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短辺紙文「パスタを茹でる」

たとえば、食べるものを誂えるとか。そうやって何かをして、どうにか、毎日をやり過ごす。そうしていないと、わたしを追い詰める声が、こころのなかに聞こえてきて、その言葉のせいで、気持ちを苛む。

その声には、見ず知らずの、架空の人物たちの架空の言葉や、過去の出来事にまつわる、過去の人物たちの言葉が入り混じっていて、わたしをどこまでも追いかけてきて、いつまでも苦しめ続ける。

だから、わたしは、人も出来事も遠ざけるようにして暮らしています。その声が大きくならないように。その声を黙らせるために、疲れ切りながら、何事かに取り組んでいます。たとえば、料理。

料理にもいろいろあるけれど、わたしは、イタリアの料理の方法が愉しい。そうは言っても、作り事は、何事もしんどいから、気軽にはできません。そして、調理術は拙い。

あれこれと誂えたいところだけれど、ここのところ、どうにも気持ちが滅入っていて、買い出しにも行っていません。そもそも、食べる気が起きません。

とにかく、それくらい滅入っているので、乾燥品のスパゲッティーニと、EVオリーブ油、粉チーズ、黒コショウ、塩、水を使って、パスタだけを食べるための料理に仕立てます。スパゲッティーニ・カチョ・エ・ペペ。

スパゲッティーニは太さが1.6mm。スパゲッティは1.8mm。フェデリーニは1.4mm。カッペリーニは1mmくらい。EVはエクストラ・ヴァージンのオリーブ油。

小鍋に湯を700mlくらい沸かして、塩を5gくらい入れて、溶かします。スパゲッティーニを70g、放射状になるように加えて、中火から中火強くらいの火加減で、湯の緩やかな沸騰を保ちながら、茹で始めます。

スパゲッティーニは、湯に浸かったところから少しずつやわらかくなっていって、静かに混ぜているうちに、30~40秒間で、小鍋の中に収まります。湯に浸かるまでの誤差にまつわる、スパゲッティーニの仕上がりのやわらかさに、差しさわりはないと思います。時々、スパゲッティーニが固まらないように、かき混ぜます。

フッ素樹脂加工されたアルミ製のフライパンに、EVオリーブ油を10mlくらい、パスタを茹でている湯(アクア・ボレンテ)を100mlくらい、塩ひとつまみを加えて、混ぜ合わせます。この油分と水分と塩が混ざり合ったオリーブ油のソースは、フライパンにスパゲッティーニを移す前に火にかけて、かるく温めておきます。

茹でているスパゲッティーニを、硬さを残して湯からあげて、かるく水気を切って、フライパンに加えます。ソースを強く煮立たせないように、弱火から中火弱くらいの火加減で、スパゲッティーニとソースを静かに混ぜ合わせながら、煮込んでいきます。

ソースの水分を少し煮詰めて、スパゲッティーニの硬さと塩気をみて、パスタの茹で湯と塩を少量ずつ加えます。スパゲッティーニとソースを静かに混ぜ合わせながら、硬さと塩気が調うまで、パスタの茹で湯と塩を少量ずつ加えていきます。

スパゲッティーニの硬さが調ってきたら、かるく混ぜながら、フライパンを返す動作を繰り返して、ソースの水分と油分が混ざり合った乳化状態にしていきます。

EVオリーブ油を5mlくらい加えて、スパゲッティーニとソースを混ぜ合わせながら、フライパンを返す動作を繰り返して、ソースの水分を煮詰めていきます。

スパゲッティーニの硬さと味を調えて、ソースの水分をほんの少しだけ残るくらいまで煮詰めたら、火を止めます。粉チーズを大さじ1くらい加えて、3~4回、フライパンをかるく返して、スパゲッティーニとチーズを和えます。

スパゲッティーニを器に盛りつけます。粉チーズを大さじ1くらいふりかけて、黒コショウをたくさんふりかけました。

EVオリーブ油の代わりに、精製オリーブ油やバターで作っても。油量を少なめにしたり。パスタをフライパンに移した後に加えていく茹で湯を、野菜のブロード(野菜出汁)などにしても。

粉チーズは、パルメザンチーズよりも、パルミジャーノやグラナパダーノで作りたいところ。チーズの分量を多くしても。ソースの水分を煮詰める前にチーズを加えると、粒状のかたまり(ダマ)になるので、気をつけています。黒コショウは、粒を挽ければ。

ここでのパスタの鍋茹で時間は、7分間くらい。パスタをフライパンに移してからソースと合わせて煮る時間は、その時々。

乳化は、油分が馴染んでいる状態。ソースが水っぽくなくて、つやのある、水分と油分が分離していない様子。フライパンの中でパスタを1~2周りさせるように混ぜてから、フライパンを1~2回返す、といった動作を手早く繰り返す方法などで乳化状態に調えます。オリーブ油のソースのときには肝心で、パスタとソースが淡い乳白色のようになります。水分と油分が馴染むと味が調います。

油と水と塩。均衡をとりながら、上手く混ざり合うと、ソースになります。それが愉しい。

オリーブ油とチーズとコショウ。単純なパスタ料理。単純なことを、簡単にできたら、いいのに。

-オワリ-   文・写真/スカーラ主人

パスタが無くても。お米があれば。リーゾ・カチョ・エ・ペペ。

野菜の皮と切れ端で、出汁をとります。淡い旨味。

自分に似合った食事を摂って、自分のままで過ごしていたいですね。淡くて単純で静かな気分で暮らしたい。

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