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#100 未来の日本へ、10の提言

100番目の記事になりました。今回は外に目を向けて、「こうすれば日本はもっとしあわせな国になる」と僕が信じる改革案を10項目示そうと思います。とんがってぶっ飛んだ意見が多いとは思いますが、過去15年間ほどであたためた案です。どうぞお付き合いいただき、ご意見やコメントをいただけると嬉しいです。



まずは改革のアウトラインを

ここに示す10の改革案はすべて、自分がこれまでに知り得た諸外国での実践例や価値観などを参考に考えた。実際にはかなり地に足のついた提案だと思う。責任ある提案を行うために、これまでに業務として経験した分野で提案する。
 今日はまず10の提案の概略を示すだけにとどめ、各々の提案の詳細は、今後しばらく時間をかけて、一つずつ説明していきたい。6つの職場と4つの大学を3カ国で巡ってきた視点から未来の日本を見つめてみたい。

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就職に関する制度改革

【改革1】 就職活動の解禁日は、大学卒業後の4月1日にしよう

大学生の学習機会尊重および研究能力向上のため、就職活動は「卒業証明書」をもってはじめて可能とする。つまり、すべての就活は、大学卒業後の4月にスタートする。大学生は全員就職未定の状態で4月を迎えることになる。
 大学で学問を修めた後に自己の適性を見定める期間が必然的に生じ、北欧などで一般的な「ギャップイヤー」の日本版が自然な形で導入される。50年後、100年後の日本を考えると、欧米に遅れをとっている「労働年齢学力」の底上げを図りたい(日本の学力が世界的に高いのは、OECD-PISAなどで測られる「15歳学力」)。

国を支えるのは、30〜50代学力、15歳学力はあまり有効な指標ではない〜「学力」の定義は複数あるので、改めて整理したい

【改革2】 新卒採用制度は廃止しよう

【改革1・2】はペアで実施する必要がある。「新卒採用」「中途採用」の区別を一切なくすことにより、若年層の就業は難しくなる一方、30代以上の就職・転職が柔軟になる。総合職で採用されて部署を移動する従来の形態(メンバーシップ型)から、大学で学んだ専門知識・技能を活かして働き、十年に一度程度再教育を受けリスキリングする労働構造(ジョブ型)への転換を目指す。
 中・高卒者は、大卒者に比べて4年以上前に仕事を始めているので、いわゆる「一般事務職」では中・高卒者の方が有利という状況をうまく生じさせ、格差の是正にもつなげたい。大学進学率は下がってもいいと考える。

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教職に関する制度改革

【改革3】 一条校全ての教師に、年収1000万円を保証し、教員免許は専修免許に一本化しよう

【改革3・4】を実現するためには、国の教育関連予算のうち、人件費を4倍にする必要がある。先進国の中でほぼ「最も教育にお金を使わない」現状の日本を考えると、4倍は常識の範囲内だと思う。
 しあわせな国には質の高い教師が不可欠だ。一条校(学校教育法第一条で定められる学校)の全教師に、ほぼ現在の倍となる年収1000万円を新任時から保証し、「医師、弁護士、教師」が成功のシンボルとなるような社会を実現する。教員採用試験の競争率を自然と引き上げ、最低10倍以上に維持したい。
 医師が6年制の医学部を、弁護士が法科大学院を修了していることが一般的であるのと揃えて、現在一種、二種、専修と3種類ある教員免許制度は専修免許に一本化して、全教員に修士以上の学位取得を求める。教育実習の期間も、現在の2〜4週間から、医師と同じ1年程度まで延長する。教員が実習生を指導する業務が増えるが、【改革4・5】があるので心配ない。

20カ国以上営業で回った感想〜「教師の社会的地位が高い国は、民主度が高い」

【改革4】 中高の教師は、教科とホームルームの分業制にしよう

フランスなどでの実践例がある。国語、英語、数学などといった「教科指導」と、出席管理や学校行事、心理面で生徒をサポートする「ホームルーム指導」では、必要とされる専門性が異なる。小中高では、「教科教員」と「ホームルーム教員」の分業制として(教師の数は倍になる)、教師の自己犠牲や努力のみに頼らず、制度的に高水準、個別対応的な教育を提供できるようにする。
 大学3年生で就活が始まる今の制度では、欧米では一般的な「ダブルディグリー制度(4年間で2つの専門分野の学位を取得する)」は難しいが、【改革1】があれば、ダブルディグリーも無理ではなくなるので、意欲のある教員志望生は「教科教員+ホームルーム教員」のダブル免許が取れるようにしてもいいだろう。

教科指導とホームルーム指導は、必要とされる専門性が異なる〜日本では欧米よりも心理学が人気なので、「ホームルーム教員」課程は志望者も多くなるだろう

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学校運営に関する制度改革

【改革5】 中高の部活動は、廃止せざるを得ない

これは痛みを伴う改革だ。僕も中高時代は部活が何より楽しく、いい思い出もたくさんある。しかし、私も会員である日本世間学会の見解にもある通り、学業と課外活動がともに同じ「学校」の場で行われ、人間関係が固定化することが、いじめや若年層の自殺などの問題の一因と考えられる。子どもたちが、「ゆるやかな、複数の人間関係に所属する」ことができるようにするために、断腸の思いながら部活動は廃止せざるを得ない。メリットは多くある。
 日本では、スポーツや芸術を大学で学ぶ学生が欧米に比べて多い。現在部活動として行われている多くの活動は、こうした専門家の力を借りれば、学校外で継続可能であり、彼らの雇用確保にもつながる。
 また、部活動の廃止により教師の業務量がかなり減り、「教師=ブラック職業」という認識が改まれば、職業としての人気も復活するだろう。【改革4・5】で、教科教員の仕事は実質上授業と教育実習生の指導だけになり、精神疾患罹患率の高い教職の汚名を返上したい。

現在は、スポーツ、音楽、美術系の大学を卒業した人たちが、必ずしもその分野の仕事をできていない〜中高の部活動が外に出れば、彼らの活躍の場を広げられ、雇用にもつながる

【改革6】 旧七帝大+α を大学院大学に移行しよう

北海道大学、東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学の全学部を廃止し、大学院のみにしよう。国内にはすでにいくつかの「大学院大学=学部がなく、大学院のみの大学」があるので、制度的には問題ない。東京工業大学、一橋大学を加えるのもアリだろう。この改革は、メリットだらけだ。
 なんといっても、対象大学の学部生にかかっている予算(国立大学は学費だけでは賄えない)をすべて、【改革7】に回すことができ、国の国際競争力強化にダイレクトに資することができる。7大学全学部分の学部定員枠は、定員割れ大学が多くあることからも、既存の大学で回せる。東大を頂点とする日本の直線的大学序列を一気に改めることができ、出身大学名で学生を判断し、大学で学んだ内容を軽視しがちな風潮を自然に改められる(東大学部卒業生はゼロになる)。
 新時代のエリートコースは、まず近くの大学を優秀な成績で卒業し、その後大学院のみとなった旧七帝大+α(あるいは海外)で学ぶことが一般的になるだろう。例えば英国トップ校のオックスフォード大学では学部生と大学院生はほぼ同数、ケンブリッジ大学では総学生数の4割弱が大学院生と、実質上は大学院大学的な位置付けだ。この改革は、地方の国立大学の活性化にもつながる。

私立大学は、就職実績だけでなく、国立大学大学院への進学実績もあわせて問われるようになるだろう

この項目については、先の投稿「#82 ワクワク人生のための、学修歴プラン」も併せて参照されたい。

【改革7】 全国立大学の大学院博士課程を学費ゼロ、全給付制にしよう

僕は今ドイツにいるが、博士課程大学院生は原則として研究員として雇用され、国内当該年齢平均の約1.5倍程度の収入が保証されている。もちろん学費は1円もかからない。日本は今はまだ科学技術で多少の存在感があるが、それも長くはもたない。諸外国で大学院進学率、博士号取得率が上昇する中、日本だけ下降している現状は、将来的に日本が技術立国からリタイアすることを意味する。
 ここは、ドイツ・スイスの真似をしても恥ずかしくないと思う。国立大学の大学院博士課程に進学すれば、学費ゼロ、生活費として同年齢で就職した人たちの 1.5倍程度(年収600〜700万円程度)を給付(もちろん返済不要)する。ドイツ・スイスでは「大学院で研究すれば、収入もよく、いい生活ができる」という理由で若者が積極的に研究に進み、国の競争力を支えている。日本もそうしよう。財源は主に【改革6】だ。制度輸入に関わる調査チームを編成するなら、喜んでそのリーダーを引き受ける。

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上記7提案の結果として、次の状態を目指す

【改革8】 労働組合の組織化を再推進し、民主的スト・デモを活性化しよう

【改革1・2】には、決められたレールに乗って就職活動を行わざるを得ない大学生を救済して、「自分の頭で考える」ことのできる国民性を取り戻すことが上位目的としてある。「日本が民主的国家を建設できるように」と、戦後 GHQ が主導して導入したのは、労働組合制度だった。労働組合の組織化を再度推進し、民主的なストライキ(スト)やデモが欧米並みに起きる社会を実現したい。
 民主的な「スト・デモ」は治安の悪化ではなく、「自分の頭で考えられる」国民の育成につながる。今僕が住んでいるドイツでは頻繁にストやデモがあるが、自由に意見を述べることが認められていて風通しがよく、「異なる主張の人と共に生きていく」術が磨かれる感じがして、むしろ生きやすく感じる。

日本の労働組合制度は、元々は待遇改善のためというより、日本の民主化のためだった

【改革9】 自殺者数をまずは年間1万人以下に、その後交通事故死者数と同等まで少なくしよう

僕が「日本は生きづらい国」と考えるのは、経済・治安・医療・教育の水準が世界的に見ても高く維持されているにも関わらず、日本が自殺者数を減らせていない点にある(2022年は21,881人)。まずは若年層の自殺者を減らしたい。【改革5】は意外と大きな起爆剤になるのではないかというのが、僕の予想だ。2035年頃までには、1万人を切れるようにしたい。
 【改革6・7】が軌道に乗れば、日本はギリギリセーフな感じで技術力=国際競争力を回復し、【改革8】で自分の意見を遠慮せず表明する社会を実現できれば、結果的に「健康上の理由」を除いた自殺者は減らせるはずだ。2045年には、交通事故死者数と同等(2022年は2,610人)を目指したい。

【改革10】 分野横断的に政策を提言する 「しあわせ庁」 を発足させよう

【改革1〜9】を一元的に把握する機関として、「しあわせ庁」を発足させる。試しに「しあわせ庁」と検索すると、「こども家庭庁」関連サイトがヒットするが、目指すところは多少似ている。「しあわせ庁なんて、とんでもない!」と言われるかもしれないが、実はすでに実例がある。2019年にはニュージーランドで世界初の「しあわせ予算」(well-being budget)が設けられ、アラブ首長国連邦(UAE)では「しあわせ担当大臣」が任命された。縦割り行政の改革が難しい日本ではなおさら、分野横断的に政策を提言し、状況を把握する「しあわせ庁」が必要だろう。僕が直接的に何かできるとすれば、この部分かもしれない。

しあわせ担当大臣は、文理芸術と各分野の経験を積んだ人がいい〜立候補します!写真はデンマーク、コペンハーゲンの「しあわせ博物館」でもらったもの

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以上が10の改革案だ。「大学生が全員無職で卒業する」「先生に払う人件費を4倍にする」「民主的なストやデモを活性化する」「しあわせ庁を作る」というと、物騒で幼稚な提案だと思われるかもしれない。
 しかし、海外から日本を見つめ直すと、「自分の頭で考えずに与えられたレールに乗る指向が強く、レールに乗れない人の気持ちや命が軽視され、結果として民主国家として機能していない」というのが、残念ながら日本の客観的な姿だ。先日イタリア人の同僚とピザ・パーティーをした時、「日本って、正直言って民主主義国じゃないよね」と言われたが、それが世界の率直な意見だろう。

野球場くらいありそうな大風呂敷を広げた。しかし、1945年の敗戦時を思い返せば、日本はたった19年後の1964年に東海道新幹線を走らせ、東京オリンピックを開催した。もう一度大逆転することは、決して不可能ではないと思う。「生きづらかったあの日本が、しあわせ大国になった!」と諸外国をびっくりさせたい。

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今日もお読みくださって、ありがとうございました。
101番目以降の投稿も、どうぞよろしくお願いいたします☕️🍩🕯️
(2023年12月13日)

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