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直感による判断は概ね正しい。

美しい機械は性能も素晴らしい。

 博物館に置いてある新幹線の代表格が0系である。世界で初めて210km/hの営業運転を行った車両で、1964年の東京五輪の目玉でもあり、高度経済成長のシンボル的存在でもあることから、全国の博物館に展示されているのだろう。

 そんな初代新幹線の0系は、東京五輪に間に合わせる形で急ピッチで開発しなければならなかった事情から、実は枯れた技術の集大成的な設計思想で、革新的な新機軸がある訳ではなく、技術的に博物館に展示するほど特筆すべき点はない。

 裏を返せば、古くから使われていた技術だからこそ、新幹線の歴史上、車両に起因した死亡事故が発生していないとも捉えられる。とはいえ、世界初の210km/h運転を行なった車両で、当時の鉄道技術では、蛇行動のメカニズムすら誤認していた時代で、零戦の開発陣であった松平精さんがこれを解明。0系の台車に活かされ、研究そのものは振動学の基礎を築いた。

 そんな時代に、空気抵抗をシミュレーションするコンピュータなどある訳もなく、最適な先頭形状など知る由もないが、設計に参画していた島秀雄さんは興味深い持論を展開している。

”合理的なメカニズムは、美しくなければならない。美しい機械は性能も素晴らしい。”

新幹線をつくった男 島秀雄物語|高橋 団吉

 この美学が影響しているのか、0系には航空力学が多分に応用されており、先頭形状はこれまでの鉄道車両の流線形とは一線を画した、ダグラス DC-8を踏襲している。確かに団子鼻の先頭形状や、運転台の窓周りに面影がある。

 更なる高速化を図ろうとして、トンネルドン問題が浮上したのが1989年と、開業から実に四半世紀後の話で、人間の美しいと思う直感的な判断でも、相当シビアな世界でない限り、それなりに通用するのかも知れない。

神は細部に宿る。

 何よりも美しさに重点を置いていたものの典型として思い浮かぶのが、スティーブ・ジョブズがCEOに返り咲いた頃に発表されたApple製品の数々である。

 映画スティーブ・ジョブズ(2013)で、自宅のガレージでApple Iを数十台規模で製造するシーンでも、数をこなすためにやっつけ仕事で半田付けするウォズに対して、自分で基盤すら作れないジョブズが、ウォズに美しく丁寧に半田付けするようにと注意して、見えない部分にまで拘るシーンがある。

 映画化するにあたり、脚色されている部分もあるだろう。映画とは無関係だが、これ以上製品の小型化は不可能だと言った技術者に対して、製品を水没させて「泡が出ると言うことは、まだ隙間がある」と黙らせた、マジキチな逸話も出回るくらいである。

 実はこのネタはソニーのハンディカム開発時の逸話説が濃厚だが、ジョブズのサイコパス振りから、いつの間にか濡れ衣を着せられて、デマの方が有名になってしまった。日頃の行いやキャラ設定の重要性を痛感させられる。

 とはいえ、ジョブズがソニー製品に影響を受けていることから、この思想が踏襲されている可能性は高い。以前、iPhone 4SとBlackBerry Bold 9900を併用していた時期があったが、似たようなサイズ感でBlackBerryは物理キーボードを搭載しているにも関わらず、重量はiPhoneが10g重かった経験から、iPhoneは重厚な印象がある。

 デザインに関してもiPhone 6以降、迷走したが12〜14シリーズ(執筆時点最新)では、当時アンテナゲート問題を抱えていた4シリーズを彷彿とさせる、背面ガラス、側面の金属製フレームがアンテナを兼ねた仕様と、原点回帰している。

 このことからも、技術者が想定していたアンテナゲート問題の反対意見を、ジョブズとアイブがゴリ押しして製品化した、iPhone 4の直感的な美しさを追求したデザインが、結果として理にかなっていたのは何とも皮肉である。

知見の積み重ねが、直感を裏付ける。

”知識と情報の裏付けのある直感は恐ろしく正確です。7割から9割は正解を導き出すとも言われます。準備不足の直感はただの思いつきですけどね。”

おカネの教室 僕らがおかしなクラブで学んだ秘密|高井 浩章

 引用した本文の元ネタとなっているのは、イスラエル・テルアビブ大学の研究で、直感の的中率が90%である論文と思われる。

 人間の直感というのは、これまで脳に蓄積されている、知識や経験に基づいて最適解を導いているのである。そのため、直感的に美しいと感じたものが、結果として理にかなっているのだろう。

 私は記憶力が悪いと自覚しているし、遺伝子的にも海馬が小さい傾向にあることを、遺伝子検査で知ってしまった。人間の脳のメカニズムは完全には解明されていないものの、一般論では、これまで起きたことの殆どは記憶されているが、それを引き出せていないだけと言われている。

 つまり、データベースから引き出せない状態を、我々は記憶力が悪いと表現している。ここからは持論になるが、人間の直感は恐らく、意識的には引き出せていないデータベースも引っくるめて、最適解を算出しているのだろう。

 自身の投資経験で、ポートフォリオが美しいと感じている時は、好況ならリターンは市場平均よりも良く、不況であっても市場平均より下落が抑えられている実感がある。β?知らない子ですねぇ。

 簿記や会計の知識を身に付けてから、定量分析したところ、どんなに得意なセクターでも、投資割合の上限は20%と、これまで特段意識せず銘柄を組み替えていたにも関わらず、気持ち悪いくらい上限が揃っていて衝撃を受けた。

 恐らく根底に株式投資は最悪半値になることを踏まえ、もし特定のセクターが連鎖倒産で爆死しても、ポートフォリオ全体の影響は消費税分(10%)程度に留めたい直感から最大2割で落ち着き、好調で比重が大きくなるとリバランスしたくなるのだろう。

 脳が無意識下で最適解を模索して、結果として正しい直感を導いてくれるためには、裏付けとなる正しい知見が必要である。それを補いたいから、私は一旦高卒で社会に出たにも関わらず、投資を題材に経済や会計を学んだり、大学で学び直しているのかも知れない。ヒトは何歳になっても学べる。


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