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【短編小説】イケイケピーマン



イケイケピーマンはイケていた。



イケイケピーマンは鮮やかだった。



イケイケピーマンは輝きを放っていた。



照明に照らされた彼はとても新鮮でみずみずしかった。



他の野菜にも憧れられていた。



「ピーマン先輩かっけえっす!この売場で一番緑が鮮やかっす!」


ぷくぷくパプリカはそう褒めた。


「いやあ俺ほどの野菜になると、輝きが隠せねえんだわ」


「さすがっす!俺らよりもシュッとしてて、すっごくかっこいいっす!」



イケイケピーマンは自信があった。



「俺はイケてるから誰からも愛されるんだ」



そこに親子がやってきた。



「あ、見てたっくん、ピーマンさんとパプリカさんがいるよ」


母親がそう言うと、ピーマンはキメ顔をした。


しかし男の子は、


「ピーマン嫌い、パプリカがいい」


と言った。


「好き嫌い言わないの、ピーマンもおいしいよ?」


「やーだ!ピーマン美味しくないから嫌い!」


「はあ…じゃあ今日はパプリカにする?」


「する!」


そう言ってパプリカを手にとった親子は野菜売り場を去った。




ピーマンは自信をなくしていた。



「俺は…誰からも愛される存在ではなかったのか…?」


「ピーマン先輩…」


パプリカは気まずかった。


ピーマンはこどもの嫌いな野菜ランキング1位ですよ、

とは口が裂けても言えなかった。



ピーマンは自信がどん底まで落ちてしまった。



この売場で一番新鮮な緑色を放つ自分はどう考えても特別な存在だと思いこんでいた。



所詮は井の中の蛙。

体も緑色だし、そうとしか思えなかった。



自信を失ったピーマンは何もかもどうでも良くなっていた。



もういいや。


ピーマンはサングラスを外した。



イケイケな面影はもうどこにもなかった。



しばらく経って値引きシールが貼られた。



ああ。結局俺は誰にも食べられないまま廃棄される存在なんだ。



ピーマンはますます自信を失った。



隣にはもうぷくぷくパプリカの存在もなかった。



いずれ廃棄される者が集まるその場所でピーマンは運命がむかえに来るのをただただ呆然と待っていた。




その日の夕方、あるサラリーマンがピーマンを手にとった。



「お、いいな」



何を言っているんだ。情けをかけないでくれ。

俺はただのしょぼしょぼピーマンだ。もう昔の面影はどこにもない。





トントントントントン……



サラリーマンの家で細切りにされたピーマンは、もう何もかもがどうでも良くなっていた。



「いただきます」


缶がプシュッとあく音が聞こえて、ピーマンは人間に食べられた。



「かぁ、無限ピーマンうめぇ」


無限ピーマン?


何だそれは。



なんだその愛される食べ物につけられる名前は。


俺のことを無限に求めてくれるのか…?


俺は…存在しててよかったのか…?



「やっぱピーマンが一番うめえわ」


一番、か。


俺は一番になれたのか。



こどもに好かれなくても、

この男にとっては俺が一番おいしいのか。





……そうか。



ピーマンは少しだけ笑顔になった。




全員に愛されなくても、イケイケな俺でいてよかったんだ。

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