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0.5話【Starbacks@恵比寿の恋】

0.5話:ドアと私と彼。

その日は海外のデザインファームとの電話会議が予定されていて、私の不手際で向こうと共有して見る資料がまだ出来上がっていなかった。

いつもより早く家を出て、オフィスで資料を仕上げようと思っていた。

6時45分、JR山手線が恵比寿駅について、まだ人もそこまで多くなく静かなプラットフォームに降り立つ。いつもなら上りも下りも1段の空きもなくぎっしり人で埋まるエスカレーターも、人と人の間に普通に4−5段のスペースが空いていた。

とても寒かった。ヒートテックのタイツを履いていても、容赦無く冷え切ったコンクリートが足の爪先から冷やしていく。スウェードのパンプスで少しこの冷えに対抗したつもりだったが、気休めにもならなかった。

マフラーに鼻までうずめながら東口改札を通る。

(オフィスに着いたら温かいハーブティを入れて飲もう。)

そんなことを考えながら足早にオフィス方面へ向かったが、気づいてしまった。うっかり今日はサーモボトルを忘れたのだ。

(しまった。慌てて出たから忘れて来ちゃったよ。ついてないなぁ。会議うまくいくかな、嫌な予感)

北風が容赦なく吹き付ける。ちょうどクローゼットの外に出たままにしていたラップコートを着てきたものだから寒い。あまり厚くないウール記事を北風が通り抜けて背中をどんどん冷やしていく。

そんな時に、いつも通りすぎるだけでなぜか寄ったことがなかったスターバックスコーヒー恵比寿ファーストスクエア店が目に入った。

前面ガラス張りの店舗で道路に面している作り。7:00開店の店内にはまだお客の姿は人っ子ひとりなかった。スタッフが開店準備を離れたここからみてもわかる手際の良さで進めているのが見えた。

右手首に視線を落として、時間を確認する。6:57。

途端に、キャラメルスチーマーが無性に飲みたくなったので、入ってみることにした。

通りを渡って店の前へ行く。全面ガラス窓のスタイリッシュな作り。が、あることに気づく。

「入口どこ?」

全てはめた窓のようになっていて、入口のドアーらしきものが見当たらない。

どこかに隠し入口か、隠し取手でもあるのかと窓の隅から隅まで見てみるが無い。窓の向こう、奥のレジカウンターにいるスタッフが不思議そうに私を見つめている。私は恥ずかしさのあまり、耳まで熱くなっていた。

お店の前を行ったり来たりしながら、お店が入るビルのオフィスエントランスも入って出てきたりと右往左往してドアを探す。

もう諦めよう、そう思った時一人の男性がお店に近づいてきた。

何の迷いもなく彼は


そう、



ドアを開けたのである。


隠し扉があったのかしらと本当に思った。そして彼は中に入るかと思いきや、こちらを見て

「入りますよね?」

凛とした雰囲気をした男性で、その雰囲気が今日のこの冷え込んだ冬の朝の空気に妙にぴったりだった。

「わかりにくいでしょ。ここ。一瞬入口わからないのも無理無いですよ。笑」

私は彼のその発言に固まってしまった。どうやら一部始終を見られていたようだった。

一気に顔が熱くなるのを感じたつつ、ドアを支えている彼の横を通り過ぎて中へ入る。横を通り過ぎた時、私の目線は彼の胸元の少し下であることに気づき、彼はとても背が高いことを実感した。

「あ、ありがとうございます…」

「いいえ。外寒いし、入ることができてよかったですね笑」

彼はにっこりと微笑んで、ドアから手を放す。

ゆっくりと静かに、ドアは私たちの背中で閉まったのだった。


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