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介護施設でのティール組織の実践、対話のための環境づくり――これらに挑戦してきた僕が今、新たに始めるチャレンジ

 有名な経営者が経営を指南する本。ある分野の成功者によるノウハウ本。――世の中にはビジネス本が溢れている。

もちろん僕も一介の経営者としてビジネス本は読むし、セミナーに参加することもある。でも、僕は本や講座でインプットしたことを試すよりも、まずは自分でやってみることが多い。

自らの思索や経験の末に生まれたアイデアや、やってみたいと思ったことをとにかくまず試してみる。そしてその過程で学び、よりアウトプットの質を高めていくのが好きだ。本やセミナーは、そうして学んだことの答え合わせとして使うことがほとんどだ。

僕が会社を運営する上で大切にしている「対話」も妻との結婚生活を通じて学んできた。

そこで今回は、僕がアウトプットを通じて学んだ「対話」をどのように経営に活かしているのか、そして、これから試そうとしている新しいチャレンジについても言葉にしておきたい。。


毎日行う“役員対話”

 僕が日々、会話について感じていることがある。
それは、「人は身近になればなるほど言葉を省略する」傾向にあることだ。

ともに過ごした時間が長ければ長いほど、「きっとこれでわかってくれるはずだ」と考えるようになり、言葉を尽くして自分の気持ちや状況を伝えることをしなくなるのだろう。

こうした会話を繰り返していると、感覚で言葉を発するようになり、話している本人ですら自分の気持ちを掴めなくなってしまうことがある。そうして結果的に、気持ちに根ざしていない表面的な会話が増えてしまう。これが一概に悪いわけではないが、少なくとも対話とは言えないのではないだろうか。

きちんと対話をするために、僕は「身近な人ほどちゃんと質問すること」を大切にしている。相手が発した言葉をなんとなく流さずに、質問して深く聞いていけば、その言葉の背景を知ることができる。

特に僕が意識しているのが、6W2Hの切り口での質問だ。

・When(いつ)
・Where(どこで)
・Who(だれが)
・Whom(だれに)
・What(なにを)
・Why(なぜ)
・How(どのように)
・How much(いくらで)

これらの要素を尋ねていくことで状況を正確に理解できる。そしてそれを理解できてはじめて、相手すら言語化できていない気持ちを探っていける。このように相手のことを知ろうと質問を重ねることが、双方の深い理解につながっていくのだ。

また、「質問力は課題解決力に直結している」と僕は考える。だからこそ、管理職にもっとも求める能力も質問力だ。

ただ、質問力ばかりを身につけても人はついてこない。ここで重要になってくるのが、行動指針にもある「傾聴と承認」だ。質問力はむしろ応用で、人との関わりにおいては「傾聴と承認」がまず必要だと考える。これらを大事にする姿勢は、以前は妻を質問詰めにしてしまっていた僕が、妻との対話を通じて学んだものだ。

▼妻との対話については僕の自己紹介noteでも話しているので、よかったらぜひ。

管理者たちに傾聴・承認・質問の大切さを伝えつつ、役員間でも、会話の質を高めるべく毎朝1時間役員6名が集まって対話をする場を設けている。この取り組みは、相互理解や人に何かを伝えるスキルの向上などさまざまな目的を持って、昨年の8月頃からはじめたものだ。

この結果、役員の話すスキルを格段と高めることができた。特に擬音の使用が多く話が抽象的になりがちだった役員には、個別で「こう話した方が伝わりやすいよ」とフィードバックも行った。それを受け止め、努力を重ねてくれた彼は、この9ヶ月で見違えるように成長した。

また、役員のなかには僕の弟や妹もいるが、兄弟でも知らないことがたくさんあった。役員との関係性はもちろんだが、こうして家族間の相互理解も強固にできたという意味でも、非常に有意義な時間だと感じている。

「リンクスに合いそう」その洞察からスタートしたティール組織の実践

 冒頭で「実践から学ぶことがほとんどだ」と言ったが、そんな僕がこれまでに唯一、本でのインプットをきっかけに挑戦したことがある。

それはまだ代表となる前の2018年に行った、ティール組織への挑戦だ。

『ティール組織――マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(フレデリック・ラルー著/英治出版)を読んだ僕は、ティール組織こそリンクスの組織課題解決に適していると感じた。

ティール組織とは、権力を持ったリーダーが存在せず、個々のメンバーが意思決定を行うことで運営される組織のことだ。

なぜこの形態が適していると感じたのか。

2016年、僕が介護事業の運営に携わって3年が経とうとしていた頃のリンクスは、リーダーや管理者に誰もなりたがらないという課題を抱えていた。リーダーになることで肩にかかる責任や精神的負担が重くなると感じる人もいれば、「部下に嫌われたくない」との感情から昇進を避けようとする人もおり、その理由はさまざまだった。

一方で、リーダーへの不満は多い。とても健全とは言えない組織の状態があった。その課題を解消するために「互いを認めながら物事を決められるように、職員の上下関係をなくしてみたらどうか」と、理想の組織について考え始めた。この本に出会ったことで、ティール組織という概念を知った僕は「これだ!」と確信し、早速ティール組織を実践してみることにした。

まずは当時運営していた2つの施設の施設長などの役職をなくして全員一般社員とし、それぞれの施設内は完全にフラットな状態へと転換した。

その結果、ティール組織がうまく機能する施設としない施設に別れた。

うまくいかなかった施設は、職員が60名以上の中規模施設だった。その人数の多さゆえになかなか意見をまとめることができなかったのだ。そうした状態が続くうちにリーダー格の人が出てきて、場をまとめるようになっていき、ティール組織は形骸化してしまった。

一方のうまくいった施設は、30名以下の小規模で、かつ勤続年数の長い職員が多く、職員の年齢層も高かった。人数が少ないために意見をまとめやすく、長年ともに働いていることで信頼が醸成されており、かつ年齢ゆえか人の意見を受け入れる包容力の高い職員が多かったことが要因ではないだろうか。

ティール組織がうまく運用できたこの施設では、施設長の交代など組織の変化が起こりながらも、今でも話し合いを通じて物事を決める形で組織運営をしている。

このティール組織の例にも表れているように、僕は新しいことにも躊躇することなく取り組むタイプだ。「新しい挑戦への恐れや壁はないのか?」と聞かれることもあるが、あまり挑戦に対する不安を感じることはない。新しいことに対しては、不安よりもワクワク感を持つことの方が多い性格だと言える。

その分リスクヘッジが苦手なのが弱みでもある。ただ、僕とは反対に挑戦よりもリスクヘッジが得意な人も世の中にはたくさんいる。役員にもそうした人材を登用し、弱いところは得意な人に任せ、自分の得意分野で存分に力を発揮できる体制を敷いている。

3年以内に、リンクスをみんなの憧れの会社にする

 そして今まさに、僕が挑戦していることがある。まずひとつは、リンクスをもっと大きく、もっと働きやすい会社にすること。もっと言えば、「リンクスで働きたい」「リンクスで働いているなんてうらやましい」と多くの人に思ってもらえる会社にすることだ。3年後には、その状態を実現したい。

そのために職員の給与水準を高めるのはもちろんのこと、職員の満足度を物心両面から高める福利厚生の充実を目指している。

また、より安心して働ける職場環境の整備にも取り組んでいる。介護業界で働く職員のなかには「本当はこんな風にケアしたい」と思っているにもかかわらず、言えずにいる人がたくさんいる。

たとえば「前の職場ではこんな風にケアしていて、自分はそれがいいと思っていたけどこの職場は違うんだな」と思った時に、それをリーダーに伝えることができず、こっそりと自分だけ前の職場と同じケアをしてしまうのだ。そして注意されてしまい、双方が嫌な思いをしてしまうことが起こっている。

「お客様をよくしたい」という想いはみんな共通している。やり方が違うだけなのだ。違ったやり方であっても心理的負担を感じることなく発信できて、そして認め合える状態を作りたい。そうすることで、より良いサービスを入居者の方に提供することができるし、職員のやりがいにも繋がる。

そのためのアプローチとして、現在管理職を育成するために行っている「8週間プログラム」を、職員全員に受けてもらえるようにブラッシュアップする計画を進めている。

そしてリンクスの魅力を高めるだけでなく、介護職の魅力を伝えることもやっていきたい。なぜなら、介護はとても将来性の高い仕事だからだ。

高齢者がこれから増えていくという側面もあるが、何より介護は人でなければできない仕事だ。もちろん介助自体はロボットにできる部分も増えていくだろう。しかし、人間と同じ水準での心のケアはロボットにはできないはずだ。

医師でさえも、外科手術のスペシャリストなどの一部の人以外はAIに変わっていくと言われているなかで、介護士は生き残り続ける。現在は低賃金で大変というイメージも根強いが、近い将来、介護士が憧れの職業になる時代がくると僕は確信している。

沖縄を健康で長生きできる土地にするための挑戦

 そしてもちろん、社員にとってだけでなく、社会にとっても魅力的な会社でありたい。

長寿の印象が強く100歳以上の方も多い沖縄だが、長生きをしている方々がみんな健康に生きられているとは限らない。実際に僕は、健康とは言えない状態の高齢者の方たちをたくさん見てきた。

2017年と少し古いデータではあるが、内閣府の発表によると沖縄の胃ろう造設数は全国一位で、全国平均の1.8倍を超えている。沖縄の長寿は健康長寿なのかについては、僕は懐疑的である。

胃ろうを使わなくてはならない状態になることの大きな原因は、嚥下機能の低下だ。そして嚥下機能を維持するには、口腔の健康が重要である。そこで今、歯科を運営する計画を進めている。来年の開業を目指し、ちょうど先日、歯科経営に関する勉強会への参加を始めたところだ。そしてゆくゆくは内科の運営も行い、口腔と体の内部の両面から、健康寿命を伸ばすサポートをしていきたい。

歯科運営に取り組みたい理由は、健康寿命を伸ばす以外にもある。実は沖縄は、子どもの虫歯率も全国でもっとも高い。2021年度の12歳児の虫歯有病者率は全国平均よりも25.7ポイント高い54%だった。この課題にもアプローチしたい。そのため、ただ介護施設に歯科を併設するだけでなく、外来患者の診療も積極的に行っていく予定だ。

地域に歯医者さんが増えるだけでも、歯の健康に意識が向きやすくなり、虫歯予防への意識が高まるかもしれない。そうして小さいうちから口腔ケアをする習慣が根付けば、巡り巡って健康寿命の伸びにも繋がるはずだ。

とはいえ、虫歯予防も文化のひとつ。新しい文化を根付かせるのは一筋縄ではいかないだろう。いきなり広く沖縄全体に広めようとするのではなく、まずもっとも身近な職員に虫歯予防の大切さを伝えていく。そして職員が彼らの大切な人にも伝えてくれれば、少しずつ、着実に広まっていくはずだ。

そしてリンクスが大きくなればなるほど、リンクスの声が多くの人に届きやすくなる。事業を伸ばせば、会社の信頼性も高まり、より職員も増えていく。そしてそれによって、沖縄で暮らす人が豊かになると僕は信じる。これからも果敢に挑戦を続け、安心して豊かに暮らせる人を増やしていきたい。


▼僕の自己紹介noteです。興味をお持ちいただいた方は、読んでいただけるとうれしいです。

こちらはリンクスのヒストリーブックとリクルートサイトです。よかったらこちらも見てくださいね。

書き手 えなりかんな
聞き手・編集 サオリス・ユーフラテス


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