見出し画像

全話「袋綴じ」になっている本

――『ほとんど読めない』は角田貴広さんという編集者の方が、「言葉」について記録したもの。全部で35の文章が綴られているんです。どうしてほとんど読めないのかというと、本が逆向きに綴じられているので、カッターとかハサミなどでページを切らないと中身を読むことができないんです。全ての話が袋綴じになっているんです。


人生は物語。
どうも横山黎です。

大学生作家として本を書いたり、本を届けたり、本を届けるためにイベントを開催したりしています。

今回は「全話『袋綴じ』になっている本」というテーマで話していこうと思います。


📚ほとんど読めない本

少し前の話になりますが、去年からお世話になっている住み開きシェアハウス「はちとご」の管理人のはやぶささんから本のプレゼントをいただきました。

「住み開き」とは、家屋の一部を地域に開放する活動のことで、はちとごには日々いろんな人がやってきます。まちライブラリーに登録しているので私設図書館として機能している「はちとごライブラリー」と呼ばれる場所を地域に開放しているのです。子どもから大学生、社会人まで様々です。

以前の記事でもちらりと言及しましたが、図書館は既に本を借りるだけの場所ではなくて、人と人とが交流する場所になっています。本を借りなくても、読まなくてもよくて、そこに集まった人たちと歓談するだけで、その図書館は価値を提供しているといえるのです。

そういった意味では、はちとごライブラリーという空間は現代的な図書館の一例だなと考えるわけですが、別にだからといっていわゆる図書館としての魅力がないわけではなくて、市民図書館をイメージすると蔵書数でいえば物足りなさはあるかもしれませんが、絵本もあればビジネス書もあれば世にあまり出回っていない自費出版の本まで取り揃えてあるんです。

僕の初書籍『Message』も置かせてもらっています。

管理人のはやぶささんは「本は総合芸術である」というほど、中身だけでなく、装丁や紙質、コンセプトにこだわる人なので、いわゆる独立系書店に置かれているような本が並んでいます。もう流通していない本もなかにはあるくらいです。

そんなはやぶささんから「れいくん、きっと好きだと思う」という言葉を添えて贈ってくれたのが、『ほとんど読めない』という、その名の通り「ほとんど読めない本」でした。


📚「袋綴じ」という体験の価値

『ほとんど読めない』は角田貴広さんという編集者の方が、「言葉」について記録したもの。全部で35の文章が綴られているんです。どうしてほとんど読めないのかというと、本が逆向きに綴じられているので、カッターとかハサミなどでページを切らないと中身を読むことができないんです。全ての話が袋綴じになっているんです。

というわけで僕は、面白そうなタイトルを選んで、それが書かれているページを見つけて、そばにカッターがなかったからハサミで切って、開かれた言葉たちを読んでいきました。内容もさることながら、袋綴じという仕掛けも相まって、満足度の高い読書体験を経験することができました。

普通に印刷したコピー用紙を逆向きに折って綴じているだけなので、やろうと思えば誰でも簡単につくれる形式の本なんですが、「袋綴じ」という名前を与えることで価値が生まれているんですよね。

ひとつ僕だったらこうするかなと思ったのは、せっかく文章が35個あるんだから、読者の好きな順番で読ませる仕組みにしたいということ。『ほとんど読めない』は、表紙代わりに目次と奥付を合わせたページがあります。
#どんな本だよ

で、そこにタイトルがずらっと書かれているんですが、何度もいうように中身はほとんど読めないから、どのページを切れば、自分の読みたい話を読めるのか分からないんですよね。頑張って透かして確認するか、切らずにページを曲げて覗くように確認するかしないといけない。もちろん筆者の意図が「袋綴じに重きを置きたかった」や「順番通りに読んでほしい」や「好きなように読んでもいいけど確認するのに手間をかけたかった」にあるのなら頷けますが、僕だったら番号だけでも振ったりするのかなと。

何はともあれ、全部の話が「袋綴じ」になっていて、自分でページを切って読んでいくという「体験」を与えてくれます。面白い試みだなと思いました。

僕は手に取ったことがないから分からないけれど、えっちな雑誌によくある「袋綴じ」って、隠されているからこそ見たくなるし、自分の手でページを切って読む儀式があるから特別感があるじゃないですか(知らんけど)。つまり、「隠されていること」「自分でページを切ること」に価値があるわけです。

「袋綴じの本」と聞いて思い出したのが、折原一さんの『タイムカプセル』。タイムカプセルを題材にしたミステリー小説なのですが、なんと物語終盤、袋綴じになっているんです。それを開かないと、真相が分からないようになっているんです。

その仕掛けに惹かれて以前本屋さんで買ったんですが、積読状態だったので、これを機に読んでみたんです。正直な話、期待値が高すぎて袋綴じの中身に関してはあまり心が動かされることはありませんでした。タイムカプセルの内容がその袋綴じかと思っていたのに、それまでと同じように普通に文章が続いているだけでしたから、まずそこで拍子抜けになってしまった。

また、最後まで読み進めていっても、タイムカプセルの話だからそれっぽく袋綴じにしたという域を出ていなくて、わざわざ袋綴じにするほどの意味が備わっていなんですよね。これはネットでさらっと調べた本への感想でも見られました。

やっぱり、奇を衒うだけでは高い満足度にはつながらなくて、奇を衒うだけの意味がないと価値は生まれないんですよね。

そこで僕が思ったのが、僕の初書籍『Message』ならば、「袋綴じ」が上手く機能するかもしれないということでした。


📚「手紙」を付録にした本

『Message』は成人の日を舞台にしたヒューマンミステリーで、「110」というダイイングメッセージの謎を解き明かしていきます。最後の一行で心温まる真実が浮かび上がる物語なんですが、その最後の一行とは手紙のなかの一文なんですね。『Message』の最後は手紙の文章が綴られているんですが、そのなかで「110」の謎が解かれるという構成なんです。

手紙の文章をそのまま載せているだけだから、ここを袋綴じにしてしまえば隠された手紙の内容に価値が生まれると考えたわけです。

さらに思ったのは、隠すために袋綴じにする必要はあるけれど、物語的に袋綴じにする必要性はないので、そもそも「手紙」にしてしまえばいいのではないかという結論に至りました。本の付録として、手紙を添える。「本を読み切ったあと、最後に手紙を読んでみてください」という建付けにすれば、読者に「手紙を読むことによって謎が解かれる」という体験を提供することができるというわけです。

また、自分で手売りしてきて分かったことなんですけど、多くの人が本を後ろから読むんですね。あとがきくらいなら分かるんですが、エピローグから読んだりする人もいるので、読む前にネタバレされるおそれがあるんです。それを防ぐためにも、袋綴じにする、手紙にするという手段は悪くないなと思いました。

とりあえず『Message』は今のままの本の形で変えないつもりだけれど、たとえばもし改めて出版するとなった場合は、試してみようかなと思います。「体験」を意識した本づくりも追求し続けるつもりです。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。

20240211 横山黎


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?