エビハラは考えた

短編小説やショートショートをアップしています。 下手の横好きレベルです。

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マガジン

  • 月鱗のナツキ

    仮です

  • 今夜、星を穿ちに行こう

    星降る夏の夜、僕は幼馴染とナナと一緒に村の夏祭りの縁日へと向かった。それはナナと二人で「やりたいことリスト」に記された最後の一つの項目をクリアする為だった……。淡い初恋と、脈々と受け継がれる命。それらを守り続けるものを描いた青春小説です。

  • 400字小説

    400字で完結するショートショートを纏めています。 すぐ読めるものばかりですので、ちょっとつまみたい時におすすめです。

記事一覧

2023年に読んでおもしろかった小説(一月~四月)

 読書記録的なものはあまり公開していないのだが、それなりに読んではいるのです。備忘録として、強く印象に残っているものだけまとめておこうと思います。  あくまでも…

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雑記④

5月の東京文フリに合わせて出す短編集「その花が咲くところを見せて」の作業をすすめている。 前回の「楽園にて」と同じく、表紙は創作サークルのNUEさんにお願いした。 表…

雑記③

泥濘に沈み込むような抗いがたい疲労を感じながら一日を終えようとしている。なるべく毎日この雑記を書きたい。けれど中々そうもいかない。やはり意識して体力は付けていか…

雑記②

十五分。十五分をノンストップで書き進めていこう。 上手くいかないことばかりだな、と思う日が続いている。こういう時は確率的に低いはずのアンラッキーも呼びよせてしま…

雑記①

時間をかけてただただ文字を書こう、と思い至った。 フリーライティングという手法らしい。トレーニングをしなければならないと思った。出力をあげたいのだ。文章の出力を…

ナツキ⑮

 まよねっぴ達とは、末次堂の前で待ち合わせている。藍那の店からそれほど遠くないから、ナツキは徒歩で向かっている。  あの日、末次堂の包み紙を大事そうに抱えて調理…

ナツキ⑭

「じゃあ、あの女の子も目を覚まさなくなっちゃったんだねぇ」  藍那堂の二階。秋人達の居住スペースで、今日も一階の店主はお菓子を齧っていた。  同じテーブルを囲み、…

ナツキ⑬

ついりは、廃屋の一室にいた。  ほぼ朽ちかけたベットの上に、長い黒髪の少年が横たわっていた。  竜堂ナツキは、昨晩からずっと眠り続けている。  ついりは、ナツキの…

ナツキ⑫

「演奏会のソロパートさ、辞退してくれないかな」  突然そう切り出されたのは、昨年度の二月のことだった。年度末に控えた定期演奏会で、ついりは一年生の中で唯一トラン…

ナツキ⑪

 灰色に薄汚れた灯台の麓、俯き加減に海を見つめている人影にナツキは近づきながら声をかけた。  少女の表情は、影に隠れていてよく見えない。ナツキが、彼女を柄井つい…

ナツキ⑩

 秋人は、霞高校の音楽準備室にいた。  隣にある音楽室からは多様な楽器の音色が聴こえている。吹奏楽部の、それぞれのパートの部員達が、思い思いに練習をしているよう…

ナツキ⑨

 ナツキは、砂浜の上を歩いていた。  そういえば最後に海に行ったのはいつだったっけな、とぼんやり考える。  少なくとも、秋人と共に藍那堂で暮らし始めてから四年、そ…

ナツキ⑧

「世話が焼けるんですよ、あいつは!」  三角巾で頭を覆い、カエルの柄が入ったエプロンをスーツの上から身に付けた秋人が、床に座って必死にアイロンをかけていた。  ア…

ナツキ⑦

 灰色に薄汚れた灯台の下に立ち、ナツキは南方を見つめている。  薄暗い夜だ。  眼前には遥かな水平線が広がっている。その水面は闇のように深い。  湾を囲う小高い山…

ナツキ⑥

 数分後、ドアから出てきたついりに迎えられて、ナツキは家の中に迎えられた。  ついりの父は、夜勤で今日は家に居ないらしい。母だという女性は、自己紹介をしたナツキ…

ナツキ⑤

「俺、そういう感情ないからさ。誰が相手でもそうだから、そこは安心してよ」  ついりの自宅へと向かう道すがら、ナツキはあっけらかんと言い放った。  陽は沈み、あたり…

2023年に読んでおもしろかった小説(一月~四月)

 読書記録的なものはあまり公開していないのだが、それなりに読んではいるのです。備忘録として、強く印象に残っているものだけまとめておこうと思います。
 あくまでも「エビハラが今年読んだ本」なので刊行時期なんかはバラバラです。今年の一月から読み終えた順にあげていきます。面白かった順とかではなくて、読んだ順です。
 同人小説とかWEBのものを含めてしまうとえらい数になってしまうので、とりあえず商業で出て

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雑記④

5月の東京文フリに合わせて出す短編集「その花が咲くところを見せて」の作業をすすめている。
前回の「楽園にて」と同じく、表紙は創作サークルのNUEさんにお願いした。
表紙のイメージを共有するweb会議(つっても雑談みたいなもの)の中で、NUEさんの方から質問があった。
「この本は誰に向けて書かれたものなんですか?」
それはつまり、どんなコンセプトでどんな客層に向けて売り出すものなのか、マーケティング

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雑記③

泥濘に沈み込むような抗いがたい疲労を感じながら一日を終えようとしている。なるべく毎日この雑記を書きたい。けれど中々そうもいかない。やはり意識して体力は付けていかないと、この先働きながら小説を書いていく生活を保てないよな、と実感する日々が続いている。いつまでも若くない、というかもう既に若くはないのだから先を見てプランを練りたい。
日々いろいろな事を考える。言語化出来ずに次の日を迎える。混沌とした想い

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雑記②

十五分。十五分をノンストップで書き進めていこう。
上手くいかないことばかりだな、と思う日が続いている。こういう時は確率的に低いはずのアンラッキーも呼びよせてしまいがち。
今日は乗っていた社用車が突然ぶっ壊れた。要因は経年劣化。僕一人が乗る車じゃないから、言ってみればみんなでクルクル回していた時限爆弾が偶然にも僕の手元で爆発した、みたいなそんな感じ。
最近は結構このパターンが多くて「あれ、今年厄年だ

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雑記①

時間をかけてただただ文字を書こう、と思い至った。
フリーライティングという手法らしい。トレーニングをしなければならないと思った。出力をあげたいのだ。文章の出力を。
いわゆる文章力とは推敲力の事だ、と僕は思っていた。何度も何度も見直してより良き修正する事を続けていけば、頭の良さや地力で劣る人間でもそれなりのものが書ける、と。それはまぁ間違いではないし、実際にそうやって時間をかける事で評価していただけ

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ナツキ⑮

 まよねっぴ達とは、末次堂の前で待ち合わせている。藍那の店からそれほど遠くないから、ナツキは徒歩で向かっている。
 あの日、末次堂の包み紙を大事そうに抱えて調理準備室を訪れた柄井ついりの事をナツキは思い出す。
 あの廃屋で、差し伸べられた手を取るより先に、ついりは危険を察知して咄嗟にナツキを突き飛ばした。その時の事は、今でも鮮明で脳裏に焼き付いている。スローモーションで再生される記憶。ゆっくりと遠

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ナツキ⑭

「じゃあ、あの女の子も目を覚まさなくなっちゃったんだねぇ」
 藍那堂の二階。秋人達の居住スペースで、今日も一階の店主はお菓子を齧っていた。
 同じテーブルを囲み、ナツキもパクパクと焼き菓子を口に放り込んでいる。
「ええ。精神の深いところで結びついていた所を、無理やり引き剥がしたショックなのかもしれません。時間が解決するといいんですが……」
 湯呑みにお茶を注ぎながら、秋人はそう言った。あの後、柄井

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ナツキ⑬

ついりは、廃屋の一室にいた。
 ほぼ朽ちかけたベットの上に、長い黒髪の少年が横たわっていた。
 竜堂ナツキは、昨晩からずっと眠り続けている。
 ついりは、ナツキの真っ白な額をハンカチで拭った。少し前からナツキは目を閉じたままうなされて、苦悶の声を上げるようになった。額から玉のように汗が吹き出し、苦しそうに表情を歪めている。
 その様子を傍で見ているついりは、複雑な思いだった。
 「彼女」の指示に従

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ナツキ⑫

「演奏会のソロパートさ、辞退してくれないかな」
 突然そう切り出されたのは、昨年度の二月のことだった。年度末に控えた定期演奏会で、ついりは一年生の中で唯一トランペットのソロパートを割り当てられていた。
 放課後、音楽室に居残って練習をしていたついりのところに彼女達は現れた。同じ吹奏楽部の部員達だ。
「え、な、なんで……」
 言葉に詰まり、オドオドとした態度をとってしまう。
 ついりは、彼女達のこと

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ナツキ⑪

 灰色に薄汚れた灯台の麓、俯き加減に海を見つめている人影にナツキは近づきながら声をかけた。
 少女の表情は、影に隠れていてよく見えない。ナツキが、彼女を柄井ついりだと判断したのは、その背格好がよく似ていたからだ。
「ついりん……大丈夫か?」
 少女は学校の制服を着ていた。けれど、それはナツキと同じ霞高校のものではなかった。紺色のシンプルなデザイン。ついりの部屋のコルクボードに貼られた写真に映ってい

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ナツキ⑩

 秋人は、霞高校の音楽準備室にいた。
 隣にある音楽室からは多様な楽器の音色が聴こえている。吹奏楽部の、それぞれのパートの部員達が、思い思いに練習をしているようだった。
「すみません、騒がしい場所で」
 そう言いながら、眼鏡をかけた細身の女性が目の前の椅子にかけた。四〇代前半くらいだろうか。ほつれた前髪からは、どこかやつれたような印象を受ける。
「いえ、突然押しかけたのはこちらの方ですから。土曜日

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ナツキ⑨

 ナツキは、砂浜の上を歩いていた。
 そういえば最後に海に行ったのはいつだったっけな、とぼんやり考える。
 少なくとも、秋人と共に藍那堂で暮らし始めてから四年、その間は一度も行っていないように思う。
「アニキの野郎には、休みの日に遊びに行くっていう発想が無えからなぁ」
 誰もいない浜辺で、ナツキはひとり、ぽつんと愚痴をこぼした。
 広がる風景には、やはり見覚えがない。
 だからとは言い切れないが、

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ナツキ⑧

「世話が焼けるんですよ、あいつは!」
 三角巾で頭を覆い、カエルの柄が入ったエプロンをスーツの上から身に付けた秋人が、床に座って必死にアイロンをかけていた。
 アイロン台の上にあるのは、チャコールグレーのセーラー服である。昨日、ナツキが盛大にきな粉を付着させていたものだ。
「まぁまぁ、ナツキちゃんも悪気があってやってるわけじゃないんだからぁ」
 そんな秋人を少し上から見下ろす角度で、椅子に座ったま

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ナツキ⑦

 灰色に薄汚れた灯台の下に立ち、ナツキは南方を見つめている。
 薄暗い夜だ。
 眼前には遥かな水平線が広がっている。その水面は闇のように深い。
 湾を囲う小高い山の稜線は、薄暗闇の中でどこかぼんやりとしている。
 岸には風ひとつなく、波音すら聞こえない。しん、と静寂は帳を下ろしている。
 見覚えのない景色だった。
 けれど、話に聞いた通りだった。
 灯台のある浜辺で、船を待っている。
 ついりに聞

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ナツキ⑥

 数分後、ドアから出てきたついりに迎えられて、ナツキは家の中に迎えられた。
 ついりの父は、夜勤で今日は家に居ないらしい。母だという女性は、自己紹介をしたナツキに対して伏し目がちにゆっくりと頭を下げるだけで、何も言わずに自分の部屋へと戻っていった。
 丸い背中が薄暗い和室に入っていくのを見送りながら
「ゴメンね、ああいう人だから」
 と、ついりは何かを諦めた様子で呟いた。
 ついりの部屋は、襖一枚

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ナツキ⑤

「俺、そういう感情ないからさ。誰が相手でもそうだから、そこは安心してよ」
 ついりの自宅へと向かう道すがら、ナツキはあっけらかんと言い放った。
 陽は沈み、あたりは暗くなり始めている。
「不安だったら、手とか足とか縛ってもらってもいいし。もちろん、そういった趣味もないんだけど」
「そっ、そんなことしないよ」
「そう? その方がありがたいや」
 秋人に持たせられた寝袋を抱えて、ナツキはニッと笑った。

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