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アート思考でイノベーションを起こす:収益よりもまず行動変容に焦点を当てよう

先日、『革新的なアイデアを生み出す アート思考実践論』と題したオンラインセミナーを行いました。700名を超える方に視聴していただき、アート思考への関心の高さを感じました。このセミナーで、久保田沙耶さんのアート《漂流郵便局》を紹介したところ、「この事業はどうやって収益をあげているのか?」という質問をいただきました。この質問は、日本のビジネスパーソンらしいものです。今回は、収益より行動変容という思考の順序について考えます。

《漂流郵便局》:行動変容を促すアート

《漂流郵便局》は、香川県粟島にある古い郵便局を使って、受取人のいない手紙を預かるプロジェクトです。受取人のいない手紙というのは、例えば、お子さんを亡くしてしまったお母さんが、そのお子さんに対して自分が今考えていることを綴った手紙です。手紙を書いてしまったままだとそこで終わってしまいますが、ポストに投函すると、もしかしたら天国のお子さんに届いて読んでくれるのではという希望が出てきます。人々の心理に寄り添い、希望を持って手紙を投函する行動変容を促しました。

当初、1ヶ月間のプロジェクトでしたが、その間に400通も手紙が届き、継続することにしました。しかし、これは事業ではなくアート作品。積極的に収益をあげようとはしていません。漂流郵便局への入場料が300円に設定されているだけです。それでもプロジェクトは続き、2023年までの10年間で5万6千通の手紙が届きました。

久保田沙耶《漂流郵便局》

行動変容を促すことこそイノベーション

《漂流郵便局》は、人々の深層心理に訴え、行動変容を促したところに意味があります。行動変容が起きると、大きく収益をあげなくても継続できるのです。元早稲田大学教授の内田和成さんが、行動変容を起こすことこそイノベーションと語っていますが、《漂流郵便局》はその事例といえます。

収益を最優先に考えると、既存の製品やサービスの改善に留まりがちです。私のアート思考講座では、アート作品のために考えたコンセプトを事業プランに活用します。この方法では、収益を切り離して、行動変容を促すコンセプトを考えられるようになります。

行動変容を促した「グーグル検索」

グーグル検索は、行動変容を促したイノベーションの一例です。“ググる”という言葉ができましたが、仕事の場面でもプライベートでも私たちはグーグル検索に頼っています。当時学生だったセルゲイ・ブリンとラリー・ペイジが、被リンクが多いほど重要なページというPageRankを開発しました。1998年のことです。

当時はまだWebページも多くなく、検索が大きなビジネスになると考えた人はほとんどいませんでした。そのため、すでに検索サービスを提供していたヤフーなどもこの技術を買ってくれず、自分たちで事業を始めたのです。

思考の順序を転換する

インターネットが広がってくると、「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」というグーグルのコンセプトと検索サービスの秀逸さから人々の行動が変わってきました。そして、2000年にGoogle Adwordsを導入し広告収入が得られるようになったのです。収益を最優先で考えていたら、グーグル検索は生まれなかったかもしれません。

グーグルの事例は、収益を最初に考えずに、行動変容を促すコンセプトを考えることが成功の鍵であることを示しています。多くの人が共感し行動を変えるようになれば、その事業は持続可能性が十分でてきます。そこで、事業に合ったビジネスモデルと融合することで、大きな収益を得られるようになります。

新たな事業を考えるとき、収益優先から、行動変容を促すコンセプトへと、思考の順序を転換させてみましょう。


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