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小さな組織でもできるアート思考によるイノベーション

先日行ったオンラインセミナー『革新的なアイデアを生み出す アート思考実践論』でいただいた質問に、「アート思考でイノベーションに挑戦する際、中小企業では投資回収までに時間がかかると取り組みが難しい。大企業の方が適しているのだろうか?」というものがありました。結論からいうと、組織の規模は関係ありません。多くのスタートアップは、アート思考で斬新な事業に挑戦しています。
今回は、小さな組織での取り組みについて紹介します。


アート思考は「自らの興味・関心を起点に、既存の常識にとらわれない斬新なコンセプトを創出する思考」のことで、現代アートのアーティストが作品を制作する際に発揮する思考をモデルにしています。

アーティスト・西野達さんの壮大なプロジェクト

多くのアーティストは組織に所属せず、自力で作品制作を行なっています。壮大なプロジェクトを企画するアーティストは、いろいろな人に協力してもらいますが、基本的には自分で資金集めから制作の指揮まで行なっています。

アーティストの西野達さんは、マンハッタンに立つコロンブス像の周りを囲んでリビングルームを創ったり、シンガポールのシンボルであるマーライオンの周りを囲んでホテルを創ったりと、誰も考えつかないような奇想天外な作品を制作しています。

The Columbus Monument at the center of Columbus Circle in Manhattan, New York City.

マンハッタンのコロンブス像は、地上から20mの高さに設置されていて、間近で見ることができません。接近して像を見ることができたら、新たな発見があるに違いないと興味をもち、コロンブス像を囲ったリビングルーム《Discovering Columbus》を制作しました。部屋にはソファ、テーブル、テレビなどがちゃんと置かれていて、窓からはマンハッタンが一望できました。

《Discovering Columbus》の展示期間は2ヶ月半でしたが、この間10万人の人が訪れました。総工費は2億円、ニューヨークの芸術支援団体・Public Art Fundが主催となって出してくれました。ファンドに支援してもらうのもアーティストの力の一つです。

起業家・猪原有紀子さんの周りを巻き込む事業開発

次に個人が発送した事業について紹介します。起業家の猪原有紀子さんが開発した、廃棄フルーツを使った無添加グミです。猪原さんのお子さんはグミが好きでよく食べていました。しかし、市販のグミは砂糖や着色料が使われているのが気になっていました。

あるとき、規格外の柿が大量に捨てられているのを目撃、廃棄フルーツを使って無添加のグミを作れないかと思いつきました。食品の乾燥技術の研究を行っている先生を紹介してもらい、大阪市立大学との共同開発が始まりました。フルーツを乾燥すると美味しいグミになりますが、色が鮮やかでなくなり、子供たちは食べてくれません。色を保つ技術など、何万通りの実験を繰り返し、製品化まで2年かかりました。

最初は、周りの農家から廃棄フルーツを提供してもらうのにも苦労しました。ママ友に協力してもらい、農家に働きかけて賛同者を増やしていきました。また、福祉施設の障がい者の人たちの仕事が不足しているということを知り、グミの加工作業を地域の障がい者福祉施設にお願いすることにしました。

廃棄フルーツを農家から買い取り、福祉施設で加工をすることで、農家にも施設にも収入が生まれます。また、捨てられていた果物をアップサイクルすることで、食品ロス問題の解決にも貢献できます。そしてなにより、子供達に安全で美味しいグミを食べてもらうことができます。

とても素敵なコンセプトだけあって、多くの人たちが協力してくれて事業化が可能となりました。

小さな組織でのアート思考の極意

アートと事業の2つのケースを紹介しました。小さな組織でも、自分起点で考えたコンセプトを実現させることはできるのです。当事者の、本当に実現させたいという情熱と、実現させるためのリサーチと思考を続けること、自ら動くことが大切です

実は、大きな組織の方がリソースが充実しているのに、斬新なコンセプトの事業を立ち上げにくい状況に陥っているように思います。大きな組織でのアート思考によるイノベーションについては、別の機会に考えてみようと思います。

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