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ミルクをこぼしても泣く必要はない。

払い戻しや転売は絶対にできない世界だと想像して、以下を読んでみてほしい。

映画のチケットを購入した後で、その作品の評判が非常に悪いことを知った。いくら他人からの評価が悪くとも、自分は気に入る可能性は常にある。しかし、チケット代だけでなく、時間と労力も無駄になるかもしれない。経済的損失と機会的損失だ。観に行くか。

経済的に合理的な人は、チケット代を無視して変動費のみを考慮する。この話の中のチケット代は、サンク・コストの例である。しかし、これは非常に難しいことである。常に損失回避をしようとするのが、人間の性分だからだ。

今回は、サンク・コスト(sunk cost)=埋没費用の話。


昨今、この言葉が、用法的にひとり歩きしているように感じていた。ググってみて、なるほどと。「サンクコスト 恋愛」「サンクコスト 効果 恋愛」また、ビュー稼ぎの俗説系か?

サンク・コストとは、すでに費やされていて、回収できないお金のことである。

サンク・コストは固定コストか。
サンク・コストは固定費の一部であり、具体的には、回収不可能なタイプの固定費である。

では、給与はサンク・コストか。
従業員に支払った給与は、全て、サンク・コストである。その給与はすでに発生した費用であるし、会社が回収することはできないからだ。

全ての企業や個人には、サンク・コストが発生する。冷蔵庫の中の食品であれ(この例だと、埋没費用という言い方の方がわかりよいか)、地方自治体による設備投資計画であれ。サンク・コストというのは、現実的な話、あって当然のものなのだ。

ここまでで、どうだろうか。
思ってたイメージと少し違うという人も、いるのではないだろうか。


「サンク・コスト」の話をする時、一足飛びに「サンク・コストの罠」の話をしている、もしくは、後者の話しかしていないというケースが、よく見られる。

正しく理解するには、まず、サンク・コストとは何か?をとらえる必要がある。そうでないと、サンク・コストの罠に陥らないようにと下した意思決定が、効力を発揮しない。

こういう意味で、個人的に、俗説があまり好きではない。人々を惑わすからだ。迷うことや失敗することは、大切なことだ。私が指摘したいのは、迷わす方のこと。特に、故意にそうする人たちのこと。


ビジネス上の意思決定の話。

組織は、関連コストのみを考慮すべきである。情報にもとづいた意思決定を行えるように、当面の決定の結果として変化するコストと収益のみを考慮すべき。サンク・コストは変化しないのだから、考慮する必要はない。

関連コストとは、ビジネス上の意思決定を行う場合に発生する、回避可能なコストを表す管理会計用語。関連コストの概念は、意思決定を複雑にしてしまうかもしれない “不必要” なデータを排除するために、使用される。

関連コストの反対はサンク・コスト。サンク・コストは、現在や将来の決定の結果に関係なく、すでに発生済みである。


すでに費やした資金(や時間や労力)を理由に、​​一連の行動を継続しようとする企業は、サンク・コストの罠に陥るリスクがある。

「リソースがすでにコミットされているため、現在の計画にコミットするのが正当である」という、誤った前提から。

好景気中に、建設業者が、住宅の建設を開始したとする。途中で、不動産市場の暴落がはじまった。作業を続けるか、それとも、途中でやめるか。確実な損失不確実な成功のジレンマ。
多くの業者が、仕事を続けることを選択したとする。結局、不動産市場に、持続可能な回復はなかった。大勢が失敗した。

この場合、サンク・コストを無視して、損失を削減した方がよかったのだ。


サンク・コストの罠とは、期待に応えられない活動を不合理にやりとげる傾向のことである。

誰にでも起こりうる。

つまらないと感じた映画でも全部観る理由。
もう着ない服でも長年とっておく理由。
明らかによくない恋人とい続けてしまう理由。

※エンディングが最高の映画かも。
※部屋着にまわせばいいかも。
※お互いに改善すべき点があるかも。

特定の学問を集中的に学んだ人。それが、自分にとって適切なキャリア・パスではないと気づいたとしても、もはや、他の道を選ばないようになっているかもしれない。
私自身、こうなるのを恐れて、より詳しくは、視野が狭くなることや世間知らずになるのを避けようとして、選択肢を拡げたことがある。

間違った “投資” をしてしまったと、自分自身で認めたくない。戦略を変更することとは、精神的には、自分の失敗を認めること。自分の最初の決断に価値があると思うために、コミットメントを維持したり、追加資本を投じたりしてしまう。

幼少期とは随分背丈が違うように、少年少女の頃に思う「人生」と、大人になってから見えるそれとでは、異なるものがある。

米津さんと菅田さんの素敵な作品が伝えてくれることも、また、真実だと思うのだが。


サンク・コストの罠は、生物学的傾向に、深く根ざしている。

意思決定プロセスが失敗する原因

損失回避
人は、他の全てが同じならば、利益を追求するのではなく、損失を回避する傾向がある。リスク許容度が低いため(※生きるのに大切な反応)に、これが起こる。例)サンク・コストのあるプロジェクトを終了することに消極的。

コミットメント・バイアス
人は、計画に固執する傾向がある。特に、最初の計画に。初志貫徹には、もちろん、メリットもあるが。

個人的な意思決定
人は、特定のプロジェクトや決定に対し、感情的になる傾向がある。愛着を感じたり、責任を感じたり。そして、バイアスが生じやすくなる。「だって人間だもの」仕方ない。

など

ほとんどの人は、サンク・コストを意思決定に織り込んでしまう。

サンク・コストの罠にかかる可能性が最も高い企業は、参入障壁が最も高く、立ち上げコストが最も大きい企業らしい。セオリーどおりだ。


ちなみに
全てのサンク・コストは固定費だが、全ての固定費はサンク・コストではない。

機器が、購入価格で再販できたり返品できたりするなら、それは、サンク・コストではない。

買い物をした際のレシートに、返品や払い戻しのできる期間について、記載されている。その期間内は、回収可能なコストであるため、サンク・コストではない。


道具を効果的に使うには、まず、道具のことを正しく知ることから。

泣くような事態だからって、泣かなくってもいい。肩の力が程よく抜けるかもしれないから、涙だって悪くないけれど。言い直そう。泣き続けなくってもいいんだ。

大丈夫。また頑張ればいい。

こんな簡単な言葉を書きたいがために、長々と説明した。でも、これだけ言ったところで、空にふわっと消えていくだけだから。人に響かない。



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