本木晋平

鍼灸師/保育士/JAPAN MENSA(メンサ)会員/IQ149(WAIS-Ⅲ)/実用…

本木晋平

鍼灸師/保育士/JAPAN MENSA(メンサ)会員/IQ149(WAIS-Ⅲ)/実用イタリア語検定3級/AEAJ認定アロマテラピーインストラクター/趣味は芸術鑑賞、読書、小説執筆(2019年神戸新聞文芸年間賞(小説・エッセー部門)受賞)、スイーツめぐり

最近の記事

【ショートエッセー 神戸新聞文芸202403】白菜のように ※落選作

 寒くなると白菜が出回る。大好きな野菜というわけではないが、体を温める鍋料理や煮込み料理をする機会が増えると自然と白菜の出番が増える。  白菜が入るとボリュームが増すし、ビタミン類や食物繊維も豊富で体調が整う気がする。それに、だしを吸った白菜は美味しい。そのときどきの旨みを吸って蓄えた白菜は、白菜自身が持っているかすかな甘みも加わって、他の野菜では得られない満足感を与えてくれる。何より、旬のものを食べているという感覚が好きだ。冬の恵み、凝縮された冬の良さそのものをいただくあ

    • 【小説 神戸新聞文芸202403】除夜の鐘の音数え ※落選作(選外佳作)

       あと数時間もすれば音もなく年が変わる頃に除夜の鐘が鳴り始めた。  除夜の鐘は煩悩の数の分、百八回鳴らされると言われていて、そうであれば当然百八回聞こえるはずでる。もっとも、実際に百八回鳴ったか確認したことはない。三十秒ごとに鐘が鳴るとすると、百八回目を聞くまで一時間近くかかる。一時間も鐘の音に集中する能力を持ち合わせていないわたしには無理な話だ。一時間も集中できないから大したことも成し遂げられなかったかと思う一方、集中力をそういうことに使うのも集中力の無駄遣いではないかと

      • 【短編小説 原稿用紙15枚】スモモの木で一羽の鳥が 〜藤井佯「故郷喪失アンソロジー」落選作〜

         いっそ雪になればいいのにと思う、冷たい雨の降る晩だった。  残業を終えて勤め先からアパートに帰ってきたヨウイチが郵便受けを検めると、クリーニング店や新興宗教やデリバリーピザのフライヤーに混じって、高校の同窓会案内の封書が入っていた。  ヨウイチは初めて見る封書だけ鞄に収め、濡れたフライヤーを握ったまま、部屋のある三階まで用心しいしい階段を上っていった。  濡れた階段に足を取られそうになる。靴の買い替え時だと思う。  十一時半になろうとしている。食べずに寝る方が体にいいのは分

        • 【追悼】神戸人形の作者・吉田太郎さんのこと。

          先ほど  吉田太郎さんが亡くなったお知らせがスマホに来ました。 吉田太郎さんは神戸人形の製作者であると同時に、「伝道者」でした。 彼が書いた『神戸人形賛歌 よみがえるお化けたち』(吉田太郎 著、神戸新聞総合出版センター、2021)は、神戸人形の歴史と魅力ーー神戸の文化の豊かさを伝える出色の書です。 わたしと神戸人形との出会いは、kiitoで催されていた人形の展覧会「TOY&DOLL COLLECTION」。 https://japan-toy-museum.org/a

        【ショートエッセー 神戸新聞文芸202403】白菜のように ※落選作

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202401】筆は選ぶもの ※落選作

           二十歳のとき、成人祝いで父から万年筆をもらった。まったく親不孝なことだけれど、父がくれた万年筆はわたしの手に馴染まなかった上、二年もしないうちにペン先が割れてしまったので、そのまま捨ててしまった。現在愛用している万年筆は、四半世紀前、当時東京の日本橋にあった丸善の文房具売り場で買った万年筆である。会社員になって初めての冬のボーナスで買うこともあって、購入前に何度も書き味を試したことを覚えている。 万年筆に限らず筆記用具はこだわる。鉛筆やシャープペンシルは使わない。基本は万年

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202401】筆は選ぶもの ※落選作

          【小説 神戸新聞文芸 202401】イロハモミジの栞 ※落選作(選外佳作)

           恒例の古本まつりで買った古本の一冊に見覚えのある栞が挟まれているのを見て、ケンタの時間が止まった。 ケンタが十代の頃、恋人のユウコに贈った手製の栞だった。 電車を乗り継いで行ったデパートの文具売り場で売っていた手漉きの厚手の和紙に、紅葉の名所で知られる古刹の庭園に落ちていたイロハモミジの紅葉を押し花にしたのを乗せてラミネート加工した。 栞違いということはない。自分が作ってユウコに渡した栞と同じだ。 この本はユウコが読んだのだろうか。ユウコも読んだのだろうか。それとも、挟んで

          【小説 神戸新聞文芸 202401】イロハモミジの栞 ※落選作(選外佳作)

          鳴かず飛ばずの一年

          2023年は鳴かず飛ばずでした。 大殺界だったからかもしれません。 小説はまったくヒットせず。 特に北日本文学賞、明石市文芸祭が全滅というのが精神的にこたえました。 北日本文学賞は来年もチャレンジしようと思います。半年なんて割りとすぐ来ます。今のうちに題材を考えないと。 鳴かず飛ばずと言えば、エッセーも落選ばかりでした。 考えてみれば、文芸コンクールで入選しようと思うこと自体、自分には大それたことなのでしょう。 #今年のふり返り

          鳴かず飛ばずの一年

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸 202201】十二月十二日の逆さ札の謎解き ※落選作

           上方の風習の一つに「逆さ札」がある。 名前の通り、十二月十二日に「十二月十二日」と書かれた札を上下逆にして玄関に貼っておくというものである。    一説によると十二月十二日は天下の大泥棒・石川五右衛門の誕生日で、それを上下逆さに書くと命日――文禄三年(一五九四年)八月二十四日、京の三条河原で釜煎りの刑に処された――を表す。 この逆さ札を玄関などに貼っておくと、それを見た泥棒は石川五右衛門の命日と末路を思い出し、盗みを諦めるというのである。  しかし、十二月十二日が石川五

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸 202201】十二月十二日の逆さ札の謎解き ※落選作

          【エッセー】ナポリタンのお焦げ 〜第50回明石市文芸祭 落選作〜

           ここのところ、ナポリタンのおこげが食べたくてたまらない。どこの店のナポリタンでもいいわけではない。より正確に言えば、二十年近く前、東京の目白にあった、行きつけの小さな洋食屋のシェフが作ってくれる、ハンバーグプレートのつけあわせの一つだったナポリタンのおこげが食べたくてたまらないのである。  熱々の鉄板で供されるのだが、すぐには手をつけない。火傷するからというのは表向きの理由で、つけあわせのナポリタンが焦げるのを――本当に食べたいものが出来上がるのを待つためである。ハンバ

          【エッセー】ナポリタンのお焦げ 〜第50回明石市文芸祭 落選作〜

          【小説】デッドボール 〜第50回明石市文芸祭 落選作〜

           バーカウンターでシングルモルトの水割りを飲みながら、ツトムはざわつく心を鎮めようとしていた。それでも、少し離れた席に座っている、三十前後と思しき三人の男性の話がどうしても耳に入ってしまう。  話題は、なぜ天才は幸せになれないか、なぜ天才は近しいひとを泣かせるのかというものだった。熱のある話しぶりから、彼らが天才に憧れているのは明らかだった。天才になれるものなら、魂の一つや二つ平気で売り飛ばしてしまうかもしれない。  一方のツトムは、天才という言葉を聞くたびに心が疼く

          【小説】デッドボール 〜第50回明石市文芸祭 落選作〜

          【小説】ゴッドハンド 〜第58回北日本文学賞2次選考落選作〜

          「天職なんて二十九歳までに見つかればいい」  二十九歳になったばかりのシンは、捨て忘れた古雑誌の記事の一節を声に出して読んだ。  会社勤めのシンは鍼灸師という仕事に興味を持ち始めていた。仕事のストレスから体調を崩したとき、会社の先輩に勧められて鍼灸院に通ったところすっかりよくなって驚いた。体に針金を刺し入れ、艾で皮膚を温めて病気を治すメカニズムは分からないものの、鍼灸の効果は実感していた。  鍼灸師が天職になるか、自分の人生を賭けてみようと思った。シンは勤めを辞め、鍼灸

          【小説】ゴッドハンド 〜第58回北日本文学賞2次選考落選作〜

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202311】日曜の晩の怪事 ※落選作

           二〇二三年八月二十七日の日曜の晩、午後十時四十分頃のことだった。  カレーライスを作ろうとキッチンの水道のハンドルをひねったところ、蛇口の直径と同じ太さの水が勢いよく流れ出た。 水流を抑えようとハンドルをひねったが、水はいっこうに止まらなかった。 出す方、止める方、両方にひねっても水の勢いは変わらなかった。  野菜くずがキッチンシンクの排水口を塞いでいることもあって、シンクの水位は無慈悲にも上がっていく。 このままだとシンクから水が溢れて床が水浸しになる--

          【ショートエッセー 神戸新聞文芸202311】日曜の晩の怪事 ※落選作

          【小説 神戸新聞文芸202311】ジントニック・ナイト

           あと数日で中秋の名月を迎える夕暮れ時、出版社から新刊の六刷決定の電話連絡を受けた在野の歴史研究家のTは書斎の椅子から飛び上がった。 飛び上がった瞬間は純粋に驚きだけだったが、時間が経つにつれ、その驚きが喜びへと変化していくのを、窓から見える、夕暮れから夜の入り口への移り変わりのように楽しんだ。  それまで所属学会の会報誌に掲載する論文しか書いたことのないTにとっては初めての一般読者向けの入門書で、読書や歴史が苦手なひとにもとっつきやすいよう、構成や文章に工夫を凝らした

          【小説 神戸新聞文芸202311】ジントニック・ナイト

          投扇興の第一級の研究書(論文)「投扇興の歴史と現状」(高橋浩徳、大阪商業大学アミューズメント産業研究所 Gambling&Gaming 第4号、2002年)を読む

          日本における投扇興の研究の第一人者、大阪商業大学アミューズメント産業研究所研究員の高橋浩徳先生の論文 「投扇興の歴史と現状」 (大阪商業大学アミューズメント産業研究所 Gambling&Gaming 第4号、2002年) についての感想・メモである。 ●「6.現在の投扇興」に寄せた筆者の懸念は一読の価値がある。引用する。(66-67ページ) ーーー 本来遊びである投扇興を伝統芸能と言って家元制度を取り入れたり、段級位を設けたり、自分のところのやり方を本物、というところ

          投扇興の第一級の研究書(論文)「投扇興の歴史と現状」(高橋浩徳、大阪商業大学アミューズメント産業研究所 Gambling&Gaming 第4号、2002年)を読む

          投扇興の的「蝶」がイチョウの葉の形になった理由

          本稿は投扇興の的「蝶」が今のイチョウの葉の形になった理由についての私見(仮説)である。 投扇興は安永年間(10代将軍徳川家治の庇護のもとで田沼意次などが活躍した時代)に文献に登場する。現在行われているスタイルとほぼ変わらないが、的の形はずいぶん変わって、華やかなイチョウ(銀杏)の葉の形の的になっている。その両端に豆鈴がついているものも多い(上の画像には豆鈴はついていない)。 はじめは、硬貨を紙で包んでおひねりみたいに水引きで口を縛って羽根を広げた蝶のような形にしたのを的玉

          投扇興の的「蝶」がイチョウの葉の形になった理由

          【随時更新】わたしの好きな和菓子

          和菓子に求めるもの (1)材料がシンプルであること (2)独創的であること (3)老舗 創業50年以上 (4)手に届く程度の値段であること 殿堂入り ●船橋屋(東京・亀戸)の「くず餅」 小麦粉と水と乳酸菌だけでこんな美味しいものが作れるのかと驚かされる。個人的には、くず粉から作る「本来の」くず餅よりも、船橋屋のくず餅の方が好みだ。黒みつも美味しい。 ●粟玄(大阪・東住吉)の「和洋」 和菓子洋菓子問わず、お菓子好きなら絶対試してほしい。粟おこしの技法を見事に昇華させた一品

          【随時更新】わたしの好きな和菓子