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介護の学び#10【幸せについて考える】

介護業界での20年近くの経験をもとに、学んだことについて投稿していきたいと思います。

今回のテーマは【幸せを考える】です。

介護の仕事をしていると、利用者様だけでなく、利用者様を支えている家族様など多くの方の人生に触れさせていただく場面があります。

人生に触れさせていただくということは、当然そこには”終わり”があります。

私たちの仕事は「最期の時」を迎える瞬間に立ち会うこともある仕事です。

人の命には限りがあることを改めて、実感として思い知らされる瞬間です。

利用者様お一人おひとりの人生がそれぞれに違うように、最期の時も同じく人それぞれです。

急に状態が変化して突然その時が来る方もいれば、徐々に体調が変わってその時を迎えられる方、病状の変化により利用者様本人も承知のうえで最期を迎えられる方…本当にそれぞれです。

しかし、違いはあれど唯一絶対に変わらないことがあります。

そのすべてが尊い人生ということです。

これは絶対に変わりません。

人である以上、最期は必ず来る、時間に限りはある

私は最期を迎えるにあたってどのようにその時を迎えるのか、利用者様にお話しいただいた経験があります。

利用者様が話される中で出てきた言葉の一つに【幸せ】がありました。

この【幸せ】について、利用者様の考えを聴かせていただいたことは、その当時の私にとっても、今現在の私にとっても、そしてこれからを生きる未来の私にとっても、非常に大きな経験であり、私にしか手に入れることのできない貴重すぎるほどの財産だと感じています。

介護の現場で学んだ【幸せを考える】

その利用者様はもともと癌を患っておられたのですが、比較的まだお若い方であり認知症もなく身体的な支援もほぼ必要のない方でした。

定期的に検査を受けておられたのですが、ご本人としては積極的な治療は望まず「変化が知れればいい」という考えをお持ちでした。

冗談が大好きで気概のあるたくましくも心優しい方であり、読書家でもあったため、多くの学びと同時にたくさんの笑顔をいつも私にくださいました。

私はその利用者様にすすめられた本や映画、音楽を聴き、その後に利用者様に話を聴かせていただくことが楽しみでした。

その時の私はまだ、その利用者様が最期のときに向かっているという感覚ではなく、ただ単に出会いに感謝するばかりで、その利用者様に「日々の楽しみをいただいている」という感覚しか持っていませんでした。

そんなある日、いつも通り出勤してその方のところに伺ったときのことです。

利用者様はいつもと同じように本や音楽の話をしてくださり、その日は「スティーブンキング」と「フランク・シナトラ」を教えて下さいました。

そしてアメリカで過ごした話や若い頃の仕事の話をしてくださり、私にたくさんのアドバイスをくれました。

話を終えてお礼を言って退室しようとした時「そうだ」と利用者様は切り出し、医師から検査結果が良くないと言われた話、もって半年から一年と言われたという話、そして最期のときがすぐそこまで来ていることについて話してくださいました。

この話の瞬間やそこから数日間は体調の変化はなく、まだ実感できないような状態でしたが、やはり医師の診断の通り徐々に体調は変化していきました。

以前のように全く変わらない雰囲気でとまではいきませんが、私は変わらずにその利用者様のお部屋に話をし聴きにいきました。

おこがましい話ですが、その利用者様は独り身だったので、少しでも気が紛れたらという気持ちもありました。

数日後のことです。

「○○くん、幸せについて考えたことはあるか?死が近いとなるとやっぱり色々考える。幸せって色々な幸せがあるのに、一般論みたく決まったようにこれが幸せだって口調で色んな人が決めつけて言ってくる。テレビでもなんでも、ここの職員たちも。私はその一般論には該当しないから、みんなが思うに私の人生は幸せではないらしい。私は幸せだと思っているのに?笑えるだろう?死ぬのも私で、幸せかどうかを決めるのも私なのに。私はこのままでいい。それが自然だ。○○君はまだ若い。これからがまだまだある。人生を楽しめ」

その利用者様は笑って私に話してくださいました。

その当時23歳だった私は言葉にすることも出来ず、ただ泣いてその場に立っていました。

「何を泣くことがある?まだ死んでない、まだもうちょっと先だ、早いよ。それとも君まで私を憐れむのか?私は幸せだと言ったのに。行け、駆け足だ」

利用者様はいつもと変わらない口調で私にそう言ってくださいました。

そこから3カ月を待たずして、その瞬間は訪れました。

介護の仕事を通して【幸せを考える】という貴重でかけがえのない出会いと時間をいただきました。

私は今幸せであり、今も幸せを追い求めている最中です。

最後までご覧いただきありがとうございました。

sabukurocha


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