ルールを知らないオーナメント|毎週ショートショートnote
妻と娘がクリスマスツリーに飾り付けをしている。普通なら微笑ましい光景なのだろうが、今の私の表情は「無」に近い。
私の実家には「飾り付けは一切してはならない」という決まりがあったので、クリスマスにも正月にも、何かの行事があっても、飾り付けというものを一切したことがなかった。実家だけではない。実家がある西日本のとある地域には、今もそういう風習がある。
「飾り物をすると、それを盗りに来る奴がいる」
そういう理由からだった。
――盗りに来る。
これは人間のことではなく、「人間以外の何か」のことらしい。ただ、解釈はいろいろあるようで、「飾り付けをしておけば、それだけを持って行くので、その家に災厄が降り掛かることはない」と言う人もいる。いわゆる「おとり」だ。
「あれー? パパ、クリスマスツリーの一番上にあったお星さま、知らない?」
「え? お星さま?」
一瞬、「知らない」と言おうとして、必死に耐えた。
「あーあれね……。パパが落っことして壊しちゃったんだ。ゴメンね」
「ひどーい! 気に入ってたのにー!」
「来年、新しいお星さま、買ってあげるから」
そう言うと、妻は「まったく。買えばいいってもんじゃないでしょ?」とチクリと刺す。
――誰か……いや、何かが盗って行ったんだな。
そう思いながら、私は「ゴメンゴメン」と謝った。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」、今週のお題は「ルールを知らないオーナメント」でした。
フィクションなので、もちろんそんな風習はない……と思います。
先週のお題は「台にアニバーサリー」でした。
ありがとうございます!(・∀・) 大切に使わせて頂きます!