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マラソンは自己との対話。駅伝はチームのコミュニケーション。気持ちのベクトルに大きな違い。五輪マラソンと箱根駅伝の両予選から見えたもの

走るスポーツなのに、これほど違いがあるかと再認識した2日間だった。マラソンと駅伝のことだ。15日にパリ五輪のマラソン代表を決めるグランドチャンピオンシップ(MGC)が男女とも行われた。前日には第100回を迎える箱駅伝の予選会が開催された。この両大会から「自己との対話」と「チームのコミュニケーション」の違いが伝わった。

15日午前に東京・国立競技場を発着点に行われたMGC。土砂降りの雨の中、ランナーは五輪切符獲得へ熾烈な競走を繰り広げた。

男子ではレース中に日本記録保持者の鈴木健吾選手、ブダペスト世界陸上代表の其田健也選手が途中棄権する波乱の展開に。大雨の中で、コンディションを維持して走り続ける難しさを思わせた。

マラソンは孤独なスポーツだ。男子で2時間10分を切るレースだが、選手はその間、自分との対話を続けることになる。

2位までに五輪出場権が自動的に与えられる大会。伏兵とも言われる小山直城選手が2時間8分57秒で優勝、2位には赤崎暁選手が入り、パリ切符を手にした。

3位でゴールしたのは前回東京五輪で6位入賞した大迫傑選手だった。2時間9分11秒のタイムは2位と5秒差。前回のMGCに続き5秒差の3位だった。

今後のファイナルチャレンジとして設定されている大会で条件を突破する選手が出なければ、大迫選手に五輪出場権が手に入る。しかし、今後の展開は分からない。この日で2位以内に入って、パリ行きを決めたかった。

大迫選手はゴール後、控えエリアに戻らず、ゴール付近で立ち尽くしていた。最後のひと踏ん張りで駆けてくる選手を見つめながら。

これからフィニッシュを遂げようとするチームメートを出迎えようとしていたのだろう。ただ、駆けてきたコースをじっと見続けている姿は、この日のレースを振り返っているように見えた。

将棋で決着がついた後に、対局者同士が振り返る「感想戦」のように感じられた。大迫選手は、「陸上の感想戦」を一人でしているように思えた。「自己との対話」を続けているようだった。

一方で前日に行われた箱駅伝の予選会。各チームともに10人以上が走る。エースが独走してチームを引っ張るスタイルをあれば、集団がまとまって走り、ペースを整える形もある。

11位でゴールした東京農業大は10年ぶりに箱根切符をつかんだ。1年生ながらエースの役割を担う前田和摩選手は日本人1位でゴール。初めてのハーフマラソンだったが、15キロ付近で余裕があることから一気に加速した。

前田選手は「タイムが稼げるならば稼ぎたかった」と振り返る。チームの上位10人の合計タイムで勝負が決まるルール。前田選手はチームメートを思いながら、ペースを上げた。

13位以内までに本大会出場権が与えられる。結果発表で11位に入ったことが分かると、チームみんなで喜びを分かち合った。

個人スポーツのマラソン、チームスポーツの駅伝。マラソンが自己との対話ならば、駅伝はチームでのコミュニケーションとなる。それが自分の走るペースにも影響してくる。

内へ内へと気持ちのベクトルが向かうマラソン。チームメートへのエールを込めて気持ちが外へ向かう駅伝。

「より速く」という点では共通するが、気持ちのベクトルが正反対に向かう。どちらも魅力的だ。選手の気持ちが、どちらに向かっているかを念頭に置いて観戦すれば、もっと楽しめるように思えた。

パリ行き、箱根行きを決めた選手たちにエールを送りたい。目標としてきた大舞台での活躍に期待だ。

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