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昨日一昨日は延命治療について少し書きました。そこで出てきた「胃ろう」という言葉があります。

胃ろうとは、胃に穴をあけて専用のチューブを挿入し、栄養補給をする方法です。

胃ろうは延命治療に行われる手段の一つです。一般的に、いったん始めると外すことが困難だと言われています。なのに、一部の医療関係者は、外せると言います。

A医師:胃ろうを外すことなんてできるわけがない。
B医師:胃ろうは、家族の要望があれば外すことができます。

さて、あなたの大事な家族が胃ろうするか、しないかの瀬戸際だったとしましょう。A医師に出会うか、B医師に出会っているかで、患者と家族の人生が大きく変わります。

もう一度整理しておきましょう。

胃ろうは延命治療の一つです。日本では安楽死は法律的に許されていません。胃ろうを外すと、命の保証がなくなる可能性があります。口から食べることができず、管から栄養を入れているのを外せば、死へ向かうことは容易に想像できます。それは安楽死とも捉えかねません。それなのに、外すことができると説明する医師がいるのは事実です。

ある一例をご紹介しましょう。

患者さんはアルツハイマー型認知症の終末期であり、寝たきりで、表情も消失した状態でした。そんな認知症の母親を介護する娘さんから、「母は今のような状態を望んでいない。苦しんでいると思う。胃ろうをやめさせてあげたい」という申し出がありました。

胃ろうを外したことが原因で死亡すれば、医師が死亡させたとして、犯罪行為になってしまう可能性があります。病院経営側とすれば、犯罪かどうかの疑いすら持たれるリスクを避けるはずです。しかし、ガイドラインに沿って以下のことを行ったと言います。

・介護者である娘さんに介護放棄の疑いはないこと、抑うつ気分を認めないことを確認した。
・複数の医師でカンファレンスを行い、本人の『よりよき生』のために栄養療法の中止を検討することは妥当性があると判断した。
・複数の医師で診察を行いアルツハイマー型認知症の終末期であり、嚥下能力の回復は不可能と判断した。
・栄養療法中止に限らず、過去の治療中止にまつわる判例を検討した。
・疎遠の息子にも現状を電話で説明し、息子も栄養療法の中止を望むことを確認した。

そして、患者さんのご自宅で関係者(娘さん・医師2名・ケアマネージャー・訪問看護師・介護士・福祉用具・訪問入浴のスタッフ)によるカンファレンスを2回行いました(事前に娘さんを含む全員にガイドラインを熟読してもらいました)。いずれの職種も娘さんが今の母親の幸せを考えて栄養療法の中止を望むのならば、娘さんの考えを支援するという意見でした。この結果、家族と多職種間で合意が得られ栄養療法を中止する方向となりました。

いかがでしょう? これは実際にあった出来事です。横浜市立大学総合診療医学准教授の日下部明彦先生のお話を引用させていただいています。

最終的には栄養療法の中止を行う前にインフルエンザ感染症により呼吸状態が悪化し、永眠されました(栄養中止の申し出があってから約3か月後)

胃ろうを外すことができると判断されるまでに、約3ヵ月かかっています。実際には胃ろうを外すことなく、お亡くなりになりました。


ここでもう一度読み返して整理しましょう。

最初に書いてあるように「患者さんはアルツハイマー型認知症の終末期であり」という状態です。そこにあれやこれやと条件を加えながら、検討することができたのです。これがもし、認知症の終末期でなかったとしたら、おそらく外すという結論は出なかったのではないかと私は思います。

また、申し出があってから結論を出すまでに、約3ヵ月もかかっています。

要するに、「胃ろうを外した例は過去にあるけど、簡単ではない」ということが書かれています。それを家族からの要望があればあたかも簡単に外すことができるような説明をする医師にもし出会ってしまったら、大変なことになります。

患者側も知識が必要です。もしもの時に、医師や病院側の言いなりになるのではなく、ちゃんと説明を聞き、自分でも調べてから結論を出すことが望ましいと思います。今回はほんの一例です。他にもいろんな事例がありますから、私たちも一緒に勉強していく必要があると思います。


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