〈統計不正が意味すること〉。適宜改行。

〈今回不正が発覚した厚生労働省の「毎月勤労統計」は、どう集計するかまで統計法で定められている基幹統計だ。その東京の調査で、大企業の全数調査を2004年から3分の1で済ませ、3倍してから合算する処理に変更した。

労力は減るし統計としてはたいしてズレないーーこの手法自体は母集団推計で、法的には「不正」だが抽出が適切なら統計的には「不正」にはならないーーという思いもあったのかもしれない。それなら統計法を改正すべきだったのに、法律変更は国会対策で大変と思ったのか一片の事務連絡で済ませてしまう。

 ところが、それを処理するプログラムに3倍する処理を入れ忘れ、おかしいのではという指摘はいろいろあったのに、事なかれ主義で先送り。やっと昨年の統計見直し時にこのミスを秘密裏に修正した。

その結果、給与水準が不自然に上がり、政権への忖度(そんたく)で給与水準が上がるように統計方法を見直したのではないかと報道され、--実はそれ以前の15年の方が不正状態でしたというお粗末が発覚してしまった。

▼このまとめを読んでいるだけでも、1)違法行為に踏み込み、2)そのうえでこっそり修正し、3)さらに長期間にわたるそもそもの不正が発覚した、という、ちょっと想像できないレベルの杜撰(ずさん)さだったことがあらためてわかる。

〈(統計は)年ごとに手法が揺らげば、前後の比較もできない。ところが今回は元データが消され合算の数字しかないため、統計的に不正でない過去の推計も復元できないという。ここまでひどい不正は過去になく、弁護の余地はない。〉

▼統計不正は、国家について、社会について、いろいろなことを考えさせてくれる事件だ。「ウソをついた」のに、「隠蔽(いんぺい)とは言えない」という興味深い日本語の表現も示された。

▼坂村氏は「悪者」探しよりも、厚労省にかぎらず各省庁で不備が見つかったことから、「構造的問題」に目を向ける。

〈政府統計の人員は1960年代以降、年々大幅に削減され、今や米国の5分の1、人口の少ない英国と比べても半分という。〉

そもそも人数が不足しているわけだ。コラムの末尾に坂村氏は、省庁横断の「国家データ庁」の設立を提案している。また〈面談や記入や郵送で企業に無駄な労力を使わせるより、ウェブサイトに入力してもらえば集計も容易だ。〉と。

こういう建設的な話になると、とたんに報道の質が落ち、量も減る。

今回わかったことは、メディアによる不断の監視がなければ、国は簡単に腐る、という事実だ。

(2019年3月2日)

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