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"歴史" 系 note まとめ

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2022年6月の記事一覧

ロシア宇宙主義の研究者 福井祐生さんが読む『ロシアの博物学者たち』

工作舎の本って、どんな人に読まれているんだろう。 どんな役に立っているんだろう。 「わたしの仕事と工作舎の本」第1回は ロシア宗教思想の若手研究者、福井祐生さん。 研究対象であるフョードロフとロシア宇宙主義について、 そして西欧とは異なる視座をもつロシア思想を研究する上で 参考文献の一つとなったダニエル・P・トーデス著 『ロシアの博物学者たち』について書いていただきました。 『カラマーゾフの兄弟』との出会いからロシア宇宙主義へ  はじめまして、福井祐生(ふくい・ゆうき)と

ネストリウス派→アッバース朝(バグダード)→ヨーロッパ(トレド)という流れ~『イスラムがヨーロッパ世界を創造した 歴史に探る「共存の道」』(宮田律著、光文社新書)を読んで

 ネストリウス派(景教)について調べているうちに、イスラムとかアラブ世界についての認識不足を改めて実感するようになり、もう少しイスラムの世界について知りたいと思っていたところ、光文社のnoteで『イスラムがヨーロッパ世界を創造した 歴史に探る「共存の道」』が新書として出版されるという記事を読んだ。目次を見たら、面白そうだったので、早速読んでみた。(目次はここで見られます↓) 「なるほど~」と思うことはいくつもあったが、ここでは、これまで、このnoteで触れてきたネストリウス

鉄道を拒んだ街、江戸崎の知られざる魅力|柳瀬博一(東京工業大学教授)

江戸崎、をご存知だろうか? おや、知らない。 おっくれてるう。 と言いたいところだが、 私も2022年2月5日午後4時45分まで知らなかった。 江戸崎は、茨城県にある。霞ヶ浦のいちばん南の端。 なんで、突然知ったかというと、行ったからですね、江戸崎に。 偶然。 この日、私は漫画家の日暮えむさんの『ひぐらし日記』のサイン会が、成田イオンモールである、というので足を運んだ。 実は、いま、利根川界隈のフィールドワークをちょこちょこ行っている。利根川こそが関東の地形、自然、文化、政

『日本流通史』『日本近代社会史』を書き終えて

こんにちは、有斐閣書籍編集第二部です。  昨年12月に『日本流通史』が,今年4月には『日本近代社会史』が刊行となりました。そこで、両書の刊行にあたって、それぞれの書籍の著者である満薗勇先生と松沢裕作先生に,対談を行っていただきました。  この対談の本編は『書斎の窓』2022年7月号に掲載される予定です。ここでは、その本編に先立ち、紙幅の関係で、『書斎の窓』に収めることができなかった部分を掲載します。 ◆テキストづくりについて――今回、松沢先生、満薗先生それぞれに通史

《世界史》ルクレツィア・ボルジア

こんにちは。 Ayaです。 昨日までの6回は画家8人まとめましたが、今日はルネサンス期の代表的な女性としてルクレツィア・ボルジアについてまとめます。 歴史好きな方はもちろん、歴史に関心があまりない方でも、織田信長はご存じでしょう。その生涯(実弟への粛清、並外れた戦略、非業の死)にそっくりな人物がルネサンス期にいました。チェザーレ・ボルジア(1475〜1507)です。 織田信長とチェザーレ・ボルジアはともに冷酷無比な権力者として描かれることもありますが、その実例が実弟や妹の嫁

2-3-1-1. 古代ギリシア 新科目「世界史探究」をよむ

*** ギリシアはヨーロッパ文明の御先祖? 古代ギリシアといえば、このようなイメージが浮かぶことだろう。 古代ギリシアの神話をもとにした映画でも、演じる俳優は欧米出身者ばかりだ。 しかしすでに私たちは、古代ギリシア文明が、古代オリエント文明と密接に関わりあって成立していたことを学んだ。 古代ギリシアをヨーロッパに直結させるのは、あくまで後世のヨーロッパ人が自らの願望をに押し付けたに過ぎないのである。 ほかにも、池内恵氏のこちらの文章(「ギリシア――ヨーロッパの内なる中

ナスカの地上絵新発見とAIの貢献

「ナスカの地上絵」は以前から知られた世界規模のミステリーです。 もう発掘し終えたと思いきや、最近さらに新しい絵が見つかりました。 むしろ21世紀になってから発見が加速しており、その1つの貢献がAI(人工知能)です。 今回は、ナスカの地上絵の謎解きとともに紹介してみたいと思います。 まず、今の解析では、ナスカの地上絵は紀元前200年~紀元後800年の今のペルーに存在していたナスカ文化によるものとされています。 初めて地上絵がナスカで発見されたのは、考古学者ポール・コソッ

「ホントの歴史」って楽しい!子どもたちの心を動かした話

 前回の記事で「歴史を伝える仕事はライブに似ている。話している自分と聞いてくれる人、相互に刺激を与えあう楽しさがある。」ということを書きました。今回は、そのことを強く感じたできごとについて書きます。  数年前のこと、ある小学校で出前授業をしました。その小学校の学区を南北に貫くように、一本の道が通っていました。  北陸道。  奈良時代に都と北陸諸国をつなぐ道として造られ、人とモノと情報を運んできました。江戸時代には、福井藩主は参勤交代のためこの道を通り、中山道・東海道を経由

対話とはこうすることなんだーミニ読書感想「世界史の考え方」(小川幸司さん・成田龍一さん編)

今春から高校で始まった新科目「歴史総合」への向き合い方をまとめた「世界史の考え方」(岩波新書)が面白かった。難しいけど面白い。歴史研究、歴史授業の専門家である小川幸司さんと成田龍一さんの編著。お二人が各回ゲストを招き語らう対話形式で、「対話というのはこうやってやるんだ」というのを実践して見せてくれる。読む対話だった。 歴史総合は、近代から現代にかけての世界史と日本史を一体的に学ぶ新科目だ。この二つの歴史を架橋することは、言うは易し行うは難し。本書は、そもそも世界史と日本史を

【読書感想文】地形と歴史から探る福岡

読書感想文を書いてみる第3弾です。 今回もあらすじはなぞりません。ネタバレ回避していこうと思います。 感想サマリKindleで買っても良かったかも。3時間で読破! 福岡に移住した私ですが、歴史が結構好きだったので福岡の歴史なんて結構わかっていたつもりでした。 でも、この本は縄文から近現代までを凄くラフにまとめてくれているので、とてもわかり易くかつ、自分の抜けている時代や歴史があるということをわからせてくれて、かつそれを補完してくれる本でした。 福岡移住者は地元理解のた

2-2-3. 中華文明 新科目「世界史探究」をよむ

「中国」って何だろう?「中国」という言葉の初出は、西周代の金文や、前10世紀から前8世紀頃の詩歌を集めたといわれる『詩経』にある。 太字の部分は、「この京師(けいし)を恵(め)でて以て四方を綏(やす)んぜよ」と読み下す。 しかし、ここに出てくる「中国」は、現在のわれわれが考えるような領域をもつ広い中国ではなく、成周(現・洛陽)や殷の都・大邑商を含めた殷の首都圏を指すと考えられる。 そもそも黄河や長江の流域を中心とし、渤海・黄海・東シナ海に面するユーラシア大陸東部の北緯2

「ロック」と対比したものは「クラシック」ではないよ

少し前のこちらの記事↓ について、以下のような感想を目にしました。 これについて、残念ながら僕の意図が伝わっていなかったのかな、と思った点を反論してみようと思います。 それは、 あの記事で僕がロックと対比させたのは「クラシック」ではない。 ということです。 僕が対比させたのは、「アンサンブル的な"ポップス"」と「泥臭いルーツミュージック的なギターサウンド」であって。 単純にそれを「クラシック vs ロック」と読まれてしまうと、僕がnoteで書いてきたことが全く伝

音楽の学問における「西洋視点の反省」。正しいはずなのに、どこか感じる違和感の正体。

音楽における最新の"正当な学問的分野" では、19~20世紀に正しいとされてきた「音楽 = 西洋音楽のこと」「正しい音楽 = 西洋音楽理論に則ったもの」という態度を反省する流れにあり、既存の西洋音楽理論で説明できない非西洋の民族音楽に注目したり、既存の音楽理論の正解を否定するような実験が推奨されています。 狭義のクラシック音楽の美学は19世紀ヨーロッパのブルジョワ階級による視点であり、帝国主義の植民地支配に深く関係するものであったことは間違いありません。これまでの史観では民

踊り子から皇后へ たくましく生き抜いた女傑テオドラとサン・ヴィターレ聖堂

イタリア、エミリア・ロマーニャ州のラヴェンナに、ビザンチン様式の鮮やかなモザイクで東ローマ帝国の皇后「テオドラ」の肖像画が残っています。 ラヴェンナは、ヴェネツィアから南へ約140km。高速道路を使うと三角形の2辺を通ることになるので、海岸線を走るロメア通りが便利です。しかし、片道一車線のこの道を、スピード違反の自動カメラをかいくぐり、普通車が100km以上飛ばしながら遅い大型トラックを追い抜かすため、事故が絶えません。 ただ、潟の上を通っているロメア通り走っていると、5