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マークの大冒険 「アントニーとの別れ」



***前回までのあらすじ***



元老院派のブルートゥスらを殲滅したアントニウスたちだったが、今度は同じ派閥内での権力闘争がはじまった。カエサルの後継の地位を狙い、元副官アントニウスと大甥オクタウィアヌスの仲が険悪なものとなっていた。

二人の不仲を解消するため、アントニウスはオクタウィアヌスの姉オクタウィアと政略婚することになった。だが、同盟国エジプトの女王クレオパトラに恋したアントニウスは、妻オクタウィアを一方的に離縁し、シリアでクレオパトラと挙式を挙げてしまう。当然、アントニウスのこの行動にオクタウィアヌスは激怒した。

オクタウィアヌスはアントニウスが東方属州の統治でローマから離れている隙を狙い、ローマおよび西方属州から兵士を募り、打倒アントニウスを企てていた。対するアントニウスもエジプトの潤沢な資金をもとに軍を募り、オクタウィアヌスとの決戦に備えていた。

ローマの覇権を狙う二人の英雄の衝突は、避けられないところまで来ていた。



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「お別れだ、アントニー。キミがいま練っているアクティウム沖の海戦にボクは参加できない」

軍の布陣図を眺めていたアントニウスにマークは悲しげに呟いた。

「怖気づいたのか?」

布陣図から顔を上げたアントニウスは、マークの方を睨むよう見た。

「いや、負け戦はしない主義でね。それに憧れのアントニーが無様に敗走する姿も見たくない」

アントニウスはその発言に苛立ったのか、眉間にシワを寄せ、いぶかしげな表情でマークを見つめた。

「またお前の予言ごっこか?予言は俺たち鳥占官の仕事だ。お前のような素人が口を出すな。俺の軍が負けるとでも?あんなガキが率いる寄せ集めの軍に?俺はローマ最強の男だぞ?アントニウス氏族は、ヘラクレスの息子アントンの血を引く。戦歴も経験もないオクタウィアヌスに負けるはずがない。マーク、お前の助けがなくたって負けないさ。片手で捻り潰せる」

アントニウスは右手を胸の前に掲げ、拳を強く握って捻り潰すような仕草を見せた。

「その傲慢さが、きっとキミの命取りになる。オクタウィアヌスはキミが思っているよりも、ずっと手強いぞ。あの男はカエサルをも超える」

「それはないだろ、病弱で無能なガキさ」

アントニウスは鼻で笑った。

「どうかな」

「それにクレオパトラからエジプトの莫大な資金が入ってくる。負けようがないさ。で、お前は今日で俺の軍から解雇ってことでいいのか?」

「そうだね」

「ちっとは使えると思ったが、最後に怖気づくとはな。それじゃ、今までの報酬だ。ホラよ、受け取れよ。俺の銀貨が欲しかったんだろ?まあ、それだけあれば、当分は楽しめるだろ」

アントニウスは銀貨の入った麻袋をマークに投げた。



*マークはアントニウスの銀貨を手に入れた。



アントニウス軍の第十九軍団に給与として支給されたデナリウス銀貨。アクティウムの海戦直前の発行。アントニウス艦隊のガレー船が描かれている。当時、アントニウスが布陣していたギリシアのアカエア属州パトラエで発行された。


アントニウス軍の第十五軍団に給与として支給されたデナリウス銀貨。アクティウムの海戦直前の発行。アントニウス艦隊のガレー船が描かれている。当時、アントニウスが布陣していたギリシアのアカエア属州パトラエで発行された。


アントニウス軍の第十五軍団に給与として支給されたデナリウス銀貨。鷲をモティーフにしたローマの軍旗が描かれている。アクティウムの海戦直前の発行。当時、アントニウスが布陣していたギリシアのアカエア属州パトラエで発行された。


ローマの太陽神ソルを描いたデナリウス銀貨だが、その肖像のモデルは発行者のアントニウス自身となっている。ギリシアのアカエア属州アテナイで発行された。


鳥占官(アウグル)の姿をしたアントニウスを描いたデナリウス銀貨。彼の手には鳥占官専用の儀具が握られている。ギリシアのアカエア属州アテナイで発行された。


オクタウィアヌス、レピドゥスとの第二回三頭政治を記念して発行されたデナリウス銀貨。アントニウスの肖像が描かれており、その周囲には「ローマを再興する三人委員の一人」という内容のラテン語銘文が打たれている。アントニウス軍の駐屯地があったアシア属州エフェソスで発行された。


アントニウスがクレオパトラとシリアで挙式を挙げたのちに発行したデナリウス銀貨。発行者であるアントニウス自身の肖像が描かれている。ローマの同盟国エジプトの首都アレクサンドリアで発行された。


アントニウス軍のシリア制圧を記念して発行されたデナリウス銀貨。発行者であるアントニウス自身の肖像が描かれている。当時、彼が布陣していた北シリアの基地内で発行された。


アントニウス軍のシリア制圧を記念して発行されたデナリウス銀貨。敵軍から奪った武具でつくった戦勝記念トロフィーが描かれている。このモティーフはカエサルやブルートゥスも採用しており、ローマの軍人から好まれた。当時、アントニウスが布陣していた北シリアの基地内で発行された。


デナリウス銀貨三枚分の価値を持つキストフォルス銀貨。大型の銀貨で迫力がある。アントニウスに仕える軍団兵に給与として支払われた。当時、アントニウス軍の基地があったアシア属州エフェソスで発行された。この頃、ちょうどアントニウスはオクタウィアヌスの姉オクタウィアと政略結婚していた。アントニウスの肖像が描かれており、バッコスを象徴するブドウの葉のリースで囲まれている。


デナリウス銀貨三枚分の価値を持つキストフォルス銀貨。大型の銀貨で迫力がある。アントニウスに仕える軍団兵に給与として支払われた。当時、アントニウス軍の基地があったアシア属州エフェソスで発行された。この頃、ちょうどアントニウスはオクタウィアヌスの姉オクタウィアと政略結婚していた。その事実を示すようにアントニウスと共にオクタウィアが描かれている。アントニウスにとって、彼女は四番目の妻にあたる。



*新しいコインがマークのローマコイン図鑑に収録された。



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「それじゃあ、アントニウス。ボクは国に帰るよ。くれぐれもオクタウィアヌスには用心した方が良い。彼の友人、アグリッパとマエケナスにも。彼らは若くても狡猾で、オオカミのような油断できない人間さ。ボクが言えることは、それだけだ。それじゃあ、アントニー、今まで一緒に旅ができて良かったよ。クレオパトラにもよろしく」

そう言ってマークはアントニウスの野営地から一人去っていった。

基地の外に止めていたタイムドライブのステルスが解除され、その姿が浮かび上がる。カラスのような真っ黒な機体。ジェット戦闘機の形をしたタイムマシンのコクピットのガラスが自動で開き、マークは乗り込んだ。

飛び立ったタイムドライブは一度だけアントニウスの野営地の上空を旋回すると、時空の彼方に消えた。



To be continued...



Shelk 詩瑠久


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