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分からないけど分かるよ~『町田くんの世界』

向き合うべき現実を突きつけたり、丁寧で繊細な機微を描いたり、そういった作品も大好きなのだけど、こういうエネルギー抑えきれません!というような瑞々しい映画こそ、今の自分が最も求めているかも。石井裕也監督『町田くんの世界』、大傑作である。楽しさともどかしさと愛おしさと切なさが溢れ返りっぱなし。誰にでも平等に優しい究極の人たらし・町田くんと、孤独を抱える少女・猪原さんを中心とする物語。新たな感情に触れ、それが花開いていく季節に光る美しさを、ポップかつエクストリームに描いてある。

主役の新人2名が、技巧でなくガムシャラに役と取っ組み合ってる感じがすごく眩しかった。拝みたくなるほどの尊さで町田くんで在り続けた細田佳央太の純朴な魅力はもちろんだけど、それと相対する位置で物憂げかつチャーミングな姿を見せてたヒロイン猪原さんを演じた関水渚がとにかく素晴らしい。やさぐれ方には尾野真千子の系譜を感じつつも、町田くんに向けるあの眩しい笑顔よ!人を好きになることが魂ごと映し出された表情だったよ。この2人って関水さんが3歳年上なのよなぁ、それを知るとまたグッとくるね。

その他の同級生たちを、アラサーの個性派で固めるのはややチートだろ、と観る前は思っていたのだけど、そんなんどうでもよくなるくらい全員最高。石井監督の初期の作風って、とりとめもない会話を面白いテンポで見せるっていうのが特徴だったけど、今作では太賀がそのポジションを担っていてとても愉快だった。あとは高畑充希も特筆すべきだ、泣きつつ誤魔化し笑いしつつまた泣きつつそれを噛み殺しつつ、、、っていう信じられないくらい多重構造の芝居、短い出演時間だけど圧倒的なインパクト。凄まじい怪優だ。

その中でも前田敦子が抜群すぎた。『もらとりあむタマ子』でも思ったけれど、ダルそうに喋る彼女は非常にコミカルで愛嬌がある。今回も、町田くんと猪原さんを一定の距離で見守り続けながら、塩っ気たっぷりの台詞回しで大いに楽しませてくれた。唐揚げ棒を食いながら「やべえな青春」をあんな面白く聞かせれるの、あっちゃんしか居ないよ。そして彼女の平熱な視点って、町田くんと正反対の位置にいるようで実はとても近い優しさを持ってると思う。この2人がいるクラスって、途方もなく楽しくて温かいんだろう。

石井監督は前作『映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ』で、再び好き放題に創り出した感じがあって。その次がまさか少女漫画原作?と思っていたのだけど、実際の中身としてはかなりリンクしている気がした。どうしようもない生き辛さを抱えた僕らがこの時代をどう進んでいくのか、そのヒントが両作にはある。「夜空は~」で、どちらかと言えば町田くんサイドの役割を担った池松壮亮が、今回は町田くんに導かれる側に回っていた。この配役にも強い意味を感じる。この時代、誰もが誰かの小さな町田くんなのだろう。

劇中何度も繰り返される「分からない」という台詞がある。町田くんは"恋"が分からない、一人の人間だけに向ける"好き"という気持ちが分からない、では僕らはどうなの。いざ問われれば言葉を並べてもきっと"分からない"の壁にぶち当たる。惚れた腫れたのインスタントラブなどでは決してなく、考えに考えぬいて、想像力をフル回転させ、空を飛んでみたって分かりはしない、けど、なんか少し分かる、、かも、ってとこに着地させたこの映画の「好き」の描き方はあまりにも信用できる。青春映画のフリして、根源的なテーマをずっとこちらへ投げかけ続ける、それもすごく楽しそうにね!

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