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育ての親は《少年少女世界推理文学全集》

誰にも、《今ここにいる自分》を育ててくれた本があるのだろうと思います。

「本」は「book」でなく「books」;一連の本でしょう。

このところずっと、NHK-BSで《シャーロック・ホームズ》のドラマ・シリーズを見ていました。
シリーズ終了後には、以前のシリーズ、《名探偵ポアロ》が始まりました。
背景となる時代は異なりますが、舞台はともにイギリス、前者はアーサー・コナン・ドイル、後者はアガサ・クリスティーの一連の原作をもとにした推理ドラマです。

どちらも、私が小学校高学年から中学にかけて愛読してきた作家です。

今となっては細かい経緯いきさつはよくわかりませんが、小学校5年生ぐらいの時に買ってもらった、

《少年少女世界推理文学全集》

がきっかけでした。

1963年から65年にかけてあかね書房から刊行されており、全20巻です。
はじめは1冊か2冊、── 記憶が正しければ、このシリーズの第一巻である、エドガー・アラン・ポーの「モルグ街の怪事件」か、アガサ・クリスティーの「ABC怪事件」のどちらかが最初だったと思います。
最終的には全巻を手に入れ、読み耽りました。

本来、「Murder(殺人)」だった原題を「怪事件」と置き換えているのは、「少年少女」向けの気配りであったと、今ならわかります。

シリーズ20冊のほとんどは、いわゆる「推理小説」「ミステリー」の範疇ですが、なかには、アシモフの「暗黒星雲」やシオドマクの「人工頭脳の怪」、ハインラインの「ノバ爆発の恐怖」のように、SFに分類される小説も含まれています。
(タイトルは、この全集で使われたものに準拠)

あかね書房「少年少女世界推理文学全集」

この中で私が特に好きになり、この全集から足を踏み出して著作を読み漁ったのが、
エドガー・アラン・ポオ
コナン・ドイル
アガサ・クリスティー
エラリイ・クイーン
の4人です。
特に、クリスティーはかなり読みました。

小説というのは読者によって好みがあるので、ある作品を他の人に強く勧めることはしませんが、この20巻に収められた小説が、推理小説~ミステリー~SFの古典的名作であることは間違いありません。

大人向けに書かれた、しかも「殺人」関連を含む海外小説を厳選して集め、子供向けに編む ── これは1960年代としては(いや、今でも)、かなり野心的な企画だったのではないか、と思います。人間の脳を取り出す話も含まれています。

おそらく、私のように、
《少年少女世界推理文学全集》
に育てられた人は多いのではないでしょうか。

感想を押し売りするつもりはありません。
珠玉の20巻ラインナップを紹介させていただきます。


1) モルグ街の怪事件 (The Murders in the Rue Morgue、エドガー・アラン・ポオ久米元一

2) シャーロック・ホームズの冒険 (コナン・ドイル白木茂バスカービルの魔の犬 (The Hound of the Baskervilles)まだらのひも (The Adventure of the Speckled Band)赤毛クラブの秘密 (The Red-Headed League)

3) 赤い家の秘密 (The Red House Mystery、A・A・ミルン神宮輝夫訳/ 黄色いへやのなぞ(Le Mystère de la chambre jaune、ガストン・ルルー) 神宮輝夫訳

4) ルパンの冒険 (モーリス・ルブラン那須辰造訳アルセーヌ・ルパンの冒険(Une aventure d'Arsène Lupin)奇巌城(L'Aiguille creuse)水晶のせんの秘密 (Le bouchon de cristal)

5) ふしぎな足音 (G・K・チェスタトン前川康男訳青い十字架 (The Blue Cross)ふしぎな足音 (The Queer Feet)飛ぶ星 (The Flying Stars)スマートさんの金魚 (The Song of the Flying Fish)霧のなかに消えたグラス氏 (The Absence of Mr Glass)古城のなぞ (The Chief Mourner of Marne)

6) 魔女のかくれ家二つの腕輪(Hag's Nook / To Wake the Dead、ディクスン・カー内田庶

7) ABC怪事件恐怖の旅客機(The ABC Murders / Death in the Clouds、アガサ・クリスティー塩谷太郎

8) エジプト十字架の秘密 /十四のピストルのなぞ(The Egyptian Cross Mystery / There Was An Old Woman、エラリイ・クイーン亀山竜樹

9) 恐怖の黒いカーテン /アリスが消えた(The Black Curtain / All At Once,No Alice、ウィリアム・アイリッシュ福島正実

10) 学園の名探偵(Murder at School、ジェームズ・ヒルトン)/スパイの秘密(Ashenden: Or the British Agent、ウィリアム・サマセット・モーム高橋豊

11) のろわれた沼の秘密 (Mystery of the Haunted Pool、フィリス・A・ホイットニー) 白木茂訳

12) マギル卿さいごの旅/チェーンの秘密(Sir John Magill's Last Journey / Inspector French and the Cheyne Mystery、F・W・クロフツ) 内田庶訳

13) エジプト王ののろい/スコッチ・テリアのなぞ(The Scarab Murder Case / The Kennel Murder Case、S・S・ヴァン・ダイン) 伊藤富造訳

14) あかつきの怪人 (The Holy Terror、レスリー・チャータリス) 福島正実訳/暗黒街捜査官(Pick-up on Noon Street、レイモンド・チャンドラー) 福島正実訳

15) X線カメラのなぞ(E・S・ガードナー)/マルタの鷹(The Maltese Falcon、ダシール・ハメット) 亀山竜樹訳

16) 非常階段/シンデレラとギャング (Fire Escape / Cinderella and the Mob、コーネル・ウールリッチ常盤新平

17) 名探偵シャーロック・ホームズ(コナン・ドイル) 白木茂訳青いルビー (The Adventure of the Blue Carbuncle)口のまがった男 (The Man with the Twisted Lip)恐怖のオレンジの種 (The Five Orange Pips)消えた名馬 「しろがね号」 (Silver Blaze)秘密書類事件 (The Naval Treaty)六つのナポレオン像 (The Adventure of the Six Napoleons)

18) ジキル博士とハイド氏自殺クラブ (The Strange Case of Dr. Jekyll and Mr. Hyde / The Suicide Club、ロバート・ルイス・スティーヴンソン飯島淳秀

19) ノバ爆発の恐怖(Gulf、ロバート・A・ハインライン) 内田庶訳/ 人工頭脳の怪(Donovan's Brain、カート・シオドマク) 内田庶訳

20) 生きている首(Glova Professora Douelya、アレクサンドル・ベリャーエフ) 福島正実訳/暗黒星雲(The Stars, Like Dust、アイザック・アシモフ) 福島正実訳


最後に、こんな素晴らしい企画・編集を行った方々に、今更ですが、深く感謝します。

刊行が2年間で終わったのは、ひょっとしたら権利関係などの事情があったのかな、とこれも今更ながら懸念しつつ……。

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