『50メートル走』(童話)
ついにやってきた。待ちに待った、ゆるゆる村の運動会。
50メートル走に出場するオイラは、今日のために練習を重ねてきた。牛乳配達のお手伝いもトレーニングだと思っていつもより頑張ったし、毎朝7時に起きてゆるゆる村のひろーい田んぼのあぜ道をジョギングした。
すべては、50メートル走でいちばんをとるためだ。・・もう誰にも「牛歩」なんて言わせない。
いちばんをとったら、子ヤギのメ~テルさんが「モースケくん、かっこいい」と言ってくれるはずなのだ。そんなことを想像していると、「ウッシッシ」と思わずにやけてしまった。
*
運動会も中盤を迎えようとしていた。
「次の種目は50メートル走です。出場する方は入場門までお越しください」
大会本部からアナウンスが流れてきた。よぉーし、ついにオイラの出番か。今日までの練習の成果を見せなければ!
50メートル走のスタートラインにオイラを含む5人が並んだ。メンバーは右から順に、ねずみのミッチーくん、ネコ型ロボットのエモンくん、雷の妖精カッチューくん、子ブタのポルコロくん、そしてオイラ。
こうしてメンバーを見ると、今年のオイラは組み合わせに恵まれたかもしれない。強いて言うなら、ねずみのミッチーくんは手強そうだ。まあ、名犬バトラッシュくんとダンゴムシのオームくんが、同じ組にならなかっただけでも運がいい。
いよいよ、勝負の時。横一列に並んだ5人がスタートの体制をとった。
「よ~~~~~い、ドン!」
スタートと同時にネコ型ロボットのエモンくんの足がもつれて、ずっこけた。それに巻き込まれて、子ブタのポルコロも丸い体でころころ転がった。
オイラは、短い足でぺたぺたぺたと地面を叩きながら走り出した。ぺたぺたぺた・・・。
ねずみのミッチーくんは好スタートを切って先頭に立った。その後ろに、雷の妖精カッチューくんとオイラが負けじと食い下がる。
体の小さなカッチューくんは歯をくいしばりながら肩をぶつけてきた。体重なら負けていないオイラは肩で跳ね返した。カッチューくんが減速した隙に、突き放そうと、モーれつに足を回転させた。ペタペタペタッ!
差がどんどん開いてくると、カッチューくんが必殺技の構えを取って、両耳から雷ビームを出してきた。ビビビビビッ。「やばい!」と思って咄嗟にジャンプで交わすと、雷ビームはそのままミッチーくんの方へ飛んでいった。
「ぐわあああああ」
背中からもろに雷ビームを受けたミッチーくんは体中がビリビリとなって服がボロボロになった。それでもミッチーくんはスピードを落としつつも倒れずにそのまま走り続けていた。なかなかの根性だ。
チャンスとばかりに、オイラはもモウ然とダッシュして、ミッチーくんを追い抜かした。ついに、体ひとつ分先頭に立った。あと20メートルくらいだ。よしっ、このまま行けば勝てる。
「せ〜の、みっちーファイトォォ〜〜〜!」
客席の方から黄色い声援が聞こえてきた。子ねずみのミッチー親衛隊だ。ミッチーファンの女の子たちが全力で声を出していた。それを聞いたミッチーくんの体にはみるみる力がみなぎってきて、一気に僕を抜き返した。
やばい、このままじゃ負ける。僕は腹巻きの中に隠し持っていた牛乳瓶を取り出してのどに流し込んだ。ごくごくごくっ。
「ミルクパワー!」
ぺたぺたぺたっ。短い足の歩幅が広がってぐんぐん速度が上がっていく。ミッチーくんと横に並んだ。ゴールまであと5メートルだ!
「ミッチーくん、キミには負けられないんだ!子やぎのメ〜テルさんが見てるからね!」
「モースケくん、僕だって負けられない。親衛隊のみんなの思いを背負っているんだ!」
その時だった。ゴールの1メートル手前あたりにピンク色のドアが現れた。ドアがガチャッとあくと、ネコ型ロボットのエモンくんが出てきて、いちばんにゴールテープを切った。
「ええっ!エモンくん!?」
2着には、接戦の末、オイラが入った。3着はねずみのミッチーくん。4着は雷の妖精カッチューくん。5着は、そのまま転がってゴールした子ブタのポルコロくん。
なんだか納得のいかない気もするけれど、みんな正々堂々といい走りを見せた。みんなが勝者だ。ゴール後、オイラたち5人は、みんなで健闘をたたえあった。さわやかな汗とすがすがしい時間がそこにあった。
オイラは持てる力を全て出したのだ。子ヤギのメ〜テルさんの前でいちばんはとれなかったけれど、悔いはない。
「モースケくん、おしかったね。でも、すごくかっこよかったよ」
誰かの声がして振り返ると、メ〜テルさんがにこにこしながら立っていた。ミッチーは「よお、モースケ、やるじゃん!」と肘をわき腹にツンツンしてきた。くすぐったかった。
子ブタのポルコロは羨ましそうにこっちを見ていた。カッチューくんは悔しかったのか泣きながらママの方へ走っていった。エモンくんは胴上げで宙に舞っていた。オイラは、うれしさが隠しきれずに大声で笑ってしまった。
「ウッシッシ、ウッシッシッシ、ウッシッシッシッシ・・・」
(了)
読んでもらえるだけで幸せ。スキしてくれたらもっと幸せ。