見出し画像

高強度の有酸素運動は、『脳由来神経栄養因子』を増加させる

📖 文献情報 と 抄録和訳

脳卒中生存者における運動と脳由来神経栄養因子との関係。システマティックレビューとメタアナリシス

📕Ashcroft, Sarah K., et al. "Effect of Exercise on Brain-Derived Neurotrophic Factor in Stroke Survivors: A Systematic Review and Meta-Analysis." Stroke (2022). https://doi.org/10.1161/STROKEAHA.122.039919
🔗 DOI, PubMed, Google Scholar 🌲MORE⤴ >>> Connected Papers
※ Connected Papersとは? >>> note.

✅ 前提知識:脳由来神経栄養因子とは?
・脳由来神経栄養因子(BDNF, Brain-derived neurotrophic factor)は、中枢神経系や末梢神経系の一部のニューロン(神経単位)に作用し、今あるニューロンが維持されるようにサポートし、ニューロンの成長を促し、新しいニューロンやシナプスに分化することを促す。
・脳の中では、BDNFは、海馬、大脳皮質、大脳基底核で活性化されている。それらの部位は、学習、記憶、高度な思考に必須の領域である。
・BDNFそれ自体は、長期記憶に重要である。
・身体的運動は、ヒトの脳において、BDNFの合成を3倍程度にまで増加させる。この現象は、運動による神経発生や、運動による認知機能改善の仕組みの一つである。

🌍 参考サイト >>> site.

[背景・目的] 脳由来神経栄養因子(BDNF, Brain-derived neurotrophic factor)は、脳卒中後の機能的転帰の改善につながる神経可塑性のバイオマーカーである。脳卒中患者において、運動後に濃度が上昇する可能性を示唆する初期の証拠があるが、運動パラメーターがBDNF濃度にどのように影響するかは不明である。

[方法-結果] この系統的レビューとメタアナリシスは、7つの電子データベースを検索した。脳卒中後の人々の運動後のBDNF濃度の変化を測定した実験的または観察的研究を対象とした。研究の特徴、参加者、介入、アウトカムなどのデータを抽出した。いくつかの固定効果およびランダム効果メタアナリシスが行われた。

[結果] 合計687名の参加者を含む17の研究が適格基準を満たした(6つの無作為化試験)。1回のセッション(平均差、2.49ng/mL;[95%CI、1.10-3.88])および高強度の有酸素運動プログラム(平均差、3.42ng/mL;[95%CI、1.92-4.92])の後にBDNF濃度に有意な改善が観察された。

[結論] 高強度有酸素運動は、循環BDNF濃度を増加させ、神経可塑性の増加に寄与する可能性がある。

🌱 So What?:何が面白いと感じたか?

前からぼんやりと感じていたことだったが、この論文を読んで、ある概念が結晶化された感じがした。

有酸素運動とは、具体的な作物を育てるという営みではなく、畑を耕し、数多の作物が育つ環境を準備する営みである

どういうことか。
多くの理学療法士や医療職が、「いま、なぜこの介入を選択したのか、この介入によって何がどうして良くなるのかを説明しきれて、なおかつその通り結果を出してこそかっこいいぜ」と思っている。
つまり、標的とする鍵穴を明確に特定(評価-問題点抽出)した上で、鍵をつくり(介入)、改善させることこそが善。
たとえば、歩行時のトレンデレンブルグ跛行が出現していて、中臀筋やその他Impairmentレベルの要因に問題がなかったとする。

じゃあ、鍵穴は『立脚期における大腿骨上の運動制御困難』だから、そこを賦活させるステップ練習をしよう!

とか、なるわけだ。
これは、畑の例でいうと、目的とする具体的な作物を育てようとする営みである。
だが、ここで大事なことがある。
土壌が固すぎたり、栄養がなかったとしたら、どうなるだろうか。
当然のことだが、それでは育たない。
アスリートがめっちゃ筋トレをしても栄養不足では糖新生が起こってしまうが如く、成長の需要があったとしても、そこに『栄養』という土壌が耕されていなければ、結実はしない。

そこで、神経における成長とBDNFの関係性である。
これはまさに、具体的な作物と土壌の関係性と類似した関係を持っている。
ある神経細胞に成長の需要があったとしても、そこにBDNFという栄養がなければ成長が生じにくい。
つまり、成長の『前提』なのだ。
アルブミンが筋肥大における前提条件であるように。

そして、BDNFの土壌を耕してくれるのが、『高強度有酸素運動』というわけだ。
そこには、具体的な作物をつくろうという意図はまだ存在していない。
むしろ、存在してはいけない。
まずは土壌を耕す、そこに作物を植える。
リハビリテーションにおいても、その順序を守りたい。
先ほどの例でいえば、
①高強度有酸素運動によってBDNFアップさせる(土壌を耕す)
②トレンデレンブルグ跛行を改善させるためのステップ練習(作物を植える)

この①→②によって、②の効果が保証される。
これからは、自分に問いかけよう。

いきなり改善させようとしているけれど、土壌は良質か?
成長の前提条件は、きちんと揃っているか?
土壌を耕すための介入内容は、組み込まれているか?

禁忌でない限りにおいて、高強度有酸素運動は全患者にデフォルトでいいかもしれない。

⬇︎ 𝕏での投稿✨

○●━━━━━━━━━━━・・・‥ ‥ ‥ ‥
良質なリハ医学関連・英論文抄読『アリ:ARI』
こちらから♪
↓↓↓

‥ ‥ ‥ ‥・・・━━━━━━━━━━━●○
#️⃣ #理学療法 #臨床研究 #研究 #リハビリテーション #英論文 #文献抄読 #英文抄読 #エビデンス #サイエンス #毎日更新 #最近の学び

この記事が参加している募集

最近の学び