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青春の後ろ姿のその先85 〜オーデュボンの祈り〜

 自由な世界観とそこに棲む者たちが、小説ならではの面白さを高めてくれています。冒険譚でもあり、一度人生を棄てた者が再生に至る過程を描いた話のようにも思えます。主人公が迷い込む荻島という島は、ちょうど芥川龍之介の『河童』の世界にも通じるものがあると思いますが、一度その世界に視点が入り込むと、かえって外部=私たちの日常世界が退屈で、異常で、俗悪であるように思えてしまって、いつまでも荻島や河童の世界にとどまりたい気持ちになるのが何とも不思議です。でも、旅ってこれによく似ていると思います。日常と非日常の往還を通して人というか人生が再生したりするという意味では貴種流離譚とよく似ているとも言えるかもしれません。これを読むと、旅に出たくなります。

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