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小説の話

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主に新刊ミステリの感想を綴っていきます。稀に既刊の感想も書くかも。
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記事一覧

【小説】東野圭吾『あなたが誰かを殺した』

【小説】東野圭吾『あなたが誰かを殺した』

【感想】

大ベストセラー作家、東野圭吾御大の新刊。

日本トップクラスの平易で読み易い語り口。
人間を描くことに長けていて、感情移入を避けられない巧みな筆致。
ミステリだけに留まらず、SF、恋愛小説もお手のもの。

デビュー当初、器用貧乏などと云われていたのがまるで嘘のよう。

しかし、本格ミステリシーンに絞ってみると、ここ数年は高評価を得た作品はあまりない。

直近で本ミスベスト10入りした作

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【小説】荒木あかね『ちぎれた鎖と光の切れ端』

【小説】荒木あかね『ちぎれた鎖と光の切れ端』

【感想】

江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『此の世の果ての殺人』は未読。

買ってはあるのだけど、個人的に乱歩賞とあまり相性が良くないのもあり、なかなか手が伸びなかった。

けど、これは方々でいい評判を聴くので後追いながら読んでみた次第。

読んでなるほど。

しっかり本格ミステリをやっていながら、2部構成にすることで物語性も出して、叙情的な雰囲気も醸し出してる。

第1部はクローズドサークルと

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【小説】市川憂人『ヴァンプドッグは叫ばない』

【小説】市川憂人『ヴァンプドッグは叫ばない』

【感想】

長編としては『グラスバードは還らない』から5年ぶりの新作となる。

そのグラスバードはその年の本格ミステリベスト10に於いて第5位と高い評価を受けた。

しかし僕個人としては、ミステリとして御法度に近い一部のトリックを受け付けられず、全く評価していない。

第二作目『ブルーローズは眠らない』が大傑作で、僕のツボに刺さりまくったミステリだったので、著者との相性が悪いというわけでもないのだ

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【小説】呉勝浩『素敵な圧迫』

【小説】呉勝浩『素敵な圧迫』

【感想】

著者の作品は『スワン』を読んだのみだが、これが堪らななく僕好みのミステリだった。
小さな違和感を積み重ね、それを丁寧に紐解いた果てに訪れる真相には否が応でも心を動かされた。

僕は基本的に、どれほど物語性が強くとも、ミステリを読んで感動することはあまりないのだが、この『スワン』に於いては登場人物の慟哭がこちらにも伝わるレベルの筆致で圧倒されてしまった。

そして、昨年出版された『爆弾』

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【小説】紙城境介『シャーロック+アカデミーLogic.2』

【小説】紙城境介『シャーロック+アカデミーLogic.2』

【感想】

一冊丸ごとプロローグ的な感じを出しつつも、押さえるところはしっかり押さえた、ロジックが愉しめる本格ミステリであった前作。

今回は学園を飛び出して孤島が舞台。
そこで起こる連続殺人事件。
ひとつは、皆が見つめる先で凶行が行われる衆人環視の殺人。
ひとつは、鍵の掛かった密室内で発見された毒殺死体。

これは面白くなりそうだぜっ!

って思ったのは途中まで。

あれ、なんか思ってたのと違う

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【小説】伊吹亜門『焔と雪 京都探偵物語』

【小説】伊吹亜門『焔と雪 京都探偵物語』

【感想】

デビュー作『刀と傘』を本棚に眠らせたまま、本作を先に読むことになってしまった。

今年は新刊を頑張って読もうと決めたはいいけど、やっぱり既刊1冊くらいは読んだ状態で臨みたいね。

といわけで初読の作家なわけだけど、ホワイダニットが印象的な作風だと風の噂で聞いていた。

確かミステリーズ新人賞を射止めた短編でも”なぜ死刑囚は殺されなければならなかったのか?”というホワイダニットを扱ってい

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【小説】夕木春央『十戒』

【小説】夕木春央『十戒』

【感想】

昨年、『方舟』が各方面で話題になり、その熱も冷め止まぬうちに刊行されたのが今作。

正直なところ、『方舟』が”各方面”で評価されたというのは意外だった。

というのも、内容はガチガチのロジック偏重の本格ミステリであって、エンタメ性には乏しく、一般層への求心力がさほど高いとも思えなかったから。

確かに、ラストで訪れる、今まで見てきた世界が壊されるほどの反転は見事ではあったけど、そこに至

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【小説】雫零『不死探偵・冷堂紅葉01.君とのキスは密室で』

【小説】雫零『不死探偵・冷堂紅葉01.君とのキスは密室で』

【感想】

碌に動かしていない僕のTwitterが、何故か著者本人にフォローされたってことで、本書の事を認知した。

そうでもなければ存在を知る事も無かっただろうし、仮に知ったとしても手に取ることはなかったと思う。

けど、妙に気になってしまった。

見取り図があるらしい。
密室殺人が起こるらしい。
特殊設定ミステリでもあるらしい。
さらには読者への挑戦状もあるらしい。

目につく本書の惹句が、僕

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【小説】米澤穂信『可燃物』

【小説】米澤穂信『可燃物』

【感想】

ミステリ新刊の年度で言えば、『栞と嘘の季節』に続いて2冊目となる。

シリーズ物長編だった前作とは違い、今回は新シリーズの短編集。

雰囲気も、学園青春ミステリから、刑事たちが泥臭く足を使って得た情報を元に推理をするという警察小説となっている。

本作の発売が決まった時から、僕はめちゃくちゃ期待してた。
米澤穂信の警察物は『満願』に収録されている「夜警」という短編しか読んだことがなかっ

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【小説】連城三紀彦『黒真珠』

【小説】連城三紀彦『黒真珠』

【感想】

このクオリティの短編、掌編がこれまで一度も書籍化されてこなかったことにまず驚く。

解説でも「落穂拾いと侮るなかれーー」と言われているけど、まさにその通りで、連城の代名詞である反転がこれでもかと堪能できる傑作短編集。

特に収録短編の「ひとつ蘭」は連城三紀彦の傑作群《花葬シリーズ》に入れても何ら遜色のないクオリティの一編。

故人の作品であるため、各年末ランキングでどのような評価を受け

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【小説】方丈貴恵『アミュレット・ホテル』

【小説】方丈貴恵『アミュレット・ホテル』

【感想】

タイムリープを題材に書いた特殊設定ミステリで鮎川哲也賞を射止め、以降も《竜泉家の一族シリーズ》と題し、特殊設定物を書き続けてきた著者。

昨年発表した『名探偵に甘美なる死を』が本ミス4位と大健闘。
個人的にはその前作に当たる『孤島の来訪者』の方が本格ミステリとしては優れていると思う。
前者はVR空間、後者は未知の生物を扱ったミステリで、いずれも特殊設定を活かしたトリック、ロジックが持ち

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【小説】青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス4』

【小説】青崎有吾『アンデッドガール・マーダーファルス4』

【感想】

昨年、『早朝始発の殺風景』がドラマ化して、脂が乗ってるなぁ…なんて思ってたら、なんとなんと『アンデットガール・マーダーファルス』がアニメ化決定。
さらには『ノッキンオン・ロックドドア』が連続ドラマ化するとの情報が。

いや、そんなことある?
超売れっ子作家大先生じゃないですか!

そんなアニメ化に合わせるように発売されたのがこの第4巻。

あれか、《裏染天馬シリーズ》も映像化決定すれば

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【小説】渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』

【小説】渡辺優『私雨邸の殺人に関する各人の視点』

【感想】

今年度は頑張って新刊ミステリを読んでいこうと決意した5月末辺りに、既に発売されていた新刊を片っ端からリストアップしていって、それを片っ端から読んでいっていたのだが、本書は今の今までノーマークだった。

媒体は忘れたが、何らかのSNSでタイトルを見て、あらすじを読んでみた所、どうやら古き良きコード型の本格ミステリっぽかったので、物は試しと購入してみた次第。

どうやら著者は文学畑の人らし

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【小説】夕木春央『時計泥棒と悪人たち』

【小説】夕木春央『時計泥棒と悪人たち』

【あらすじ】

【感想】

昨年発売された『方舟』が方々で高く評価され、メディアでも紹介されたりと、かなり旬なミステリ作家の新刊。

本作はメフィスト賞を受賞したデビュー作『絞首商会』、受賞第一作となった『サーカスから来た執達吏』に連なる短編集となっている。

とは言え、上記2作品を読んでいなくとも、十分に楽しめる作りになっているのでご安心を。

かくいう僕も『絞首商会』は未読。
『サーカスから来

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