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食中毒とは無縁な、作り置きできない環境。


常識を疑う人は少ない。

 今年の夏も、カレーを作り置きする際の宿敵、ウェルシュ菌によって病院送りになった話題が出てきた。

 我々現代人は冷蔵庫と言う文明の利器を、当たり前のように使用することで、手を加えて食品の水分を飛ばすことをせず、そのまま保存する生活に慣れきっている手前、食中毒を意識することがまずない。

 強いて言えば、賞味期限や消費期限を確認する程度で、それも食品メーカーが責任問題とならないよう、相当なマージンを設けた期間で設定していることが多く、食品に関して、自分の味覚や嗅覚で直感的に食べたらヤバいと感じる機会そのものが失われている。

 それ自体は食品ロスの減少に貢献していて、良いことのようにも思えるが、食品メーカー側が安全を期すために、まだ食べられる期限切れのものを処分している現実を考えると、悪くなった食品を廃棄するのが個人なのか、業者なのかの違いに過ぎず、国全体としてのフードロスが低減できているかと問われると、必ずしもそうとは言えない側面がある。

 そんな食品とは切ってもきれない食中毒だが、基本的に人間にとってのご馳走は、細菌やウィルスにとっても同様であり、増殖するのに適した温度で長時間放置すると、菌類は指数関数的に増殖して、それを知らずに人間の体内に入ると、毒素に抵抗するために具合が悪くなる。

 だから、しっかり洗う、加熱して食べる、冷やして保存が三原則となっているが、そもそも論、そこまでして作り置きをする必要性があるのか、常識を疑う人は少ない。

食事当番で食べ切りのメリットを実感。

 駅員時代、泊まり勤務の性質上、当番制で食事を作る謎システムがあった。シフトで休憩時間がズレているとはいえ、外で弁当を買いに行ったり、食べに行ってしまうと、いくら休憩時間とはいえ、輸送障害が起きた際に即座に対応できないのは宜しくない。

 そんな影響もあり、その日の当番が食材をまとめて買い出し料理することで、食事は事務室内で済ませる体裁を保っていたが、いかんせん食器を共用するため、コロナ禍で感染症対策の観点から必要性が問われ、なくなりつつある光景ではある。

 24時間の交代勤務の中で、駅にもよるが当番は1〜3食作る上で、基本的には食材を余すことなく使い切らなければならない。材料費として全員から数百円を徴収しているため、無駄に余らせてしまうと、もっと安くできたのではないかと文句を言われるからだ。

 だから、安くてボリューミーで食べ切れる献立を作ろうと思うと、その時々のスーパーの特売品で組み立てなければならず、否応なしに自炊スキルが身に付く。

 そのパズルに慣れてくると、食材を調達して直ぐに炊事に取り掛かり、それでいて食材が余らないため、出来あがった料理を保存する時まで、事務室にある冷蔵庫を使うことがないことに気が付いた。

 裏を返せば、個人でも食べ切り型で食材を都度調達して、出来たてを頂くだけであれば、そもそも食材を保存する必要すらない訳である。

冷蔵庫なし自炊生活の副産物。

 その真理に気付いた私は、割合近くにスーパーなどがあり、都度食材が調達できる環境なら、単身生活で冷蔵庫などなくても、自炊生活が成り立つのではないかと仮説を立てて実験して、かれこれ数年経過している。

 最初の頃こそ、ビールを冷やす用途で、ペルチェ式冷蔵庫が夏季限定で稼働していたものの、大して冷えない割に、容量も450mlのガラス容器が最大で4つ格納できる程度で、食品保存で使用する機会はほとんどなかった。

 しかも、処分費用が通常の冷蔵庫と同じ金額を取られるため、売れるうちにフリマアプリで売却し、それ以降は氷がセルフサービスのスーパーを好んで選び、保冷バッグで買い物。鮮度を保ちながら帰宅し、氷は処分せずにボウルに入れる形で再利用して、ビールを冷やす方式に変えたため無問題。

 そもそもが1日2食で済ませていることもあり、1食目は常温保存可能品で簡素に済ませ、2食目を自炊してガッツリ食べる生活スタイルのため、そこまで毎日の食材調達&自炊は負担に感じなかったことも、今まで続けられている要因かも知れない。

 不満点があるとすれば、単身者の食べ切りに向いた食材が、押し並べて割高である点だろう。特に根菜は、1袋と1個の価格差が10円しかない時に、敢えて1個で買うのは勿体ない病が再発するが、食べきれない量を買い込んで、ロスするよりはマシだと言い聞かせて、割高な少量パックを購入する頻度が高い。

 そんな生活も、時代の進化でホットクックたる自動調理鍋が登場したことで、予約機能で食材と調味料を入れて、メニューをセットするだけで、朝には温かい料理が食べられる神機能を手に入れた。

 それにより、事実上1回の買い出しでその日の夕飯と、翌日の朝飯の2食分の調理が可能となった。もちろん一晩中、釜の温度を高温に保つため、食中毒の心配がなく、1袋で買っても2食に分けるなら食べ切れる。

 こうして冷蔵庫なしでの自炊生活を続けているが、食材を余らせることも、作り置きもできない制約上、否応にも毎食出来立てを頂くから、食中毒とは無縁である。

 食材が手元にないのは不便に思えるかも知れないが、近所のコンビニやスーパーを外部冷蔵庫だと捉え、必要な都度取りに行くことで、食材を管理する手間がなくなるメリットは計り知れない。

 毎日が食べ切り型だと、本当は中華が食べたい気分だけれども、昨日の根菜が余っているから仕方なく和食…なんて思いをせず、今食べたいものを作って食べられる。そんなシンプルな生活を試してみると、見える世界が変わるかも知れない。


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