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アルケミスト〜僕の星は誰にも奪えない〜#8

最終話〜心で見た宇宙〜

【最期のカード・世界】

金木犀の花は、誰に恋をしたのだろう。


僕らが出逢った2ヶ月前、僕らは今日ここで再会の約束をしていた。

僕の心は既に変容(アルケミー)していた。

この黄金色の金木犀のように。

*

数時間前ー…

街路樹の実は黄金色。季節は満ちていく。
僕らは様々な出逢いと別れによって次々と変容(アルケミー)していく。

沢山泣いたり笑ったりした日々は、やがて一つの本になる。

人生がもしも一冊の本ならば、僕は目一杯の想いを君に伝えたい。君に出逢って僕の世界はこんなにも美しく変わってしまったから。

だから今日僕はこの気持ちを伝えに行こう。2ヶ月前、君のサーカスが僕の街に再びやって来る日を教えてくれた時、僕らは再会の約束をしていたから。

僕はばあちゃんが持たせてくれた花束を持って、知らないピエロたちばかりの会場をぐるぐると歩き回った。

マーガレットは良い香り。君はどこにいるんだろう。


まるで僕は外国にでも来てしまったみたいだった。三角テントの中は星でいっぱい。
至るところに星のモチーフが描かれている。

その中には古いゾウや玉乗りに使う丸球、宙吊りに使うロープは古そうで素人の僕が見ても危なさそうな物だった。

三角テントの中をぐるりと歩き回って控え室と書かれた大きな星カーテンの中へ入っていくピエロの2人組が話していたのが僕の耳に入ってくる。

「ねぇ、あのプエラって子どうなったのかしら。宙吊りのロープが切れちゃった子よ。植物状態って聞いたけど、全然音沙汰ないじゃない?ねぇ。」

僕は耳から頭が飛び出しそうな勢いでその2人組に飛びかかった。入院先と担当医と部屋番号全てを聞き出した。神様、どうか神様、プエラが無事でありますように!

もう何も見えない、僕の世界から景色が消えた。そこには僕の姿と、ガランとした病室だけがあった。僕を追いかけて来たカルサーは息を切らして説明した。

「シクシクシッ…プエラは、プエラは…人体をアルケミー化されちゃったんだヨッ…!ボクたちのサーカスの…資金に…ッされたんだヨッ!」

人体をアルケミー化…?

僕の世界から何もかもが消えた。まるで視力がなくなったみたいにもう何も見えない。

カルサーは胸ポケットにしまっていた一冊の本を差し出した。プエラが一番好きだった本。表紙には「マリヴロンと少女」とある。そこには栞が挟んでおり一文に線が引いてある。

「正しく清くはたらくひとはひとつの大きな芸術を時間のうしろにつくるのです。」

栞にされたのは歯を見せて笑うプエラの姿を写した写真だった。

*

現在ー…

どうか、君がこの世界にいないのなら誰もそれを僕に知らせないでほしい。
その報せを知らなければ僕はいつまでもこの場所で君を待つことが出来る。

僕は君に出逢ってから沢山泣いて沢山笑った。それは君が教えてくれたんだ。僕は変容(アルケミー)してしまったよ。もう君に出逢う以前にはなれない。

だから僕は今日というこの日に栞を挟むよ。この金木犀の香りを栞にするよ。

そうすればいつだって君のことを想い出すことが出来る。僕はこれから度々このページに戻ってくるだろう。君の匂いを捜して生きるだろう。

空に波に君を想うだろう。この香りがした時、僕は泣いてしまうかもしれない。でもそれは全部君のせいだよ。今、僕は心で宇宙を見るように、心で君を見ているよ。

〜僕の星は誰にも奪えない〜



〈完〉

PS
最後まで
お付き合い頂き、
本当に本当にありがとうございました!

励みになりますので、
是非コメントお待ちしております!

次回作、
「ディセンダント(仮)」お楽しみに!

(今後の更新については、
またお知らせ致します♪)

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