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[小児科医ママが解説] 「咳を止める薬」は、ない?!

「だらだらつづく咳」について、受診の目安やホームケアを、過去noteで解説しました。

「咳は、風邪をひいて、25日目くらいにやっと治まる」研究の報告もあり、
咳が1か月近くつづくのは、実は普通なんですね。

とはいえ、

薬って効果がないの?
いつも咳で処方される薬って、なんの意味があるの?

このあたりも、気になりますよね。

「咳を止める」という薬は、ない。


「咳をぴたっと止める薬」というのは、ありません。

「お子さんで咳が出る」となると、風邪、
つまりウイルス性の上気道炎であることがほとんどです。

ただし、どうしてウイルスに感染すると、咳が出るのでしょう。
それは、ウイルスを追い出すために、治す過程で咳が出るからです。
というか、咳を出してウイルスを追い出さないと、風邪が治らないからです。

いくら薬の効果として「せきどめ薬」とか「鎮咳薬」とか書いてあったとしても、
そもそも生理現象として風邪を治そうとしている以上、
咳を止めることはできない、というのが前提の考えとしてあります。

「麻薬性」の薬は、使えない。


さらに、お子さんには、大人に処方されるような「コデイン類」のお薬は使えません。

コデイン類とは「麻薬性」のお薬です。
(例:コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩 など)

子どもにこのような薬を使うと、呼吸を止めてしまうリスクがあるからです。

実際に海外では、「コデイン類」の市販薬を使用したお子さんが死亡した事例が報告されています。

日本でも新生児に投与されて、人工呼吸管理になるほど、呼吸が抑制されて重症になったお子さんの例が報告されています。

EU(ヨーロッパ)やFDA(アメリカ)にならい、厚生労働省も「コデイン類は子どもに使うべきではない」という見解です。

「効果がない」という研究結果


上記の「コデイン」だけでなく、
「メジコン」といういわゆる「咳止めの薬」についても、効果がなさそうだという研究結果が出ています。
(J Pediatr. 1993 May;122(5 Pt 1):799-802.)
(Pediatrics. 2004 Jul;114(1):e85-90. )
(Indian J Pediatr. 2013 Nov;80(11):891-5.)

また「アスベリン(チペピジン)」という薬をもらったことのあるお子さんもいると思いますが、これも実は効果が証明されていません。
(西村龍夫ほか、外来小児科、2019;22:124-132.)

では「咳のときに飲むと良い薬」というのは、何なのか。

①痰を出しやすくする薬 


ウイルス性上気道炎、つまり風邪の咳のときには、痰が出ることが多いです。

痰がからむだけでも咳になるので、その痰をさらさらにすることで、
痰を出しやすくしてあげよう、という薬があります。

ムコダイン(カルボシステイン)
ムコソルバン(アンブロキソール)
ビソルボン(ブロムヘキシン)
etc

鼻水のときにも出されるようなお薬ですね。

ただしこれらも、効果が出てくるのは、飲み始めてから7日目から、というような報告もあります。
(Cochrane Database Syst Rev. 2013 May 31;(5):CD003124.)

自然に良くなってきたのか、薬を飲んで良くなったのか、
正直わからないよな、という印象もありますよね。

②気道の炎症をおさえる薬

気道の炎症をおさえるような薬も、風邪の時に出されるときがあります。

モンテルカスト
キプレス
シングレア
etc

ただし、風邪そのものを治すわけでもなく、また、
風邪による咳に効く、と証明されているわけではありません。

ただし、もともと喘息っぽいかも、と言われているお子さん
また食物アレルギーなどがあり、気道の炎症が起きやすそうだと予測されるお子さん。

そういったケースでは、風邪の際に一緒に処方されるケースが多いです。

あくまでも、咳をおさえるというよりは、
咳がもっとひどくならないために、
効くかもしれないから出しておくね、という意味合いです。


いかがでしょうか。

お子さんの咳が苦しそうなのは、本当に見ていてつらいですよね。
ただし咳が出ているということは、ウイルスとちゃんと戦えている証拠でもあります。

また、咳や不機嫌のせいで、薬が上手く飲めないときもあるでしょう。
そんなときもこの記事を思い出していただいて、
薬が飲めなかったから、という理由だけで、咳がつづいているわけではない。

そんなふうに捉えることで、少しでも前向きにお子さんの咳と向き合えればと思います。

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