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【書評】「アテンション・エコノミー」の時代を迎えたコンテンツ業界

きょうは『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ 』(笹原 和俊 著)の書評です。

2018年11月に科学同人から出版された、新しい本。ネット時代の情報・コミュニケーションや、フェイクニュースに興味がある初学者にはわかりやすい内容でした。きょうのポイントは3つです。

【目次】

①広告収入欲しさに作られた「デマ」

②誤情報は事実よりも遠く、深く、早く、幅広く拡散する

③コンテンツ業界に「アテンション・エコノミー」の時代が到来!?

④感想

①広告収入欲しさに作られた「デマ」

同書の冒頭は、2016年の米大統領選挙に関して。選挙の際に多くのデマが出回りましたが、その情報源となったWebサイトがどのように作られたのかということについて言及しています。(p.29)。

Webサイトの中には「広告収入を目的とするもの」が多数含まれ、東欧のマケドニアなどの米国以外の若者たちが、お金儲けのためにつくったサイトが100以上見つかりました。収入を得る仕組みは、作成したWebサイトをSNSで拡散⇒Webサイトを閲覧した人々が広告をクリックすることで利益が入る、というもの。クリックを稼ぐために、内容がどんどん過激になってしまうことは容易に予想ができます。

 「その行動は民主主義を壊しかねないほどの危険性をはらんでいます」と、著者は警鐘を鳴らしています。米国の世論を、遠く離れた東欧の若者たちが動かしている、しかも彼らの目的は「偽の情報を流すこと」とではなく「収入を得ること」だったというので、問題は大きいと思います。広告収入の仕組みは変えづらいので、情報を得る側のリテラシーを上げるという対策の方がやりやすいように思います。

②誤情報は事実よりも遠く、深く、早く、幅広く拡散する

同書では、2018年3月に、MITのメディアラボで発表された研究も紹介されていました(アブストはこのURLで読めます)。twitterのデータ分析によって、誤情報の連続リツイート数やその量、最大幅などを調べたところ、明らかになったのは……。

誤情報は事実よりも遠く、深く、早く、幅広く拡散する(p.45)

 著者はその理由について、他の調査結果と合わせて以下のように分析しています。

・虚偽情報の方が新規性を感じやすく、噂になりやすい
・誤情報に接した人が驚きや恐れや嫌悪などの感情を抱いて、情報共有を求める傾向がある

 北海道で地震が起きたとき、私のもとにも、「自衛隊の人が数日後に本震が来ると言っている」という趣旨のtwitterやLINEがまわってきました。まさに、上記の「恐れを抱いて、情報共有を求める」という状態になっていたのだと思います。

でもこれって、人間として当たり前の感情ですよね。「デマかもしれないけれど、念のため……」というメッセージが添えられてまわっていたものもあり、一概にその行為を非難する気にはなれません。人間の心を変えるのはたぶん不可能なので、フェイクニュースの拡散を防ぐ方法を考えるのはとても難しいことだと思いました。

 ③コンテンツ業界に「アテンション・エコノミー」の時代が到来!?

 フェイクニュースとは少し違う観点ですが、社会学者のマイケル・ゴールドハーバーが1997年に提唱した「アテンション・エコノミー」の考え方が検討されており、面白かったです。

アテンション・エコノミーとは

情報過多世界においては、人間のアテンションこそが希少資源であり、アテンションがお金の代わりに流通するようになるという考え方(p.135)

 様々なコンテンツおよびサービスが、生活者の時間を奪い合っている時代。 コンテンツ業界に身を置いていると、「アテンション・エコノミー」化は、もうかなり進んでいるという実感があります。社会的に必要な情報よりも、PVが多かったりバズった情報を出した方が稼げるし、嫌われない。

パターナリズム的なメディアが機能しなくなっている、という話をどこかで聞いた気がしますが、「アテンション・エコノミー」も、それと絡んだ問題かもしれないと思いました。「注目されないけれど大切な情報」というのが読者や視聴者に届きづらく、それではお金を稼ぎづらくなっているからです。じゃあそうした情報は、誰が収集して誰が発信するのか(マスメディアはその役割を担い続けられるの?)という話を考えなければいけない時代だと思います。

④感想

様々な学問領域をまたがなければいけない「フェイクニュース」の問題について、整理されていてよかったです。

生活上の疑問から学問につなげる場合「これを知るにはどの学問に手を付ければいいのか」というのが分かりにくいのですが、同書は具体的な学問の名前(社会心理学、計算社会科学など)を出してくれていたので、手がかりになりました。やはり計量は必須なんだろうな(数字ニガテどうしよう……)。

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