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Still 2023
「あなたに会えて本当に楽しかった。生きていてよかった」
届いたDMの控えめな結びに涙が滲んでいた。私の存在をして「生きていてよかった」とこの人に言わしめたことに、私は私の存在の、不確かさしか感じたことのなかったこの存在の、どこかに息をひそめていたのかも知れない煌めきのことを思った。私は私にわからなくても、いや、そろそろ「わからない」と言ってしまうことにも歳を取り過ぎている、けれどやっぱり、普段は
彼女は夢を追いかけている
「わたし、彼女のこと大好きなんですよ。こういう、夢を追いかけている子が大好きなんです」
多分秋で、ケーキがおいしい店だった。というか、ケーキ屋に併設されていたカフェだった。
同期のシンガーソングライターのライブの前座として一人芝居をすることになったからと、空席を出すわけにはいかないからと、土下座ばりの蝶子の頼みを聞き入れて私は神戸元町の坂をのらくらと上がり、会場になったカフェの隅の席に腰を下ろし
開いてワームホール この花束を渡して、彼女に
日が沈んでいる。何も考えていない、考えられない、何も喉を通らないうちに、部屋から一歩も出ないうちに、今日は夜になっている。ほとんど訪れないこの自分のnoteに、随分久しぶりに、文字を打ち込んでいる。宇多田ヒカルを聴きながら、両手がしばしば止まる。書かなくてはならないことはたくさんある、けれど、私は一体ほんとうに、何てことをしてしまったのだろうと、また両手が止まって呆然とする。呆然とする他ないことが
もっとみる「さびしさはめぐる」
最近は仕事がたくさんあり、会社を出る頃には帰路の飲食店は軒並み電気を消してシャッターを下ろし、マンションとコンビニの明かりだけが煌々と、それから、これからどこにも寄り道をしないであろう人たちがぼんやりと、赤信号の横断歩道の前に立つ。私はその人々に溶けるように、するすると隙間を見つけて誰かの斜め後ろ、他の誰かには斜め前に立つ。交差点にいた車が止まり、音もなく青色に変わる信号を合図に、疲れた体をふらふ
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