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【ショートショート】1のつく日と背徳チーズケーキ

「じゃんじゃじゃ~ん!」
「何そのでっかいの」
「チーズケーキ!」

 風呂も入り終えた金曜日の夜。長袖の部屋着に扇風機と言う贅沢を決め込みながら缶ビールを傾ける。そしてその缶ビールも最後の一滴となり、そろそろ次を開けようかと考えていた頃。風呂から上がり、髪を乾かし終えた彼女が、陽気な効果音と共に冷蔵庫から取り出したそれを掲げた。
 彼女の両手で大事そうに掲げられたそれは、ソファーに座り見上げる俺からは楕円型の大きなパッケージの底しか見えない。その為その正体を問いかけると、陽気な声とは裏腹にチーズケーキと言う簡潔な返答。

「これね、毎月一日だけ安くなるんだってさ。見て!こんなにおっきいのに五百円なの!」
「へぇ、安いな」
「でしょー!?この間、会社の神里さんに教えてもらったんだー」

 ぽんと会話に友情出演したのは彼女の同僚。甘いものに目がなく、二人でよくスイーツ会議を開いているらしい。と、記憶の引き出しを開けて照合が終わったところで、いつの間にやら移動していたらしい彼女の声がキッチンから伸びる。「ワインでいいー?」との声に是を返しつつ、ソファーから立ち上がった。
 キッチンで彼女と合流し、彼女が赤ワインのボトルを開ける。オープナーを使わないで済む安物の蓋を開ける音がぱきっと耳に届いた。それに合わせてグラスを二つ、食器棚から取り出す。フォークも二本。取り皿はゼロ。ずぼらな俺達は、せっかくのチーズケーキもフォークで直食いする事に抵抗はない。
 むしろその直食いの背徳感が最高のスパイスなんだ。とは、俺よりずぼらな彼女の金言だ。

 そしてそのずぼらはフォークを手にするや否や、「一口だけ」と元気良く俺の全身を跳ね回る。右手に持ったフォークを存在感たっぷりのチーズケーキに一刺し、一つまみ。スフレのふんわりとした触感と、甘過ぎずくどくないチーズが口内に広がって、もう一口。

「ねぇー!つまみ食い禁止ー!」
「この間、つまみ食いが一番うまいって言ってたの誰だよ」
「それはそれ、これはこれ!二口食べたから大ちゃんの分は二口減らすからね!」
「はいはい。ほら佳奈も食えー」
「んっ、うまー!」

 リビングに戻る頃、チーズケーキは半分になっているかもしれない。



コージーコーナーのチーズスフレケーキ、昔からタイミングが合った時だけ買っている。
そしていつも「チーズケーキだけ」と思いながら、他のケーキも買ってしまう。
巧妙な罠だ……!



下記に今まで書いた小説をまとめてますので、お暇な時にでも是非。

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