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短編小説

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ちょっと不思議な短編を集めました。
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ストローのなかの、ちっちゃいおじさん【短編小説】

ストローのなかの、ちっちゃいおじさん【短編小説】

【あらすじ】
今世紀最大の『ちっちゃいおじさん大宴会』の招待状の束をなくしてしまった、ちっちゃいおじさん。
”私”は、開催の危機をすくえるのか?!

 

***

マンションの下のコンビニで、アイスコーヒを買う。

レジで氷入りのカップを受けとり、機械にセットしてボタンを押すと、ガーッという音とともに、勢いよくコーヒーが出てきた。
そのあいだにフタとストロー、紙ナプキンを棚からとる。
まるで店員

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【短編小説】風をあつめる

【短編小説】風をあつめる

「僕、風をあつめてるの。」

 
仲の良かった小林君が僕に教えてくれたのは、小学四年生のときだった。

「えっ、カゼ?くしゃみとか出るやつ?」 

「違うよ、だからひく風邪じゃなくて、吹く風。」

「風?でもさ、そんなもん、あつめられないでしょ。」

「できるよ。あつめたの僕んちにいっぱいあるもん。」

「うそだあ。」

「うそじゃないよ。じゃあ、見に来る?」

「うん。いくいく!」



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笑い袋(短編小説)

笑い袋(短編小説)


笑い 特価 590円

ある日、スーパーのすみっこに、こんなものが売られていました。

二年生の しょうた君が、それを見つけたのは、夕方のことです。お母さんと一緒に、お買い物に来ている時でした。

「笑い…って?」
 
それは、奥のほうの棚に、ぽつんと一つだけ置かれていました。

ごく普通の茶色い紙袋で、口の部分は二回ほど折り曲げられ、ホチキスで無造作に留められています。
袋には手作りの値札が貼

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うすっぺらな街 【短編小説】

うすっぺらな街 【短編小説】

渋谷のスクランブル交差点、上空。
俺は足元の光景に目を奪われていた。

多くの人が紙でできているかのように、厚みが無かった。

ぺらんぺらん、と、歩いている。

***

俺は、まだ薄暗い駅のベンチで始発を待っていた。
ポケットから取り出したスマホはいつの間にか充電が切れていた。舌打ちをして膝に乗せていたカバンに放り込む。手袋はしていたが指先は凍え、こわばっていた。
辺りは冷蔵庫のような寒さで、俺

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「五十センチの神様」(短編小説)

「五十センチの神様」(短編小説)

ある愚かで怠け者の男が、だらりだらりと田んぼの畦道を歩いていた。

すると道端の土が少し、盛り上がっているのに気が付いた。

「ちょっと待て。」  

声が聞こえ、男は立ち止まった。  

「何だ?誰だ?」  

「わしじゃ。」

そう言いながら地面から顔を出したのは、長い髭を蓄えた、小さな神様だった。  

身長五十センチ位の神様は、やっとのことで穴から這い出してきた。てっぺんは河童のようにハ

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「ワスレサル」(短編小説)

「ワスレサル」(短編小説)

【 右足を見て跳び上がった。ちょうどふくらはぎのあたりに取り付いていたものを見たからだ。
驚いたことに、それは小さなサルだった。(本文より)】

右足が重い。

最初に違和感を覚えたのは、梅雨が明けたばかりの頃だった。
数日前まで梅雨寒で、少し肌寒いほどだったのだが、その日の東京には真夏のような日差しが照りつけていた。

俺は職場から一人で営業先に向かっていた。
地下鉄を乗り継ぎ、目的の駅に降り立

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