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こころのちからになる話

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現代を舞台にした作品メイン集。小説、戯曲風、詩も。読後の爽快感と、ちょっとだけ心が温まるようなお話を目指してます。
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#短編小説

こころのちからになる話7 世界のジョーシキ「GDP」を疑え! ~これからのGDPのお話~

こころのちからになる話7 世界のジョーシキ「GDP」を疑え! ~これからのGDPのお話~

サトコは大学三年生。タバコはせず、お酒の味をようやく覚えたお年頃だ。

曽倉(そくら)は大学二年生。サトコと学年は違うが、誕生日は四月をまたいで近く、既に二十歳を迎えている。

二人は、同じゼミの学生だった。今年の四月からは授業がオンライン一択となったため、仲が良かった二人は個人的にオンライン飲み会をやるようになった。

今日の話題は、経済について。GDPという、誰もが知るほどポピュラーな「国内総

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こころのちからになる話6 雪かき体験ツアーin限界集落

北日本の僻地に、とある村があった。いわゆる限界集落というやつで、若い世代はほとんどが都会へ出ていき、住んでいるのはじじばばだらけ。それでも力を合わせてなんとかやって来たが、最近はそろそろ、ある作業がとても大変になってきていた。

雪かきだ。山間にあるこの村には、ドカ雪が襲ってくると言ってもいいほど積もる。地球温暖化も何のその、この村には冬になると必ずたくさんの雪が降った。

雪かき体験ツアー。

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こころのちからになる話5 つばめの巣スクラップアンドビルド

広子(ひろこ)は56才のとき今から数年ほど前に、地震に遭って家を失った。家族も夫と息子の二人を失った。残ったのは当時20才の娘、律(りつ)だった。命からがら生き残った広子は、何をするにしても無気力さが抜けなかった。大切な家族を失って生きて何になるのだ。部屋にこもってじっとしていると、自分も後に追いたいという暗い気持ちが、あとからあとからわいてきた。

「お母さん!」

律が広子に声をかけた。

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こころのちからになる話4 おばあちゃんの手作り品

陽菜(ひな)は、おばあちゃん子の12才。編み物や身の回りのものを作るのが得意なおばあちゃんをとても尊敬している。誕生日が来るともらえたニットのセーター。お手製の花のオブジェが付いたハンドバッグだっておばあちゃん製だ。

お父さんやお母さんからもらえる誕生日の日の特別なお金ももちろんうれしいが、冬になると、おばあちゃん製のセーターを、必ず学校に身に着けていく。市販製のものしか着たことのない今どきのお

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こころのちからになる話3 後輩からの贈りもの

 細野恵美(えみ)は、アラサー女子一歩手前の29才。新入社員だったころの緊張感がようやく薄れ、仕事も何とか様になってきた。

 しかし、私用から自分のアパートに戻ってくるなり、はぁあ、と彼女は深いため息をついた。

 心がとても、もやもやしているのだ。

 理由は、私用が、会社で育てた可愛い後輩の結婚式だったからだ。

 後輩は一所懸命に恵美から仕事を覚え、入社して3年目、ようやくモノになろうとい

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こころのちからになる話2 社長、子ども食堂の料理を作る

江平徹(えひらとおる)は、誰にも言えない悩みがあった。彼はただ今、業績絶好調になっている新しい企業の社長だ。自分の得意分野を活かして、並みの会社員よりもたくさんのお金を稼いだ。彼は自分の幸運に感謝し、また、新たなアイディアを駆使して人のニーズをつかむことにも長けていたので、そこそこの評判も得ていた。

彼の悩み。それは、お金を得ることにまったく喜びを感じなくなってしまったことだった。贅沢と言えるか

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こころのちからになる話1 ゴミ拾い革命

ゴールデンウィークのことだった。佐竹仁(さたけひとし)は家族を連れて、10連休にインドネシアへ渡った。目当てはとあるビーチ。妻の麻美(あさみ)も、14才になる娘の裕子(ゆうこ)も大喜びでついてきた。

佐竹は家族でホテルを出て、人でにぎわう浜辺に着いた。まだ太陽は高く上っていて、海に光が反射してまばゆい。

「さあ、泳ぐぞー」

佐竹はトランクスタイプの海パン姿で、麻美と裕子に声をかけた。

「ち

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