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#哲学

ニッポンの世界史【第10回】:京都学派の世界史(その1)

京都学派とはなにか  京都学派とは一般に、京都帝国大学を拠点とした西田幾多郎と、その後継者である田辺元、さらにかれらの弟子たちを総称した呼び名です。  西田と田辺を受け継いだ第二世代のうち、哲学者の高山岩男、西谷啓治、高坂正顕、さらに西洋史家の鈴木成高の4人は「京都学派四天王」と呼ばれることもあります。  彼らの共通点は、仏教的な概念と西洋哲学の概念を重ね合わせて、西洋近代を批判し、西洋中心主義をのりこえた新しい「世界史の哲学」を構想しようとしたところにありました。  し

Dの世界の日本文学を真剣に考えてみた/『力と交換様式/柄谷行人』読書感想文

画/透視 Clairvoyance /村上隆 より   10年ぶりに長編小説を書いています。ここ半年間は小説の題材を求めて、高野山で結縁灌頂を受けたり、ChatGPTにメタフィクションを書かせたり、AV監督さんとその仲間たちと対話したりと、とても自由な時間を過ごすことができています。中でも、学生時代に学んだ本、好きだった本をもう一度手に取ることができたことは、幸いでした。 その流れから、今回柄谷行人の最新作『力と交換様式』を読みました。なかなか読み応えのある読書体験となり

私が行為の哲学を専門にしている理由

行為論に関心を持ったきっかけ  私はヘーゲル『大論理学』の中でも、「概念論」の後半にある「目的論」という章を読むことから研究をスタートさせた。はじめにこの箇所を扱おうとしたのは学部4年生とき。右も左もわからない中で、ヘーゲルといえば歴史に限らず目的論的な体系をつくっているはず、それがタイトルになっている箇所は何となく面白いのでは、というくらいの思いつきで読み始めた。  結果から言えば、その期待はあっさり裏切られた。「目的論」の箇所で展開されているのは、体系論とは全く異なるも

「余裕」とは何か。 哲学研究者・永井玲衣さんと水中に潜る1時間の哲学対話

「ボドゲしません?」 業務時間中、誰かのかけ声で唐突に始まるボードゲームの時間。モノグサは、忙しくても「ボードゲームを楽しむ余裕を持つ」ことを心がけている会社です。 でも、そもそも「余裕」ってなんでしょう。余裕がある状態ってどういうこと?そんな問いから始まる新連載「あいだ学」。この連載では、毎回ゲストをお招きし「余裕とはなにか」について考察を深めます。 第1回目に登場するのは、哲学研究者の永井玲衣さん。哲学対話の実践者として10年以上、学校や企業、自治体、お寺などに出

主体性と悪意とハンロンの剃刀

自己や他人の主体性について、悪意とハンロンの剃刀の話題をネタにして整理してみます。世界モデルの恣意性も合わせて考えることで、問題の在り処がだいぶはっきりすると思います。 (2022-07-09 読みやすさ向上のため、主旨が変わらない範囲内で少し書き直しました。) ハンロンの剃刀とは事例1:前から来た男がすれ違いざまに水たまりにばちゃーっと足を突っ込んだせいで自分のズボンが泥をかぶり、相手から「あーーっゴメンナサイーッ」と謝られた。 事例2:同じ会社の新入社員から送られてき

人間は、いつ「想像力」を大切にし始めたのか(前編)

(※この記事は2020/02/26に公開されたものを再編集しています。) 「想像力は大切だ」という常識  前回の「学びと哲学」では、想像力を扱った。そこで描いたのは、人類が「見えないもの」と対峙するかのように、「わからないけれど、考えなければならない何か」について思考を進めてきた様子である。  恐らく、現代人の大半は、「想像力は大切だ」という考えに同意するのではないだろうか。年齢や性別や業種を問わず、飲み屋で酔っ払った人も、家事従事者も、会社員も、研究者も、役人や役員も

うしろめたさに付き合えば、世界が変わる――松村圭一郎『うしろめたさの人類学』レビュー①

(※この記事は2020/02/06に公開されたものを再編集しています。) 時間どろぼうは時間を盗んだのか  久々に話した友達と、もう何年も思い出さなかった小説の話をした。ミヒャエル・エンデの『モモ』だ。近代化が迫るヨーロッパの古い都市あたりを舞台にしたという体裁の物語である。 『モモ』には、悲哀ある床屋のフージーが出てくる。ある雨の日、彼は灰色の気持ちで物思いにふけった。 フージーは、客との会話を楽しんでいたし、カットや石鹸の泡立てに熟練しており、自分の仕事に自負すら

【本のあるところ ajiro】『ベルクソン思想の現在』刊行記念イベント 「ベルクソン思想の現在地」(3/2)

チケットはこちらから 会場参加チケット・ライブ配信チケット アーカイブ動画視聴チケット(9/14~2週間再販売!) 本のあるところajiroでの伝説のイベントがふたたび! ――2022年はまさしくベルクソンイヤーだった。 昨年3月から7月にかけて、檜垣立哉さん、平井靖史さん、平賀裕貴さん、藤田尚志さん、米田翼さんが著した、哲学者ベルクソンに関する重要な研究書が立て続けに刊行されました。 そして夏、本のあるところajiroでは「21世紀に炸裂する20世紀の生の思考」と題した

「君たちは自分を忘れて、自分自身から逃げようとしている」(『スマホ時代の哲学』より)

『スマホ時代の哲学:失われた孤独をめぐる冒険』という書籍が、2022年11月18日に、ディスカヴァー・トゥエンティワンから発売されます! こんにちは! 京都市在住の哲学者、谷川です。スマホを持ち歩く私たちの生活について考えた、哲学の入門になるような本を書きました。 今回のnoteでは、「はじめに」のさわりを紹介しようと思います。 以下、本文の冒頭です。 「君たちは自分を忘れて、自分自身から逃げようとしている」  フリードリヒ・ニーチェという哲学者がいます。ドイツ語で本

【冒頭公開】ルソー、レトロスペクティヴ——「記憶の記録化」についての試論(群像新人評論賞2021最終候補作)

ルソー、レトロスペクティヴ——「記憶の記録化」についての試論森脇透青 序 〈私〉という病 ルソーは、『言語起源論』のなかでつぎのように記している。  それゆえ、私たちは旅に出なければならない。私たちは、「いま・ここ」にいる自己の外に出ることによってのみ、すなわち想像力によってのみ、他者と連帯しうるのだから。  苦しむ他者への同一化——動物にさえ備わっている憐憫の情——は、ルソーの主著のひとつ『人間不平等起源論』の鍵概念でもあった。だが、『言語起源論』では、ルソーは別の考

【講義のお知らせ】メイヤスー『有限性の後で』を解説するレクチャーイベント

The Five Books主催のレクチャーイベントで、カンタン・メイヤスー『有限性の後で』について講義をします! 参加者の方には毎週少しずつテクストを読んできてもらい、ぼくがじっくりと解説をする、という形式です。本は買ったけど途中で挫折したという方、名前は聞いたことあるけどまだ読んではいないという方。この機会にぜひご参加ください。いっしょに読んでいきましょう! 以下、The Five Booksのサイトから詳細を転載いたします。 日時9月1日(木)〜9月29日(木)の

内田樹著作総索引の試み

はじめに  本稿は、「私が、内田樹の著作を読むときのための総索引」として編集されている。したがって、当然ながら内田樹(あるいは内田樹に近接する人々)に偏重した内容になることが予想される。そして索引の特性上、私見が入り込む余地はほとんどなく、キーワードの取捨選択が筆者の仕事となる。  だが、内田樹の著作に精通する方からすれば、「説明が不十分である」や「内容に偏りがある」といったご指摘が予想される。その点に関しては、記事公開後にも、本文に随時加筆修正を加えてゆくので、どうかご容

精神分析学の歴史

うまいものとは何か|『バカロレアの哲学』裏メニュー|ウィーンまかない編

今回の哲学問題「あらゆる欲望を満たすことは、人生のよい規則か?」 『バカロレアの哲学』の裏メニュー「ウィーンまかない編」。本連載では、著者・坂本尚志さんのウィーンでの生活と、実際に出題されたバカロレアの哲学問題を引き合わせて記録していきます。  今回は、オーストリアで出会った「うまいもの」について。  吉田戦車の不朽の名作『伝染るんです』に、民家の塀に貼られた「うまいものとは何か」という貼り紙を見て、通行人が口々に「うまいもの」を挙げていくという漫画があります。そこで予